「海みたいって言えばよかったんやな。」
そう呟くと、波に白い足を遊ばせていた男がこちらを向いた。
「何を?」
「オドレの目。」
「言えばよかったって?」
「昔の話。」
昔——あの星で生きた内には他に見たことの無い、翠に青が射した虹彩。
それをどう好ましく感じているか、この男と相通ずる綺麗なものに喩えて伝えたかったが、生憎そんなものに触れられる生き方はしてこなかった。
「あの頃は上手い喩えが見つからんかった。」
「へえ?口説こうとしてた、みたいな言い方じゃない。」
「良いと思うところは伝えるタイプなだけや。」
「はいはい、よく知ってるよ。笑ってる方がええって言われたしな!」
皮肉っぽい口調に反して明るく笑う。空っぽじゃない、好きな笑顔だ。
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