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    shi64roshi6

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    大マリ前提のモブのはなし(飽きた)

    入学式が終わってすぐに電話をかけた。友達からはガソスタなんてやめておけば、なんて言われたりもしたけれど絶対にここでアルバイトをするって決めていたから迷う事はなかった。履歴書の志望動機にはここで働く先輩達の笑顔が素敵だったからと書いた。

    「今日から、だよね?小波美奈子です。先輩って言っても半年くらいだから……あんまり頼りにならなかったらごめんね」

    初めての出勤日、少し照れながらそう挨拶をしてくれた先輩は可愛らしい人だった。雑談の中ではば学生だと言うことを知った。思わずはば学生なのにこんなところでバイトするんですか?なんて失礼な事を言ってしまったけれど、小波先輩は「前にも同じこと言われた」と笑っていた。

    一通り外の案内を受けた後、次は中の説明だねと事務所の前に立つ。こん、こん。扉を二回叩くと、奥の方からはぁいと声がした。小波先輩は小さな声で白羽くんだ、呟いてから「失礼します」とドアノブを回した。
    憧れの人に会える待望の瞬間はもっとドラマチックだと思っていた。世界がスローモーションになって、きらきら輝いて……とまでは言わないけれど、もっと嬉しくてドキドキしたり緊張したりするのだと思っていたのに、私はそんな事よりも扉の奥から聞こえてきた、たった三文字の音を愛おしそうに受け取る小波先輩のことの方が気になった。

    「オレは白羽大地言います。困った事とか分からへん事があったらなんでも聞いてな」

    そう言って笑う白羽先輩は、ガラス越しに見るよりずっとずっとカッコよかった。

    父はこのお店の常連だった。私は家族で出掛けた時に数回寄ったことがある程度。茹だるほど暑かったあの日も、急な夕立に降られたあの日もいつだって笑顔だった。この人のことをもっと知りたい、話してみたい。一目惚れ、というには少し大袈裟かもしれないけれど、白羽先輩の笑顔に惹かれたのは紛れもない事実だった。
    とは言っても両親がいる手前、積極的に話しかけることも出来なければ中学生が一人でガソリンスタンドに通うことも出来ない。だから私はアルバイト募集中と書かれたチラシの電話番号をスマホにメモし、ネームプレートに刻まれた「白羽」の文字を忘れないように目に焼き付けた。あの頃の自分が、少しだけ報われた様な気がした。



    桜の花びらが新緑へと変わった頃、小波先輩は「白羽くん」から「大地くん」へと呼び方が変わった。私も大地先輩って呼んでいいですか?と尋ねてみた。大地先輩はもちろんと笑って頷いてくれた。
    傘の出番が増えてきた頃には大地先輩のため息の数も増えてきた。悩みがあるなら聞きますよ、と伝えたら大地先輩はおおきにと笑ってくれたのに、梅雨が終わって空が晴れても、大地先輩が私に何かを相談することはなかった。

    「小波先輩って、大地先輩と付き合ってるんですか?」
    隣のロッカーで帰り支度をする小波先輩に、そう聞いてみた事があった。一瞬戸惑ったように手を止めて、少しだけ視線を落として考え込んで、ううん、と首を横に振った。
    「付き合ってるとか、そういうのじゃないよ」
    「……じゃあ、片思い、ですか」
    どっちの、とは聞かなかった。
    「どう、なんだろうね?……ごめんね。わたしにはそういうの、まだ良くわかんないや」
    「……私、大地先輩のこと好きなんです。一目惚れして、バイト始めたのもそれがきっかけで、ずっと憧れてて、だから、「続きは」」
    「……続きはわたしじゃなくて、本人にちゃんと伝えた方がいいと思うよ」

    小波先輩は私の言葉を遮ってそう言うと、じゃあまた来週ねと手を振りその場を立ち去った。

    「……言われなくてもわかってるし」

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