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    わたる。

    @yamasorakakeru

    過去ログとその他もろもろ

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    わたる。

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    大怪我しちゃうガネットくんと、そんなときに三人がどうするかのお話 捏造たくさん

    よんぶんのいち「ガネット!!目をつぶるな!!開けてろ!」

    うるせえよアンバール…頭に響くだろ

    「ガネット、今止血してるから、大丈夫だからな」

    なんだよカイヤー、そんな必死な声出して

    「応急処置したらすぐにレクス先生のところに連れて行くぞ!」

    ペリードもそんな深刻そうに叫ぶなって…

    「ああクソッ!俺の治癒魔法じゃ追いつかない、ガネット!俺の声聞こえてるよな!?」

    だから聞こえてるっての…

    「駄目だガネット!目ェ閉じるな頼む」

    大丈夫だから アンバール

    そんな情けない声出すなって

    …眠いな…




    依頼の内容は大したことが無かった。ランクC程度の魔物の討伐。人家の近くに住み着いてしまったそれを狩ってほしいという、極めて普通の依頼だった。
    ただ、ギルドに依頼された内容と実際の内容のレベルが食い違うということもよくある。だからこそ冒険者たちは常に備え、予想外の事態にも対応できるようにしているのだ。
    ガネットは依頼された森の中に入る前に、自身を含めたパーティー全員に防御強化魔法と自動治癒魔法をかけておく。2つの魔法はかけた時点で、それぞれ個人の魔力に応じて発動し、効果を示す。よほど酷いダメージを受けない限りはその効果が切れることはない。四人はいつでも戦闘に入れるように辺りを見渡しながら魔物の姿を探した。しかし、言われた場所に辿り着いてもその姿は見つけられない。

    「他のパーティーと依頼が被ったのか?何もいないな」

    アンバールはきょろきょろと首を振りながら魔物を探す。ほとんどの魔物は夜行性であるため、四人は夜遅くになってから行動を始めている。暗い森の中は照明魔法の光だけでは遠くまで見渡せずに、夜独特の静けさと夜風が肌を撫でる。サワサワと草木の揺れる音と虫の声しか聞こえない。

    「だとしたら村に来た時点で断られるだろ。ダブルブッキングはしてないはずだ」

    そういうカイヤーも辺りを見ながら気配を探る。

    「にしても、ずいぶん静かだな?獣の匂いもしないし…おわっ!?」

    ペリードが先行しながら歩いていたが、突如足元を何かに引っ掛けてつまずいた。転びそうになるがバランスをとってつまずいた何かを飛び越えた瞬間に、

    「戦闘陣形をとれ!」

    後ろにいた3人に向かって叫んだ。同時にペリードも武器を構え後ろを振り返る。ペリードがつまずいたのは、魔物に襲われた他の冒険者パーティーの死体だった。流れた血で地面が湿っている。アンバールは剣を構え、ガネットは杖を握り直す。カイヤーは戦闘の邪魔にならないように死角の少ない場所を見つけるとそこに跪く。

    「殺られてる!近くにいるぞ!!」

    ザッと死体の状況を見るに、食い千切られたというよりは切れ味の良い刃物で斬られたような傷跡が見える。
    倒れている者たちの装備を見るに駆け出しの冒険者のようだ。ランクCであれば駆け出しでもしっかりと準備をすればこなすことは可能だ。しかし一人残らず倒れていることを考えると、恐らくギルドのランク付けが間違っていたと考えるべきだろう。

    「ガネット!ライトをもう少し増やしてくれないか─」

    ペリードがガネットに照明術を増やして欲しいと依頼しようとそちらを向き、

    「後ろだガネット!!!」

    忍び寄っていた魔物の姿に気付いて叫び声をあげた。
    ガネットは咄嗟に振り返り攻撃に備えようとしたが、いかんせん相手が悪かった。人の反射速度では避けきれない一撃がガネットの首を切り裂く。瞬間、血が噴き出すよりも早く自動治癒魔法が発動し、たった今切り裂かれた喉はほとんど流血することもなく、みるみるうちに塞がっていく。とはいえ喉の怪我だ。術者に一番大事な声を潰されたことで詠唱が出来なくなったガネットは、杖に込めてあった緊急用の攻撃魔法を敵にぶつけようと、

    構えたつもりの腕が、杖ごと遠くに落ちるのを見た。

    「えっ…」

    ガネットは思わず間抜けな声を出してしまう。
    防御強化魔法の効果が効いていないわけではない。
    相手の攻撃が効果を上回った。切断された腕から血が噴き出す。自動治癒魔法の効果もまた、傷に対しては威力が少なすぎた。ぐらりと目眩を起こしたガネットは、その場に崩れ落ちる。

    「ガネット!!」

    膝をついたガネットを切り裂こうと迫る魔物の一撃を、アンバールの剣が弾き返す。ギインと鈍い音が響き、攻撃を防がれた魔物はアンバールから距離をとった。ガネットは痛みに冷や汗を流しながらも、ライトを唱えると視界にありったけの照明術を配置する。
    光に照らされて見えたその魔物を見たカイヤーが、大きく舌打ちをした。

    「鎌イタチだ!ちくしょう、何がCランク程度の魔物だ!?コイツは一匹でもAランク相当だぞ!」

    鋭い鎌のように進化した前脚を持ち、立ち上がれば成人男性くらいの背丈になるイタチのような姿をした魔法動物。凶暴な性質ではないが、ツガイで行動し繁殖期になると縄張りに入ったものには容赦なく襲いかかる。何故こんな危険な魔物が人家の近くに来たのかも、ギルドにCランク相当と依頼ミスがあったのかもわからないが、一匹いるということはもう一匹も近くにいる。四人はすでに見えている一匹を警戒しながらもう一匹を探す。
    ガネットは必死に止血のために魔力を込めるが、痛みと出血により頭がうまく回らなくなってきているのを感じていた。

    「アンバール、鎌イタチは、獣型の奴らは…総じて火に弱い…火を…」

    治ったばかりの喉が、かすれた音を出す。火の術を使えと最後まで喋ることが出来ずに、ガネットは地面に倒れ込んだ。3人は同時にガネットの身を案じて叫ぶ。止血が完全に出来なかった腕からはゆっくりと血が流れ続ける。早く治療をしないと腕はつかなくなるし、何より失血死してしまう。ペリードは周りを警戒しながら急いでガネットの腕と杖を拾ってくると、武器を構え直す。

    「アンバール、まずは見えてるヤツを先に倒そう。片割れが倒されればもう片方も出てくるはずだ」
    「りょーかい。そしたらペリードはガネットを守っててくれるか。火に弱いなら俺一人でもどうにかなりそうだし」

    アンバールはガネットのかけてくれた防御強化に更に自分の術を重ねがけする。相手がAランクの魔物ならば出し惜しみしている場合ではない。肉体強化と自動治癒、更に俊敏上昇の魔法をかけると、鎌イタチを見据え一気に距離を詰める。鎌イタチはアンバールが近付いてきた事で威嚇の唸り声をあげながら前脚を振りかざした。ボソボソとアンバールが何かを呟くと剣の刀身に燃え盛る炎が纏わりつき、赤く輝いた。火属性付与だ。

    「さてと!…やっちゃうか」

    アンバールは息を吐き、剣を構え直すと、足を踏み込み素早く鎌イタチの懐へと入り込んだ。鎌イタチは炎を警戒して全身の毛を逆立て牙を剥きながら唸る。勢いよく振られた鎌イタチの前足を器用に避けると、アンバールは狙いを定めてその前脚を切り飛ばした。鎌イタチは痛みに吠え残る一本の前足でアンバールを狩ろうと飛びかかってきたが、それもまた器用に避けると振り返りざまに残っていた前足も勢いよく切り飛ばす。攻撃手段を無くした鎌イタチは、悲鳴のような鳴き声をあげながら踵を返すが、アンバールはその背中に追いつくと剣を容赦なく突き立てた。断末魔をあげながら倒れる魔物が地面に倒れて動かなくなる。途端、どこからともなく咆哮が響き渡った。ビリビリとした魔物の殺気が肌を威圧する。つがいの片割れだろう。姿を見せないのは何か理由があるのか分からないが、アンバールは効果が切れかけていた魔法一式を再度唱え直すと、相手が来るのを待った。ほどなくして、重たい獣が地面を駆けてくる音が耳に入る。

    「ペリード!加勢してくれ!」
    「おうよ!」

    現れた鎌イタチの片割れは、先ほどのものより2倍くらい大きかった。もしかしたらさっき倒したのが雌で、今怒り狂っている個体が雄なのかもしれない。全身から発する殺気は、対峙するペリードとアンバールの肌を震わせた。

    「カイヤー!ガネットの腕の止血を頼む!」
    「任せろ!魔物は2人に任せたぞ!」

    アンバールはガネットの方をちらりと見ながら、カイヤーがそのそばに付いたのを見ると、魔物に向き直す。
    一触即発の空気の中、じりじりと間合いを取りながらアンバールはペリードにたずねた。

    「にしても、こいつらってこんな人里近くまで降りて来るんだっけ?まあよく知らないけど」
    「俺も魔物の生態にはそんな詳しくないけどな、ただAランクに該当するような魔物がいたなら普通はもっとちゃんとした対応がされるはずなんだが…」
    「だよなあ?」

    アンバールは、どうにも符が落ちない顔で首を傾げながら、感じる違和感の正体を掴もうとする。
    等級ミスの依頼。依頼を続ける村。依頼に誘われてやってくる冒険者。

    「あ!なんか俺分かったかも!わかってないかもしれないけど、ここは任せたペリード!」
    「は!?」

    言うやいなや、アンバールは魔物が来た方向に向かって走り出す。アンバールが動いた事で鎌イタチも戦闘開始と見たのか、ペリードに向かって突撃していく。金属と鎌の前脚が打ち合う音が森に響き渡った。それを耳に入れながらも、アンバールは森の中をひた走る。予想が当たっていれば恐らくこの先に、

    「見つけた!!テメェ!!」
    「ヒッ!?」

    木の影で姿を隠すようにしてこちらの様子を覗いている人物がいた。アンバールは抜き身の剣で斬りかかろうと振りかぶり、相手が防御しようと思わず目をつぶったのを見て剣を放り投げると拳を握り、走ってきた勢いのままに相手の顔をぶん殴った。助走のついた拳にすっ飛ばされた人物は、歯とか鼻血とか色んなものを撒き散らしながら地面に二回ほどバウンドした挙げ句に地面に倒れ伏した。それでも気絶はしなかったのか、目を回しながら呻いている。アンバールは放り投げた剣を拾い、倒れた人物に近付くとそれの胸ぐらを掴み静かに言う。

    「初心者狩りか?今すぐあの魔物を止めろ」
    「も、もう止まらないよ…」

    ガタガタと震えながらアンバールに答えるその人物は、魔物使い<テイマー>だった。まだ年の頃は10代後半ぐらいに見える。偽の依頼を出してやってきた駆け出しの初心者たちを狩り、所持品や金品などを奪っていたのだろう。村からの依頼であるならば、村ぐるみの犯行か、もしくは村の依頼を騙ったか。

    「はぁ!?何で止まんねーんだよ!お前が飼い主だろ!?」
    「い、今だって、止めようとしたんだ…けど、お前たちがつがいの片割れを殺しちゃったから…」

    泣きべそをかきながら言うテイマーに舌打ちすると、アンバールは手を離し来た道を急いで戻る。ペリードは優秀なタンカーだが、なにぶん長期戦が苦手だ。案の定、アンバールが到着するころには汗をびっしょりかきながら肩で息をしていた。

    「おま…!アンバー…!ど、どこに行ってた…っ!!」

    ぜえぜえと荒い息をしながら文句を言うペリードに、悪い☆とウインクを飛ばして謝ると、ペリードの顔に怒りの筋が増えた気がしたが見ないことにした。

    「後で説明する!今はとにかくこいつを討伐するぜ!!」

    アンバールが後ろから斬りかかり、ペリードも正面からアタックをかける。怒りで我を忘れた鎌イタチは、先程より動きも威力も桁違いではあったが、ペリードと連携をとって戦うことでなんなくとどめを刺すことが出来た。ふぅ、と一息ついてアンバールもペリードも武器をしまう。

    「アンバール!ペリード!」

    カイヤーがひっ迫した声で二人を呼び、2人はびくりと体を震わせると急いでカイヤーとガネットのもとに走り、しゃがみ込んだ。

    「止血は!?」
    「してるんだけど、止まらないんだ。あいつらの鎌、何か毒でも塗ってあったのか?解毒薬…いや、処方が違ったらまずい…」

    ぶつぶつと呟くカイヤーが必死に動脈圧迫するなか、ガネットの斬られた腕からはじわじわと血が滲み続け、巻かれた包帯は赤く染まっていく。

    「ガネット!!」

    アンバールがガネットを呼ぶと、ガネットの瞳が動き、声は出ないものの、口がわずかに動いている。
    まだ意識はある。しかし、その目が閉じかけているのを見て、アンバールは再度声をかけた。

    「ガネット!!目つぶるな!開けてろ!」

    眉間に寄せたしわを一層濃くしながら、ガネットの目が開く。それでも瞳は明らかに焦点があっていない。

    「ガネット、今止血してるから、大丈夫だからな」

    カイヤーは必死に要所要所を圧迫し、布で応急処置をしていく。見かねたアンバールが治癒を使用するが、焼け石に水だ。アンバールは処置が終わったガネットの体を背負うと、落ちないように外套で包む。

    「すぐにレクス先生のところに!」
    「ガネット!俺の声聞こえてるよな!?」
    「腕と杖ちゃんと持ったか!?ああほら布で包んで冷やして!」

    普段はガネットがしてくれる治療や解毒が無いだけで、こんなにも恐怖があるのかと改めて3人は思い知る。
    村にいたぼったくりテレポーターに金をぶん取られながらも、3人は大急ぎでレクスのいる街へと走った。

    目が覚めると、知らない天井が目に入った。
    ガネットはゆっくりと首を動かして辺りを見回す。
    つんとした薬品や独特な匂いがすることを考えると、診療所かどこかだろうか?そこまで考えて、ガネットはハッと何かに気付き毛布をめくる。すっぱりと切断されたはずの腕は、その形跡すら残さないくらい綺麗に接合されていた。レクス先生のところへと言っていたし、ならばここはレクス医師の診療所だろうか。ガネットはまだ重い体をそっと動かしながらベッドの上に半身を起こした。酷い失血があったからか、眼の前が貧血を起こしてモヤがかかる。まだ当分動かないほうが良さそうだなとぼんやり目の前の壁を眺めていると、ガチャッと音がして部屋のドアが開いた。

    「おっ、起きたか?」

    褐色の肌と、血のように赤い髪の女性が入ってくる。知らない人物だったが白衣を羽織っているなら医療従事者だろうとガネットがぼーっと眺めていると、女性は「ジジイ…先生呼んでくるから待ってな」とすぐに出ていってしまった。今が夜なのか朝なのかも分からない。どれくらい時間が経ったんだろうか。まだまだ眠気もあるため、ふぁ、と大きなあくびをしたところで見知った男性がやってきた。

    「おはよう。よく眠れたかい?」
    「レクス先生」
    「災難だったね。腕と首は違和感は無いかな?傷の断面から血液凝固を防いでしまう毒が入り込んでたから解毒もしておいたよ。それに、だいぶ血を流していたからまだまだ体が重いだろう。」

    レクスは的確にガネットの疑問であった部分を一つずつ説明していく。切られた首も改めて治療してくれたのか、詰まるような感じが消えている。

    「大丈夫です、ありがとうございます。あの、俺の仲間たちは…?」
    「ああ、君を必死に運んでヘトヘトになっていたから、近所の宿屋をとるように伝えたよ。朝に君の様子を見に来るように伝えたから、そろそろ来るんじゃないかな?」

    ということはもう朝なのか。昨晩の記憶は腕を切られたあとからだいぶ朧げで、事の顛末がどうなったのかも分からない。

    「さて、賑やかになるまえにちょっと触診するよ。腕と首を見せてね」

    レクスは治療箇所を見ながら、傷がないか接合に引き攣れが無いかなどを丁寧に見る。

    「うん、問題なさそうだ。昨日、君の仲間が腕を持ってきた時、ちゃんと保存されてたのが良かったんだろうね。過去の教訓かな」
    「以前は本っっっっっっ当にご迷惑をおかけしました」
    「ははは、慣れてるよ。あれのおかげで君の腕が今回無事だったならそれでいいんじゃないかな?」

    なんて心の広い人なんだろうとガネットは改めてレクスに感謝した。しばらくすると、ドヤドヤと複数の人数がやってくる音が聞こえる。

    「ほら、来たみたいだよ。さて、私は医務室に戻るけど、何かあればベルマ…うちの助手に声をかけて。一応感染症の心配もあるし、薬を処方するから5日間はちゃんと飲んでね」
    「はい。常々お世話になりました」
    「血も足りないだろうから、夕方まで休んでいくといいよ」

    そういってレクスは部屋を出ていった。
    入れ替わるように部屋の扉からアンバール、ペリード、カイヤーが入ってくる。3人は起きているガネットを見ると、くしゃりと泣きそうな顔になり一斉にガネットに抱きついた。

    「ヨカッターーー!!!!生きてるーーーー!!!」
    「ガネットーーー!!!」
    「無事で良かったあああーーー!!!」
    「うるさいお前らほんとうるさい。なあここ病院だから静かにしろマジで」

    3人はひとしきりガネットの無事を確かめてわいわいしていたが、賑やかすぎるからちょっと静かにしてねと言いに来たレクスの一言で驚くほど静かになる。
    静かになったところで、ガネットは昨晩の事の顛末を説明してもらうことにした。

    もともと、依頼が出された村の近所にランクC程度の魔物が出現して困っていたのは本当だった。問題は、その魔物も今回の犯人であるテイマーがわざと徘徊させて問題を起こし、それが分からないようにしておいて村に討伐依頼を出させていた。ギルドは村の依頼を引き受け、それを見た冒険者たちは任務にやってくる。駆け出しの初心者たちはAランクの魔物に勝てずに行方不明になる。依頼が完了することはなく、次のカモがやってくる。それを繰り返していたらしい。

    「そんな明らかにおかしい内容を、ギルドも村も気付かなかったのか?」

    ガネットは不思議そうにたずねるが、その疑問にはカイヤーが答えた。

    「村にギルドの一つでもあれば違ったかもしれないけどな。魔物の種類がなんだろうが、冒険者が新人だろうが熟練だろうが、村人からしたらさ、問題さえ解決すれば構わないんだよ。城下町みたいなデカいとことか、領主がいるようなとこならともかくなぁ…」

    カイヤーは商人らしく、この世の世知辛さを語るとため息をついた。ガネットはそれを聞いてなるほどなと納得する。言われてみれば今回の任務も、内容に対してずいぶんと報酬が不釣り合いだったことを思い出す。何かおかしいとか釣り餌である可能性を考えていなかったわけではないが、相場を知らない村がそういった報酬を出すことは時々あるため、今回のケースもそれだろうとどこか安易に考えていた。

    「依頼を受けた俺の判断ミスだな、すまない」

    ぺこりと頭を下げるガネットに、3人はきょとんとした表情をしたあと、一斉に首を横に振ると反論した。

    「何言ってるんだよ!?俺達だって同意したから任務に向かったんだろ!」
    「ガネットの独断じゃないよ!?!むしろガネットがいなかったら俺たちだけで任務完了は無理!」
    「リーダーのせいじゃないだろう!!皆で騙されたようなもので」
    「お前ら待て声がでかい」

    ガネットが注意しおわるか終わらないかのところで、部屋の扉が静かに開く。口は笑っているが目が笑ってないレクスがソッと顔を出すと、人さし指を口に当てて「診療中だからね」と言って戻っていった。

    ガネットは大きくため息をつくと、もう退院したほうが良いと判断する。大の大人が子供みたいに二度も怒られるというのは、さすがにレクスに申し訳なくなってきた。

    「なあ、助手さんに声をかけてきてくれないか?もう退院するよ」

    ベッドから降りようとするガネットを3人は無言で止めると、ヒソヒソ声で説得した。

    「休んでてくれ」
    「俺らはまだギルドの手続きとかあるし」
    「買い出しとかもしてくるからさ」

    と、ガネットは有無を言わさずベッドに戻される。3人は、退院する夕方にまた迎えに来ると言って部屋を出ていった。それと入れ違いに、今度はベルマが入ってくる。手には紙袋を持っており、ガネットにそれを手渡すと中身を説明した。

    「これ、1日一回朝飯のあとに飲めってさ。5日分、小さい瓶が5本入ってる」
    「ありがとうございます。助手さん、以前俺達が来た時は居なかったですよね。最近勤め始めたんですか?」
    「ん。まあな。そんなとこだ…」

    特に会話が発展することはなく終了する。ベルマは用事は済んだとばかりにすぐに部屋から出ていった。ガネットはすることが無いので、体をベッドに横たえる。ゆっくり息を吸って吐くと、眠気が静かに忍び寄る。まどろみの中で、ガネットは運ばれているときの記憶を思い出していた。声をかけ続けてくれていたアンバール。最短ルートを導き出して案内するカイヤー。ガネットの腕を大事に運ぶペリード。

    「…いいチームワークじゃないか」

    それでも今回の件で思い知った。
    油断していたわけではないが、四人でいればどうにかなるだろうという慢心はあったかもしれない。ガネットは改めて自分のスキルアップを強く思う。せめて重症を負っても、自身の技で治癒が出来るくらいには。
    ガネットは目を閉じると、これからのことを考えながら眠りに落ちていった。





    「治療費が足りない!!!???」
    「ガネット声がでかい!」
    「た、足りないとは言ってない!!」
    「みんな静かにしろ!!」
    「いやお前ら全員うるせえわ静かにしろや」

    ガネットの叫びを皮切りに残りの3人も叫んでしまい、ベルマのドスの効いた低い声に止められる。
    四人は手で口を塞いで一旦深呼吸すると、改めて事態を確認する。夕方になり迎えに来た3人から着替えと杖を受け取り退院の支度をしている最中に、ガネットはとんでもない報告を受けた。

    「いや、だって、お前ら、え?何で?今回の報酬は??」

    今回の依頼は魔物討伐だったが、原因となっていたテイマーは指名手配者だったらしい。村だけでなく、ギルド連合からの謝礼も貰うことが出来たとつい今しがたカイヤーが嬉しそうに報告してくれたのだが?

    「その…ガネットが無事だったのを見てさ…俺たち皆すごい安心してさ…」
    オロオロしながら弁明しようとするアンバール。
    「で?」
    極めて冷静に返事を返すガネット。

    「ガネットが戻ってくる前に、その、前夜祭的なさ…」
    明後日の方向をを見ながら、ボソボソと喋るペリード。
    「なるほど?」
    ガネットの周りの温度が下がった気がする。

    「報酬もガッポリ貰えたし、ちょっとくらいいいかなーって」
    へへへ、と頬をかきながら苦笑いをするカイヤー。
    「ちょっと?」
    ガネットの眉間のしわが深くなっていく。

    「・・・・・で、足りないわけではないってのは?」
    ガネットの声はとても淡々と、静かに発せられる。
    誰が言うべきか3人は目配せする。カイヤーとペリードは2人でアンバールを睨みつけると威圧した。アンバールは青ざめながら覚悟を決めると、絞り出すように声を出した。

    「ガネットの治療費分残して、今回の報酬全部使っちゃった・・・・・」

    聞き終わったガネットは目を閉じ、ふ、と笑みを浮かべる。そしてゆっくりと目を開けると言い放った。

    「パーティー抜けていいか?」
    「「「やだあ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!」」」
    「静かにしようね君たちーーーー!!」
    3人の悲鳴とレクスの怒号が響き渡り、今日も今日とて、魔法医レクスの診療所はにぎやかであった。
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