バレないようにしたつもりなのに やっぱ、敵わねぇな。俺は全力で足音を殺して全力で息も止めて、そんで絶対に起こさねぇように布団をめくったつもりだったのに。
円城寺さんがそっと寝返りを打った。そうだ、しかも死角から近付いたつもりだったんだぜ。
さすが円城寺さんだ。
「……タケル? おやすみ」
薄く目を開いて、円城寺さんは囁いた。円城寺さんの、柔らかくて低い声。それに柔らかい笑顔……その表情、好きだ。俺の方を向いている。
「なんで俺だってわかったんだ?」
「さあ……なんでだろうな?」
半分夢の中みてーな声で円城寺さんが答える。俺も小声で喋ってる。円城寺さんが完全に目、覚ましたわけじゃないのはわかってる。騒がしくして、これ以上睡眠の邪魔をしたくはない。
だから俺はめくった布団の中にできるだけゆっくり、音も振動も立てねぇように入ろうとしてたんだが。
「タケル、おいで」
早く、だってさ。夢うつつの声で、そう言わんばかりに円城寺さんは自分の隣をぽんぽんと叩いて誘ってくる。それで俺は一も二もなく性急になって、円城寺さんの隣に潜り込んだ。
布団の中、円城寺さんの体温でぬくまってる。円城寺さんがあったかい。
って思う間もなくだ。
どん、と布団と円城寺さんが揺れた。
「うお……っと、れーん」
ちょっと目が覚めた声で円城寺さんが言う。俺の方からはアイツは見えない。つーか俺はアイツが近付いてきてたのにも気付けなかったのか……。
「オマエ、寝るなら寝るでもっとゆっくり寝ろよ」
「ア?」
円城寺さんの背中の向こうから乱暴な返事が聞こえた。俺の方向いてた円城寺さんは背後を振り返ろうとしたが……アイツがいて動けなかったんだと思う。でも円城寺さんは背中のアイツに向かって少し笑ってた。
円城寺さんが笑うと、俺にもその振動が伝わってくる。小さく吹き出した程度でも、円城寺さんの胸が上下した感覚が、擦れて、気持ちいい。
「これじゃ寝返りも打てないな」
そう笑って、円城寺さんはまた目をつむった。アイツは返事しない。俺も、眠い。