匂いが好き 帰ってくるなり、「おかえり」の途中で押し倒された。二人がかりだ。でなくても、なんだか少し拗ねたような顔を並べられると抵抗できない。拗ねさせてしまった原因に心当たりはないんだが。
二人に上に乗り上げられて、体温も二人分だ。クーラーは付けているとはいえ、汗があちこち滲んできた。
額を手の甲で拭う。本当はもっと別なところが、濡れている。
「……そうしてると、お前さんたちも暑くないか?」
「あちぃ」
「いや、俺はこのくらい平気だ。コイツと違って我慢できる」
「ハァ? らーめん屋が暑苦しいっつーだけでオレ様だってヨユーだっつーの!」
「この距離で喧嘩しない。今日はいったいどうしたんだ? なんだか積極的じゃないか」
「別に」
「なんでもねー」
理由を尋ねてみても、二人とも口をツンと尖らせそっぽを向いてしまう。その動きが一瞬シンクロしていた。やっぱり喧嘩をしてても仲良しだ。
「だらしねー顔でニヤニヤしやがって」
「お前さんたちがあまりにもかわいいからだ。まだもう少し、こうしてるか?」
「ん……」
タケルが頷く、漣が鼻を鳴らす。その背中をそれぞれ撫でてやると、どちらもだんだん脱力して自分に完全に体重を預けてきた。タケルは自分の上で猫のように溶けて胸に頬をぴったりくっつけている。漣の頭は自分の首元に頭をめり込ませている。
それぞれの息が服の上から、あるいはうなじのあたりをくすぐって、また体温が上がる。暑いな。でも二人、溜まってるって感じでもなさそうだ。つまり……とにかく……機嫌が直るまで、ただこのまま。
「さっき風呂入ったばっかりなのに、参ったな」
今日は自分だけ違う現場で、早く終わった。流石に暑くて一人先に風呂で汗を流し、それから飯を作ってタケルと漣の帰りを待とうかと考えていたところだった。
汗が滲む。特に二人の肌が触れているところが、じんわりと。重なった肌を伝って、畳の上に流れ落ちる。
「……余計なことすんな」
「え」
「俺は、円城寺さんの汗の匂い、好きだ……」
二人がぼそっと呟いたのが、頭の中で反響する。二人の息が胸とうなじに当たってる。すんすん、と鼻を鳴らしている。気付くとカッと体温が上がった。そうか、そういうことか……。