Recent Search
    Create an account to secretly follow the author.
    Sign Up, Sign In

    masasi9991

    @masasi9991

    妖怪ウォッチとFLOとRMXとSideMなど
    平和なのと燃えとエロと♡喘ぎとたまにグロとなんかよくわからないもの

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 🐟
    POIPOI 368

    masasi9991

    ☆quiet follow

    寝起きのゼロクス
    ちょっとシリアス

    ##RMX
    ##ゼロクス

    夢を見ない


    「ゼロ! いくら休日だからってこんな時間まで寝てるんじゃない!」
     レプリロイドも寝言を言う。特に、ゼロのようなスリープモードからの移行に時間がかかるタイプだと顕著だ。
     任務中の一時休止からの起動は早いのに、休日ともなるといつもこれだ。この柔軟性の高さも、性能の高さの一つでもあるんだろうけど。
    「まだ……朝じゃ、ない」
    「そうだね、もうお昼だ」
     さっきからこの調子で、オレはずっとゼロの寝言と会話している。
     休日だからどこかへ出かけよう。休みの間に買い出しに行かなきゃいけないものもある。なによりそれが、日々の忙しさの息抜きになる。
     だというのにゼロは起きない。一度起きればテキパキと動くんだけど……というより割と短気で大雑把だから、行動はかなり早い方なのに。休日の朝だけはどうしても起きない。
    「何かいい夢でも見てるのかな」
    「……ああ」
     やっぱり半覚醒状態のまま頷いた。
     目を閉じて、ベッドの中に沈んでいる。柔らかなクッションのマットレスに横たわり、物理的に外気と光を遮断する薄手のブランケットに包まれている。これはメンテ用のポッド・ベッドじゃない。もちろんゼロの自室にはそれも置いてあるのだけれど、これはそれとは別に、ただ身体を横たえるだけ――もうひとつ用途はあるが――のベッドだ。
     こういった、ただ快適性だけを求めた製品が一般的なレプリロイドにも普及し始めたのは最近のことだ。といっても、もう数十年くらいになるのか。機械の身体の合理性だけではなく、個々の意思や思考といったものが重視されるように世界が変わってきたのは、どこか不思議だけどきっといいことだ。
    「質問しておいてなんだけど、君は夢を見るんだな」
     何となくぼんやり呟いた声は、半覚醒状態のゼロには聞こえなかったらしい。返事はない。ただ、ブランケットの中で少し身じろぎをした……寝返りを打ったから、それが返事だったのかもしれない。
    「どうしても起きないか」
     ため息、それから諦めて、オレもベッドに上がることにする。とはいえ外出するつもりで着替えてしまったから、一緒に眠るのには抵抗がある。間を取ってベッドの縁に腰を下ろす。
     無理に出かけなければいけないほど、重大な用事があるわけじゃない。ただ……。
     ゼロが自室にベッドを置いたのは意外だった。確か、それが普及し始めてすぐのことだったはずだ。元々メンテすら面倒臭がるような性分だ。つまり自分の身体を気遣うのが苦手、ということではないかと思う。そんなゼロが、肉体の快適性のためだけの製品を受け入れ、求めたというのが今となっても不思議だ。
     平時はほとんど使わない。オレたちイレギュラーハンターにとっての平時というのは、イレギュラーとの戦いの最中にあるということだ。事件が多く、気が抜けない日々にあると、ゼロは自室でもベッドを使わない。メンテ用ポッドに入ることも、スリープモードに一時的に入る時間すらも惜しむ。
     つまり、休日というものがちゃんと存在して、ゼロがベッドで寝坊をしているというのは、ここ数十年の間の平和の象徴でもあるわけだ。
     少なくとも、オレにとってはそうなる。だからこうしてゼロを起こしに来ることも、悪くはない。
    「どんな夢を見てるんだい」
     ただそればかりが気になる。
     枕の上のゼロの横顔を見たくなって、ブランケットを少しずらした。閉じたままのゼロの瞼が光に反応してわずかに動く。すると瞼のふちに整然と並べられた金色のまつげが白く光りながら小さく震える。同じようにシーツの上に広がる金色の髪も、既に真昼の明るさを反射してキラキラ光った。
     綺麗だ。なんて穏やかで、素晴らしいことだろう。
     そう思うと同時に、眠るゼロへ抱く感情が、不安や疑念の影の中にあることを急にはっきりと認識した。
     ぼんやりしたそれから逃げ出すように、窓から差し込む光に照らされたゼロの頬にそっと手を触れる。
    「今は、お前が起こしに来る夢を見ていた」
    「それは夢じゃなくて現実だよ」
    「わかっている。冗談だ」
     また寝言と喋っている。いや、やっと起きたのかな? 光の中を覗き込むと、ゼロの瞼は半分、瞬きを繰り返しながらゆっくりと開いている。
    「こうして目を閉じていると、夢を見ないで済むんだ」
    「夢を見ない?」
    「そうだ。俺はどうにも、夢見が悪い。メンテナンスのためにスリープモードに入ると、記憶領域の最適化のためかかなり――支離滅裂な夢を見る。だがここでなら、それを見ないでいられる」
    「どんな夢なんだ」
    「昔の……いや、かなりどうでもいい内容だ。よくわからない記憶が多い。それが面倒なんだ」
    「そうか」
     と、話しているうちにゼロははっきりと目を覚ましたようだ。頬に触れていたオレの手を突然握り返して、胸のあたりへ引き寄せる。
    「夢にまで妬いてくれたのか?」
    「は? 何を言っているんだ」
     ニッと笑って妙なことを言う。びっくりして呆れていると、握った手が更に引っ張られて、ベッドの上に倒れ込みそうになった。
     そっか、そういう魂胆か。
    「もう昼だぞ。いい加減起きるんだ! 一緒に寝たりなんかしないからな!」
    「むしろ昼間から寝たっていいだろ?」
    「ゼロ!」
     互いの手を引っ張ってもみくちゃになって、結局ベッドの上に転がる。ゼロの体温が移ったブランケットの中が温かい。だけどその誘惑に打ち勝って、どうにかベッドに腕を付いて上半身を起こした。
    「はぁ。せっかくこんなにいい天気だってのに」
    「お前が起こしに来るなら天気なんかどうでもいいが」
    「そういうことじゃなくてさ」
     はぁ、と今日何回目かのため息をつく。オレの腕の下で、ゼロはまだベッドに横たわって、オレを見上げている。ちゃんと両目を開いて、笑っている。眠ってなんかいない。
    「オレが夢に嫉妬するって、どういうことなんだよ」
    「ああ、それなら心配するな。こうしているとお前の夢しか見ないさ」
    「答えになってないじゃないか」
     寝言みたいな甘いセリフを口にしながら、ゼロの腕がまたオレの背中を捕らえようと伸ばされる。どうやって抵抗しようか、どうやってベッドから引きずり出そうか――と柔らかいシーツを握りながら思案した。


    【了】
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    😭🙏💖💖💖💗🍑👏🙏👍🍌💕💕💗😍💘👍😊💖💖😍💖💖
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works