味覚について スッと視界に白い手が割り込んできて、そのままランチボックスの中身をつまんだ。
「あ」
「もらうぜ」
いいよ、と答える前にそいつはゼロの口の中に放り込まれた。咀嚼する。食べながら、オレの隣に腰を下ろす。
「……うん、なるほどな。どうした? やけにまじまじと見つめてくるじゃないか。もしかしてもらっちゃ悪かったか」
「いや、君がものを食べているのをあまり……見ないなと思って」
「合理的じゃない」
「そうだね。君はそう言うと思った」
昼時の休憩所の食事スペースはハンターベース職員のヒューマン、レプリロイド、両者で賑わっている。近くに軽食の売店も併設されているが、ここを利用するのはどっちも全体の半分ぐらいだ。ヒューマンには安価で便利な流動栄養食が流通しているし、レプリロイドならエネルギーステーションを利用する方が早い。それでもここで食事を摂っている約半数のオレたちは、要するにそういう娯楽を休憩中に楽しんでいる、と。これは趣味の問題だ。で、そういう趣味のなさそうなゼロ隊長が珍しくここに来ている。なので少し目立っている。
「それで、どうだった?」
「何がだ?」
「味の感想だよ。ヒトが作ったものを勝手に食べたんだから、一言あるべきだろう?」
「お前が作ったのか」
「そんなに意外か?」
「それなりにな」
「こう見えて色々できるんだ、ケイン博士の手伝いをしてたからってのもあるだろうけど」
「ふーむ、なるほど」
口元に指を当てて、考え込んでうなずく。
なるほど、ってさっきも言ってたな。食事というものについて、そんなふうに考えて納得するというのはオレにはない感覚だ。やっぱりゼロは感覚的には味のことはあまり重視してないのかもしれないな。だとしたらさっきの問いはちょっと意地悪だったかも。
「そうか、これがおいしいということか」
「無理しなくても」
「いや、おいしかった。お前が作ったというのなら、多分そうだな。試しにもう一口もらってもいいか?」
「それはもちろん。でもオレが作ったかどうかは関係ないと思うけど」
「いいやお前が作ったと聞いたらおいしかったような気がしてきた」
「そんなもんか?」
「わからん」
その真剣な「わからん」に思わず吹き出してしまう。でも当の本人、ゼロはやっぱり真剣に次の一口をどれにしようかと選んでいる。普段戦う姿ばかり見ているから、こんな真剣さは貴重だ。