ラブレター これは絶対にろくでもない内容だという確信がある。予感ではない確信だ。だっておれには何の心当たりもないし、その上それを持ってきたのは大ガマだ。絶対にろくでもない内容だ。このまだ箱に入ったままの新型の次世代据え置き型ゲーム機を賭けてもいい。
「そんな苦い顔すんなよ。とりあえず中身を読んでみようぜ」
「いやだ。こわい。関わりたくないからそのまま持って帰って」
「大丈夫だって。顔は見えなかったが、ま、相手は実在の妖怪だった。もしかしたら人間だったかも知れねえ。おれも知らねえやつだったけど、物好きもいるもんだな」
「いるわけないだろそんなの……いるわけないんだ……だっておれここ数ヶ月は外に出てないし……」
「数ヶ月温めてた気持ちかもしれねえぞ。それかあれだ、てめえだって荷物の受け取りでドア開けたりはするだろ。その時のドアの隙間から見かけて一目惚れした、って可能性はある」
「怖ッ! 怖すぎる! この数年は宅配も全部置き配にしてもらって受け取るときは必ず宅配人の足音が消えてから隣近所の妖怪や人間の気配もないことを入念に確認してドアを開けてるんだ。なのに誰かに見られてとか、ありえない」
「どうだろうなァ。お前結構マヌケだからさ。さっきみたいに業者の料金収集のフリをしてたら簡単に騙されてくれるしよ」
「あれはあんまりしつこいから通報してやろうと思ったんだ! その前に一回顔を見て、軽く脅かしてやろうと、……おれもちゃんと妖怪だし。迷惑業者ぐらい軽くポルターガイスト……とかで脅かしてやるぐらいわけないし」
「今どきの押し売り業者は心霊現象ぐらいじゃビビってくれないらしいぜ。てめえのは思い切りも悪いし、むしろカモだよ。現にこうしておれを部屋に上げちまってるじゃねーか」
「さっきのはまさか大ガマだとは思わなくて戸惑ってたんだよ! すぐドアを閉めようと思ったのに、隙間に足突っ込んでくるしさ」
「おお、そうだてめえに挟まれた足、死ぬほど痛かったぜ。割と本気で恨んでるよ」
「ドアの隙間に足突っ込んで無理やり部屋に上がろうとしてくる方が悪いに決まってるだろ。しかもそれで持ってきたのがその、その薄気味悪い封筒」
「これは偶然ドアの前で出会った薄気味悪い女がこの部屋の郵便入れに入れようとしてたのを預かっただけで、おれの用事はお前がくたばってねえかどうかの確認だ」
「薄気味悪い相手からの手紙を持ってくるな。それに生存確認なんかLINEとかでいいだろ」
「既読すらろくに付けねえじゃねえか。ツイッターじゃ四六時中ツイートし続けてんのによ。いつ寝てんだお前」
「な、なん、ちょと待ってなんで? おれアカウント教えてないっていうか、まっ」
「あれ見てると逆にちゃんと生きてるのか心配になってくるよ。まあこうして平穏無事に引きこもってるってことが今確認できたわけだが」
「待ってなんで」
「でこの手紙。読んどくか?」
「ちょっと待って今もっと重大な問題が発生してるから。どういうこと? なんで大ガマにバレんの? こいつにそんな検索能力あるわけないじゃん。他に誰かが……?」
「『天井裏住みさんへ。いつも絡んでもらっている……』」
「急におれの名前を呼ばないでよ! ていうかリアルで呼ぶな!」
「いや手紙に書いてあんだよ」
「そんな気味の悪い手紙声に出して読む? 普通」
「黙って読んだほうが怖そう。なんて読むのこれ? いつも絡んでる? この団子みたいなマークが名前か?」
「ちょっと見せて」
心当たりがなさすぎる。なさすぎる、が、手紙によるとこの差出人である串団子さん(仮)は、いつもSNS上でおれと絡んでいるらしい。
「知らない。え? 誰?」
「いつも思うけどお前のフォロワー数すげえな。この中に友達もいんの?」
「ちょ、ちょっと親しい知り合いぐらいなら……友達かどうかはわかんないけど……人のスマホの画面見ないでくれない?」
「フォローの方には団子さんいないじゃん」
「じゃフォロワー? え? えっ? 誰? なんで?」
「あ、この大ガマってアカウントおれだから」
「本名でSNSやるな! まさか本人とは思わなかったわ! 後でブロックしてやるから! ていうかそうじゃなくてその人、誰?」
「『実際に会ってお話をしてみたくなって近くへ来てみましたが、お部屋が暗く留守のようでしたのでこうして手紙を書いてみました。明日よろしければ一緒に○×△』なにこれ? 『のコラボカフェに行きませんか。予約の競争率は高かったのですが、天井裏さんのお名前もお借りして二人分取ることができましたので心配しないでください。時間は』ワッハッハ、これやべえだろ」
「やめて! どうして? ホントに何? なんで? なんでオレ? ていうか住所とかどうして?」
「だってお前普通に地名とかそこら辺の店の写真とかツイートしてるじゃん。おれでも今どこに住んでんのかすぐわかったぜ。だからこうして今回は割と簡単にお前の引きこもり先を見つけて生死確認に来れたわけ」
「でも大ガマは妖怪だし一応不本意だけど血縁関係があるわけだからある程度近づけばわかるってだけじゃん。おれを探しやすい理由あるじゃん。誰? これ」
「知らねえ」
「……引っ越そうかな、すぐに」
「それがいいと思うぜ。なんなら手伝ってやるからさ。どうせ荷物めちゃくちゃあんだろ」
「荷物はたくさんあるけど大ガマには決して触ってほしくない」
「でも背に腹は代えられないしな。おれが思いがけず来てくれて助かっただろ?」
「なんでそんなに態度がでかいんだよ……わけわかんない……」
でも実際問題助かることは事実。こんな時じゃなきゃ邪魔でしかないのに。ときどき役に立つの、逆に腹が立つな。でも一人で深夜にこの手紙読んでたとしたらって思うと、ほんとに大ガマが居てくれてよかった。いろいろ腑に落ちないけど。