季節外れの「遊んでくれよ、つれねぇなァ」
ふん、と鼻を鳴らして振り向かない。こいつの朴念仁は今に始まったことじゃあねえから、慣れている。朴念仁……そいつは違うか。おれと長く連れ添うぐらいの好き者だ。しかしとんでもねぇ気分屋だ。
「寒ぃな」
おっとしまった。言わないつもりでいたんだが、ついつい口をついて出ちまった。でも実際寒いんだから仕方がない。広くこざっぱりとした座敷には、小さな火鉢が文机の隣にぽつねんと置いてある。文机に向かって座る土蜘蛛さんと、おれの隣にだ。しかし暖を取るにはあまりに心もとない。おれのような蛙でなくとも、本来人であった身には堪えるんじゃないか。
こいつは弱音を吐かねえ強情なだけで、本当はやせ我慢なんだろうが。なにしろいつもの部屋着の着流しに、分厚い襦袢をかぶっている。その背中におれはどっしりと寄っかかっているわけだが、固く丸くなってぴくりとも動かない。
「いい加減ストーブぐらいは入れてもいいんじゃねえか」
「耳慣れぬ名のからくりは好かぬ。それにお主が寒いのはそのようにだらしのない格好をしているからであろう」
「へへ。着の身着のままで来ちまった。ゲコっ」
土蜘蛛の膝の上に足を乗せようとしたら、手で押し返された。でも本気で邪険にしてるわけじゃねえのはわかっているから、そう強い力でもない。それより、膝に当てられた手のひらの熱さに震えちまう。
「起きてそのままここに来たのだろう」
「そうだよ。ここに来れば暖が取れると思ってさ。あんたの体温は、やっぱり熱いな」
「蛙の肌と比べればそうであろうな」
着の身着のまま、寝間着の襦袢の裾の合間から、土蜘蛛の手が入ってきてゆっくり撫でる。
「冷たい」
背中ごしで顔が見えなくてもよくわかる。今のはぼやきは顰めっ面から出てきた声だ。
「まあな。だからおれと遊んであっためてくれよ」
「ならぬ。……お主はまだ目覚めるような季節ではなかろう」
「ん……、いや、今年はどうも暖かいみたいだからよ」
「そう油断して起き上がって、思った以上の寒さで震えておるようだな」
「なんだよ、心配してくれてるのか? 気にすんなよ。そりゃ普通の蛙なら起き上がれねえ季節だが、おれは大ガマ様だぜ。別に冬の間ずっと起きてることだってできるんだ。戦の間はそうしてただろうが」
「たとえそうであってもだ。自然に反することは好かぬ」
なんっつうお硬い野郎だ。ま、しかしそれもおれのため思ってのことだそうだ。素直にそうと言うことはないみたいだが、それはそれ。そういう強情張りもむしろ愉快でかわいく思えるし、無理して起き上がった甲斐はあった。
しかし確かに土蜘蛛の言う通り、今日は思っていたより寒すぎて、ここでまた冬眠しちまいそうだ。でもそれも許してくれるって口ぶりじゃねえか?