起きたあとは「あっはははは、ははっ、……っはあ。ふふふ……」
「落ち着いたか?」
「んふっ、あぁ。あはは」
「よしよし」
寝袋の中のおれの腕の中で頷いたグランツをさらに撫でる。グランツの頭はあたかかく、寝癖の髪も指にふわふわと絡んで気持ちがよく、不思議なことだがおれの手にぴったりくっついてくる。本当はおれがおれが手を離せないだけなのだが。
でもいいじゃないか、野宿の朝のテントの中の二人用の寝袋の中はふたりっきりだ。まぶしい日の出と一緒に置きたからにはこうして少しのんびりする時間もある。
「キミのおかげですっかり目が覚めた」
「実はおれもだ! おれもおれのおかげで目が……あれ?」
「もしかしておれのおかげかな?」
「おお、そうだった! おまえのとびっきりの笑い声でおれもすっかりすっきり目覚めたんだ」
「キミの役に立ててよかった」
なんて言い合っていると、不意を打つように「ぐぅ」と腹の音が。
「むむっ」
「あ」
笑い合っていたのがピタッと一時停止し、ばっちりグランツと目が合った。
いや、今までもずうっとじっと見つめ合っていたのだが。
「……今の、聞こえたか?」
「聞こえてしまったか?」
寝袋にもテントにも山頂にも二人きりだというのに思わず小声で囁いてしまう。ん?
「あれ? いまのはおれの腹の音だったような?」
「なに言ってるんだ、キミじゃなくておれの腹だったぜ。またそんなうっかりを……あははは!」
と言っている間にも、また「ぐぅぐぅ」と。
「ん、あれ?」
「ほらおれのお腹の方だぞ。だってこんなに腹ペコで……むむむむ?」
お互いに顔を見合わせて、首をかしげる。いいやもうずっと見つめ合っているのだけれども。
「おれだって腹が減ってる。だって昨日の夜は早かったもんな」
「山の夜は早いからなあ。だからおれも朝からこんなに」
首をひねってもひねらなくても腹は減るし腹は鳴る。おれのせいでサイズの合わないっ狭い寝袋の中でお互いをぎゅーっと抱き寄せると、お腹はぴったりとくっつきどっちがどっちの腹の音だか、くっついているのはお腹とお腹なのかお腹と背中なのか? 疑問が疑問を呼ぶのだ。
「……ぷっ、あははははは! あっはっはっはっは!」
「わっはっはっはっは!」
そして楽しくなってついに一緒に笑いだしてしまったのである。
「ああ、お腹が空いているのはお互い様だな。あはは、こうしてないで朝飯の準備にするか」
「うんそうだ、そうしよう! 昨日の夜のあまりの食材をホットサンドとスープにしよう。実は既に下ごしらえは済ませてあるんだ」
「ああ、メニューを聞いただけでまた腹が減ってくる」
さらにまた「ぐぅ」の音。これはグランツのお腹からだった。寝袋の中でくっついたグランツの身体から、元気なお腹の音がおれの腹に伝わってきたのだ。今のは確かに、しっかりわかった!