心臓の音 こうして一つのベッドに潜り込んで目をつむっていると、キミの熱と一緒に鼓動の音が聞こえてくる。キミがおれにぴったり寄り添ってくれているからだ。
それにしても今日はいつもよりもっと鼓動が大きい。おれも同じだ。眠ろうとしてもどうにも落ち着かない。今日は何もしない日なんだが。
静かなベッドの中に二人分の落ち着かない鼓動がしばらく続いて、それからキミが耐えかねたように突然動いておれを太い両腕で強く抱き寄せた。
「眠れないのか!?」
「あはっ、それはキミもだろ?」
「うむ!」
キミに抱き寄せられてキミの胸に顔を押し当てて、キミに密着して……キミの鼓動がさらに大きく聞こえてくる。
「どうしておれが起きてるってわかったんだ?」
「そりゃあ、おまえの心臓の音が聞こえたからな。……緊張しているな?」
「ああ。ふふ、同じだ。おれもキミの鼓動を聞いていた」
今夜はどうしても落ち着かない。せわしない鼓動は、こうしてキミとくっついていると一つに合体してしまうようだった。だけどそのおかげか、少し穏やかになってきたかもしれない。
「うう、明日の仕事は緊張するなぁ!」
「キミがそうなんだから、おれなんかもっと心配だ。うまくやれるだろうか」
「誰も足を踏み入れたことのないあの危険な『ドラゴンの覗き穴』へ! 緊張だ! ワクワクする! いったいどんな素晴らしい鉱石に出会えるだろうか!?」
「そうだな、キミならきっと……」
「おまえと一緒だから心強い!」
背中に回された腕にぎゅっと力が込められて、キミの鼓動がもっと近くなった。キミの胸は力強く高鳴っている。おれの後ろ向きな不安をかき消すぐらいに。
暗闇の中でもキラキラ光るキミの両目が、おれの顔を覗き込んだ。
キミは案外、はっきりとした言葉にはしなかったりするけれども、その眩しい目は「大丈夫だ!」とおれの心を励ましてくれる。
「今からワクワクで眠れないんだ! 困った……困ったぞ!」
「はは、そうだな。おれにもキミの気持ちがうつってきた」
「うーん、やはりおまえもそうか。しかし良い子は早く寝なければなあ」
「なあ、キスしてもいいか? おやすみのキス、もう一回」
「え! ね、眠れなくなるのはよくないぞ」
「わかってる」
キミの腕の中で精一杯背伸びして、少しの間、唇に触れるだけのキス。薄く開いた互いの唇から、微かな吐息が漏れた。その感触と温度が肌の上をくすぐる。
やっぱりこれだけってのは、なかなかじれったい。もっと、もう少しぐらい、と思うが……我慢だ。キミに対しては聞き分けのいい子でいたい。
「むむむむ……うん。あー、あともう一回」
「いいのか?」
期待でキミを見上げると、キミはぎこちなく顔を近づけて、そっとおれの額にキスをした。
キミの唇はもちろん柔らかく、温かい。
抱きしめられながら、たったこれだけか、と物欲しい気持ちを感じなかったわけじゃない。でもたったこれだけのキミのキスは、世界で一番素敵なキスだ。
「ふう。よし、寝るぞ! 今度こそ!」
「明日は寝坊できないからな」
「うむ」
力強く頷いて、瞳を閉じたキミの鼓動はすっかり柔らかくなっている。それと重なるおれの心臓の音も、いつの間にか落ち着いて、ベッドの中は静かだ。
ゆっくりと重なる音に耳を済ましていると、今度こそぐっすり眠れそうだ。