だとしても　いくらなんでも無防備すぎる。今日はもう寝るだけだし他に誰も見るヤツいないからって、じゃあ俺はどうなんだ。言ったら、多分、「見苦しかったか？」なんて言われて気を遣わせちまうから、ずっと言えないでいる。
　やっぱ夏、あんま泊まりに来ねえ方がいいのか。でもアイツは平気で寝てる……。何考えてんだかわかんねぇ。アイツ、そういう目で円城寺さんのこと見るって、発想がないのか。もしかしてアイツは本能的すぎて裸ぐらい逆に何ともないのか……？　薄着って意味じゃアイツの方がめちゃくちゃだし。もし俺が泊まりに来なかったら、アイツと円城寺さんは二人っきりか。そう考えると泊まりに来ないって選択肢は、かなり「ナシ」だ。
　となると夏の間はこの生殺しを耐えなきゃならねぇ。中途半端にちゃんと服着てるから余計に意識してしまう。裸の方がマシだ。……いや、やっぱそうでもないか。裸だともっと困る。想像した。
　寝る時の距離、日に日に近くなっている気がする。気温が上がってくのと裏腹だ。円城寺さんと……アイツと、そういう関係になってから。
　そういう関係、なんだから見ちゃいけないってことはないはずだ。それじゃ好きなだけ見ていいのかっつーと……円城寺さんは何も知らずに寝てるんだし——罪悪感がある。
　つーか見るにしても見れないにしても寝れないのが一番マズい。寝不足だ。
　……あっち向いて寝よう。円城寺さんに背中向けて。それが一番簡単な解決法だとはわかってる。ただ言い訳をさせてもらうと、寝る前にそうすると円城寺さんが寂しがるから……できない。円城寺さんに「自分の隣は嫌か？」とか「こっちにおいで」とか言われると、その誘惑に打ち勝つのは難しい。でも今ならできる。円城寺さん、寝ちまったみたいだから。
　電気消した後も見ないようにしながら視界の端でしっかり見てた目をどうにか逸らして、反対側に寝返りを打った。目は暗さにすっかり慣れていて、部屋の隅に片付けられたちゃぶ台と積まれたクッション三つがはっきり見える。見えるのはそれだけ。目、閉じたらそれも見えない。ただ背中側に体温を感じる。それはかなり心地良い。
　早くこうしとけばよかった。いくらそういう関係だとしても、今の俺には刺激が強すぎる。意気地ねえな。でもあとは、寝るだけだ。
　……それが、できない。
　目も閉じて煩悩も見えなくなったってのに、実はさっきから心臓が落ち着かない。ドキドキしている。さっき、寝返りを打ったときにデカい音を立ててしまった気がする。変に焦ったせいだ。
　起こしたんじゃねぇかな。なんだか円城寺さんがモゾモゾ動いてるような気配がする。背中側、見えねぇからわからない。
「……んん」
　低いかすかな唸り声。寝言か？　そう思っていたら、急に円城寺さんの腕が背中側から俺を掴んだ。
「う」
　と、こっちも唸った。うわ、の「う」だ。叫びそうになったのを飲み込んだ。
　俺の身体を掴んだ円城寺さんの腕は、あっという間に俺を引きずり込んだ。あ、暑い。円城寺さんの胸の中だ。すげぇ力で抱きしめられてる。起きてんのかと思ったが、背中から聞こえる寝息は穏やかで規則正しい。寝てる。それか寝ぼけてる。
　俺が寝返り打ってちょっと離れたからか？
　ヤバい。見るとか見えるとかそれどころじゃなくなった。背中に円城寺さんの胸が当たってる。布の一枚や二枚なんかあってないようなものだ。暑くて、体温上がってきて、汗、出てきて、しっとりしてきて、どんどん円城寺さんの肌の感触が近くなってくるような、変な気分。
　こんなんで寝れるわけがない。
「痛っ！」
　何だ今の？　急にドン、と揺れて円城寺さんが叫んだ。アイツの寝相か？
　円城寺さんを起こすなよ！
　文句の一つも言ってやりたいが、騒いだら円城寺さんが起きる。いや起きたらこの状況から解放されるか？　だがこの状況から解放され、たく、……ない。
　どうしたらいいんだ。つーかさっきので円城寺さん起きてねぇのか、相変わらず規則正しい寝息が耳元で聞こえる。