がとうる 伊月誕 「……あった」
十一月四日。漆原伊月は自身の誕生日であるこの日に東京二十三区内にある、ディスカウントストアのドン・キホーテのとある一店舗に来ていた。
所狭しと商品が積み上げられた煩雑な店内の、缶詰や乾物が多く置かれた一角。とある大きめの缶詰を両手で大切そうに手に持って漆原伊月はつぶやいた。
「大粒みかん(みかんジュース入り)二号缶。『ジュースと果肉が二度美味しい 砂糖不使用みかんジュースで満たされたみかん缶 大粒LLサイズのみかん約五個分を贅沢に詰め込みました』。やっと見つけた……」
漆原は安堵した表情で缶詰を抱き留める。子供が最愛のぬいぐるみを抱き締めるかの様だ。
「缶詰あったか?伊月」
後ろからショッピングカートを押しながら金髪の派手な伊達男ーー牙頭猛晴が漆原に声を掛ける。カートの中には酒のつまみやナッツの大缶が入っていた。
「あったあった。三件もドンキ回らせて悪かったなガッちゃん。人気なのか全然無いんだもんな」
「そりゃよかった。でもホントに良いのかよ。誕生日プレゼントそれで」
「うん。前から気になってて欲しかったんだ」
漆原は牙頭が押していたショッピングカートにみかんの缶詰を入れる。
「勿論普通のシロップ漬けのみかん缶も大好きだけど、子供の頃から思ってたんだよね『シロップじゃなくてみかんジュースに浸かってたら絶対もっと美味しいのに』って」
「同じ事考える人はいるんだなぁ」と漆原はにこにこ顔だった。
そのまま二人並んでレジに向かった歩き出す。とはいえ広い店舗なので店内の色々な商品を見ながら向かう。
十一月の上旬。時期としてはハロウィンが終わってすぐなので、所々に売れ残ったハロウィン用のお菓子やパーティー用品が安売りされていたり、逆に一ヶ月以上先のクリスマスグッズや年末用の掃除用品、正月飾り等もある。
漆原自身は、この悪く言えば中途半端な時期が結構気に入っていた。
「十一月ってイベントはないけどこうやって店内に色々な物があって面白いよね」
アウトドア用品コーナーの棚を抜けながら漆原は言う。
「この時期にやるキャンプも、寒いだろうけど楽しそうだよね」
「あー。よさそうだよなー。焚き火とかグランピングとか」
「ね。あと僕七輪で秋刀魚とか焼いてみたいんだよね」
「楽しそうじゃねーか」
歩いてるうちに今度はキャリーカートのコーナーの横を通る。
「旅行もしたいな。温泉とか」
「いいな。なんか二人で旅行とか修学旅行以来じゃねーか」
「あれは二人での旅行にはならないでしょ。クラスも違ったしね」
「伊月覚えてるか?伊月がオレが家の土産用に買ったもみじ饅頭勝手に包装紙破って食ったの」
「えー?何それ?そんなことしないよ!」
「しただろ!」
そんな話をしながら二人は笑ってレジに並ぶ。牙頭が黒いクレジットカードで会計を済ませ、そのまま買った品を持ってサービスカウンターに向かう。
「一応誕生日プレゼントだしな。プレゼント包装して貰おうぜ」
「うん。ありがと」
サービスカウンターで包装紙やリボンの色は漆原が「なんかガッちゃんっぽい色してるから」と、黄色に決めた。番号札を渡され、ラッピングされるのを待つ。
「本当に他に欲しいモン無いのか?」
サービスカウンターのすぐそばにある時節物コーナーのファンヒーターを二人で見ながら、牙頭は漆原に問う。
「うん。この後僕の家で僕が作った手作り巨大誕生日ケーキを一緒に食べて貰うからね」
好物のみかんは勿論、いちごやぶどう等思いつく限りの果物を使い、その分間食できるようにスポンジやクリームは甘過ぎない軽い仕上がりにした漆原の手作りケーキ。
「作ってて凄い楽しかったぁ……」
漆原はうっとりとした表情でケーキ制作時の事を思い出す。
そんな様子を見て牙頭は「よかったな」と返す。
「それにさ」
漆原は少し小声で牙頭の耳元で囁く。
「……今日は僕の家泊まってくだろ?」
「そのつもりだけどよ」
「なら充分さ」
漆原はニヤっと笑う。
「ガッちゃんがそばにいてくれるのが最高のプレゼントだよ」