Feast つくづく、この男の愛情表現はわかりやすく可愛らしいな、とイサミは思うのだ。
例えばぶらりと街にデートに出かけて食べるジェラートの一口目だとか、料理の修行に励むルルが揚げたチョコレート掛けドーナツのチョコがたっぷりかかっている部分だとか、そういういかにも〝美味しい〟部分を惜しげもなくイサミに差し出してくる。俺の分はちゃんとあるからお前が食え、とイサミが言っても引くことはなく、だったらイサミの方と交換しようと、美味しい部分を差し出して、自分は少しだけ美味しい部分からずれたところを齧って満足そうにしている。
嬉しい、と思う。イサミは自覚があるが、恋愛事には疎い方だ。だからスミスくらいわかりやすく言葉や態度にしてくれると安心できる。
可愛い、とも思う。図体はイサミよりもいくばくか大きいものの、はい、とスミスが差し出してきたものにパカリと口を開けば、与えられるイサミよりも余程喜びに満ちた顔をしてくれる。
愛しい、と思う気持ちは胸がはちきれそうなほど。だからたまにはイサミからもやり返してやりたい。それなのに、イサミの可愛い男は可愛いだけの男ではないのでなかなか隙を見せてはくれず、それがちょっとばかり悔しくもある。
「お前、たまには俺からもさせろよ」
美味そうだったから、とスミスとルルで買ってきたクッキー。ちょこんと乗ったローストアーモンドが美味いと思っていたら、丁度その部分をスミスによって口に押し込まれたところだ。
「スミスが先にやるせいで、俺がやる隙がない」
思っていた不満を思っていた通りに伝えれば、スミスは目を丸くしてから微笑んだ。
「イサミも俺にやりたいって思ってくれてたのか?」
噛みしめればカリっとアーモンドが砕けて香ばしさが口の中に広がった。
「そりゃ、思うだろ……」
俺だってお前が好きなんだから、という続きはクッキーと共に飲み込んだ。言わなくても伝わるなんて傲慢なことを思ったわけではない。ただちょっと、直球に伝えるのはまだまだ気恥ずかしいだけだ。
美味しいものの一番美味しいところ。ここをあげるね、なんてわかりやすい愛情表現。そのくすぐったくて気持ちが良くて甘美なものを、スミスにも味わわせてやりたい。
「たまには俺に譲れ」
ついつい可愛げのない言い方をしてもスミスは目を細めて喜んでくれる。やっぱり可愛い男だなと思っていたら、そうっと優しくキスをされた。
「イサミは多分知らないんだろうけど」
言葉の合間に舌が差し込まれ、舌に残ったアーモンドの香ばしさを分かち合う。
「俺もちゃんと、一番美味しいものを貰ってるよ」
重ねた口の中でスミスが笑う。それはなんだよ、と聞こうとしたけれど、言葉ごと呑み込まれて続けられなかった。