chu イサミ、と名を呼びながらスミスが唇を突き出した。にゅ、と伸びるそれが何を要求しているのか知っていて、イサミは暫し観察することにする。
イサミは人の造形に頓着しない。生まれ持ったものにいちいち優劣をつけるのは億劫であったし、イサミの興味関心は見てくれよりも仕草であったり言動であったり、そちらの方に割かれるからだ。
しかし、目の前で今か今かとイサミの温もりを待つ男の容貌は好ましいと感じる。太く豊かな眉も、甘く垂れたアーモンドアイも、彫りの深い鼻梁も、作りの大きい口も、全てのバランスが良い。どれを欠いてもならず、それ以上であってもいけないと思わせる。一度それをヒビキに話してみたところ、呆れた様子で「はいはい」と流されたかと思うと「イサミが惚気るなんてね」と言われたので随分と驚いてしまった。イサミとしてはただ事実を述べたつもりだったからだ。
言われてみれば出会った当初、スミスの顔に思うところはなかった。なんだこいつ、やけに距離が近いな、外人ってこんなもんなのか? 程度のことしか考えていなかった。一体いつからスミスの顔を好ましく思うようになったのか、格好良いとも可愛いとも思い、ずっと見ていられるなと思うようになったのか。唇を突き出すという、分類すれば間抜けに該当するような顔でさえも「好きだな」と思うようになったのか……。
「イサミぃ……?」
痺れを切らしたスミスが今にもきゅーんと子犬の鳴き声が聞こえてきそうな表情で目を開ける。眉は下がり、目は潤み、けれどしつこく唇は突き出されている。
「なんだよ」
わざとつっけんどんに返せば子犬の顔は拗ねた顔になり、分かっている癖にとでも言いたげだ。
「Please」
「何を?」
「I want you to kiss me」
「なんで?」
「いくらなんでも意地悪が過ぎるぜイサミ! 君が好きだからに決まってるだろ!」
「そうなのか」
決まってるのか。俺が好きだって。へー。
嬉しくなったので笑ったら、スミスが「可愛い……」と呟いた。
残念ながら、顔は抜群にいいのにスミスの趣味は相当悪い。そこも好きなのでとりあえずキスはしておいた。