お母様のジュエリーボックスとアレックス「お母様のドレッサーの一番上の引き出しから封筒取ってきてくれるか」と頼まれて私は元気よく「わかった」って言ってお父様とお母様のベッドルームへ行ってお母様のドレッサーの引き出しを開けた。引き出しの一番わかりやすいところに封筒はあったのだけど奥の方にこじんまりしたジュエリーケースを見つけた。ジュエリーボックスは小さいけど緻密な細工がされていてとてもきれい、中には何が入っているのかしら、とお行儀が悪いと思いながらもそっとジュエリーボックスを開けてみた。ジュエリーボックスの中にはお母様が身につけているよりも質素で古めかしいジュエリーや古い勲章のようなものが入っている。その奥にカードのようなものが入っていてそっと手に取ってみるとオーブのIDカードのようだった。IDカードに写っている青年は自分と同じような翡翠の瞳でこちらをみていてお父様によく似ている気がした。ただ父よりもどこか陰鬱で儚い印象を感じる。お父様の古いIDカードかしらと思うがIDカードの名前には「アレックス・ディノ」と表記されている。アレックス・ディノ…初めて聞く名前だ。この青年は父によく似ているが父ではないようだ。そして母は父ではない青年のIDカードを大切なジュエリーボックスに入れてまるで隠すように大事にもち続けているのだ。母の秘密を盗み見てしまったことに罪悪感と後ろめたさ、そしてあのお母様がお父様以外に想いを寄せていて未だに大切にしている異性がいることに強い衝撃を受けてしまう。お父様が知ったらどうしよう……父が母を何よりも愛していることを知っているしとてもヤキモチ焼きなことはよくわかっている。このことをお父様が知ったら多分とても良くないことになる……不安で押しつぶされそうになった時に扉から「封筒なかったか」と母の声が聞こえ慌ててジュエリーボックスを引き出しの奥にしまい「あったよ」といつも通り返事をした。慌てていたのでIDカードは手元にあるままだ。「戻って来ないから。変なところに入れていたか」と母がにこやかに話す。「ううん、すぐ見つかったよ。引き出しの奥にキレイなジュエリーボックスが入っていたから眺めちゃった」と返す。お母様に嘘ついちゃった…とドキドキしていると「あぁ、あの箱には大切なものを入れているんだ。お母様が小さい頃にお前のお祖父様にねだってもらった勲章とかが入っているんだ。」と笑いながら何もやましいことはないと言わんばかりに母が答える。「お母様の大事なものを入れているの」ともう一度聞くと「そう、お母様のとっても大切なものを閉まっておく箱なんだ。お前も見るか」と美しい顔で聞いてくる。ワンピースのポケットに入れてしまったアレックスのIDカードにそっと触って「今度見せて」と笑って答えてしまった。お母様と別れて自室に戻った後にアレックスのIDカードを自分の大切な寄木細工の箱にそっと隠すことにした。この寄木細工の箱は秘密箱といって決められた手順ではないと開けられないのだ。お父様がくれた私の宝物。秘密箱の中にはトーヤ兄様から貰ったブローチをたいせつに仕舞っている。その箱にアレックスのIDカードを隠すのは何だか悪いことをしているみたいだったけどここに隠すことしかできなかった。その後もお父様とお母様はいつも通り仲睦まじくしていたし、自分たち家族には何の変わりもない。ただ自分だけが母の秘密を知ってしまっているのだ。弟にも話せない。アレックスのIDカードも母に返さないといけないけど返すこともできずどうしたらいいか分からなくなってしまった。何だか胸に重たいものが詰まっているような気がしてソファに座ってぼんやりしていると、母がソファに座っている私の隣にそっと座ってきた。「何か困っていることがあるのか」優しくてキレイな母が大好きなのに。「ううん、何にもないよ」と大好きな母に嘘をつく。「そうか、最近元気がないから何か困っていることがあるのかなって思ったんだ。お母様はいつでもお話聞くならな」とぎゅっと抱きしめてくれる。柔らかくて暖かくていい匂いのする大好きな母だ。母の秘密をこっそり見つけて母に嘘をついてなんて悪い子なんだろう。「あのね…」「うん」「悪いことしたの」「うん」「怒る」「うーーん、何をしたか聞いてみないとわからない。悪いことなら怒らないと。でもお母様はいつだって味方だよ」母の優しい言葉に後悔と安心が押し寄せて涙が出てきてしまった。「あ、あのねっ、この前、お母様のジュエリーボックス勝手に開けちゃったのっ……」「この前……あぁ封筒の勝手に開けるのは良くないことだけど、別に開けたってかまわないさ。一緒に見るかって聞いただろ」「う、うん……で、でもぉ…」「どうしたあぁそんなに泣くな」涙が止まらなくなった目尻を優しく拭ってくれる。私はお母様にここで待っていてもらうように伝えて急いで自室から秘密箱を持ってきた。秘密箱を手順通りに開けていくと「お前もアスランもそういうの好きだよな……よく開けられるな」と母が呆れたように言う。秘密箱を開けて中のIDカードをそっと取り出す。「勝手に持ってきちゃったの……ごめんなさい」震える手でアレックスのIDカードを母に渡す。どうしよう勝手にお母様のものを持っていった私のことをお母様が嫌いになっちゃったら。どうしよう……お母様がお父様よりもこのアレックスっていう人が好きだったら。もしこのアレックスがある日やって来てお母様を連れて行っちゃったらどうしよう。不安になりながらお母様を窺い見るときょとんとした後にアレックスのカードを手に取り「アレックスのIDか…」とカードのアレックスの顔を撫でながら大切なものを見るように見つめる。お父様をみる時と同じ顔だお母様はやっぱりアレックスのことが好きなんだとても悲しくなって涙が止まらなくなる。「どうしたどうしたお母様は怒っていないぞ」と母が私を抱きしめて背中を撫でてくれる。お母様にはお父様よりも好きな人がいたんだ。お父様がかわいそう。母に裏切られたような気持ちになってしまい、「アレックスって誰お母様はアレックスが好きなの」と恨めしい気持ちで聞くと母はびっくりした顔をした後にニヤリと笑った。「アレックスのことを知ってびっくりしたのか。」こくんと頷くと「アレックスはな、お母様のとっても大切なやつだ」と言う。「お父様より」と悲しくなって聞くと私の頭を撫でながらいつもの優しい顔とは違ういたずらめいた顔で「お父様と比べられないくらい」と答えた。「お父様にバレたらアレックス殺されちゃうよ」と言うとお母様がアハハハと大きく笑って「アレックスもすっごく強いからどうだろう。でも今のアスランのほうがでかいもんな〜。」と答える。何が楽しいのかとても悲しくって「お母様はお父様や私たちよりアレックスが大事」と母に抱きつきながら聞くと「あぁごめんごめん、意地悪しすぎた。お母様がお父様以外の男のことが好きだと思ってびっくりしたのか」と母が私を抱きしめて揺すりながら優しく言う。「違うの」と母を見やると「アレックスはお父様だ」と母が笑いながら答える。「お母様が好きなのはお父様だけだよ。お前たちもな。」と私のおでこにキスをしてくれる。アレックスがお父様わけがわからない。「お父様はアスラン・ザラだよ」「そうだな。あのなずっとずっと前のことなんだけど…」そう言って私を抱きしめながらアレックス・ディノのIDカードを見つめてお母様はお父様がアレックス・ディノの時だったお話をしてくれた。お父様がアレックスだったなんて。お母様はずっとお父様が好きだったんだ。私はとっても安心してもっと早くちゃんとお母様とお話すればよかったって言うと「心配なことや不安な時はちゃんと会ってお話をするんだ。お母様もお父様とずっとずっと前にそう約束したよ。」って教えてくれた。その後お母様はジュエリーボックスに入っているアクセサリーや勲章も見せてくれて、どんな思い出があるか教えてくれた。私も秘密箱に入れているトーヤ兄様から貰ったブローチをお母様に見せたのだ。その晩に帰ってきたお父様に「アレックス」って言ったらお父様はびっくりしたお顔をしてその後にすごく嫌そうな不機嫌な時のお顔になって「カガリ」ってお母様を呼んだのだ。