酒は飲んでも飲まれるな「……うぅ、う……っひ、うぇ」
星の目の前には、カウンターに突っ伏してぐずぐずと泣きぬれている青と赤のでっかい固まりがひとつ。
「……何コレ」
思わず指をさしながら振り返ると、馴染みの酒場の店主は困ったように頭を掻いた。
「いやあ、初めて仕入れた酒があったから勧めてみたんだが、どうにも合わなかったようでなぁ。ほんの二、三杯呑んだだけでこんなになっちまって」
「なんで私を呼んだの」
「だってそいつ、嬢ちゃんの名前をずっと呼んでるもんだから」
よく聞けば、ただ泣いているだけかと思ったその男は嗚咽の合間合間でうわ言のように星の名前を呟いている。
「そりゃ普通の女の子にゃとても『連れて帰ってくれ』なんて言えねぇけどよ、嬢ちゃんなら運べるだろ?」
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