あなたとおまもりとある日。私アオイが交換留学先としてやって来た、ブルーベリー学園にて。
「無い!!無い、無い無い!!ウソ、どうしよう!!」
私は朝早く故にガラガラだったリーグ部の部室にて、一人鞄をひっくり返して騒いでいた。
「無い!!『ゆれないおまもり』が……無い!!なんで!?」
そう、こんなに取り乱している理由は、一つの、それでいてとても大事な物である『ゆれないおまもり』を失くしたからだ。
何度荷物を探っても幾ら自分の部屋や部室を捜索しても見当たらず、私はすっかり青褪めていた。
昨日のお昼までは確かにリュックに掛かってあった。ブルレクで撮った自撮り写真にしっかり写っていたので、それは確かだ。
だけどそれ以降が分からない。BPがある程度溜まったので引き揚げて、それから休憩がてらお昼ご飯を食べて、ライバル達と勝負して一日は終わった。そして今朝起きたらおまもりが無くなっていた。なら校舎内の何処かにある筈、と探してるのにまるで見つからない。
「ど、うしよう…………」
確かにあのおまもりはポケモンを捕まえやすくする便利なアイテムだ。あると嬉しいし、無かったら悲しい。
でも私がここまでパニックに陥る訳は、ただただそんな便利アイテムを落としたから、ポケモンゲットに支障が出るから、なんて単純なものではなかった。
「カキツバタ先輩、怒るかな…………」
アレは現在親友でありライバルでもあるカキツバタ先輩からの貰い物だったからだ。
当時彼とは出会ったばかりで、あんな良い物を渡してくれたのも単なる好感度稼ぎだったのだろう。それくらい鈍い私でも気付いていた。
それでも、形に残って且つとても有難いプレゼントをくれたのも確かで、私は嬉しくて。利用とかなんとかどうあれ、彼は学園に来たばかりの私に優しくしてくれたのだ。全てが終わった後ちゃんと謝ってくれたのだ。
彼は私の大好きな友達の一人だ。そんな友達から貰った物を失くしてしまうなんて、初めてのことで、凄く悲しくて、同時に『もし知られたら』と思うととても怖くて。
「どうしよう」
なんとか何処か冷静な頭を回すも、もう昨日私が行った場所は全て探してしまった。偶々早起きしたから寝坊助な彼とは鉢合わせずに済んでるけど、でも時間の問題だ。早く見つけないと。
「そ、そうだ!遺失物届け……!もしかしたら誰かが拾ってくれてるかも……!」
ふと、仮にもここは学校だから落とし物の管理はしてくれてるだろうと思い至り、私は出していた私物をリュックに詰め直した。
「ふあぁ〜〜……今日は一番乗り………お?」
「!?」
そこへ想定外の人物が入室してきた。
そう、あの夜更かし常習犯で朝に滅法弱いカキツバタ先輩その人だ。
「おーキョーダイ……って、なにしてんの?」
「お、おおおおはようございますカキツバタ先輩!!!」
「声デケーな。おおおおはようございまーす」
早起きは良いことなのに、なんでよりにもよって今日に早く来るんだ、と理不尽に恨めしくなりながら転がる空のモンスターボールを鞄に突っ込んだ。
「なに?荷物ひっくり返しちまったの?」
「そんなところです!!!でももう片付け終わるので!!!うん!!!気にしないで!!!」
「ふーん」
挙動不審な私に、先輩は首を捻る。この人は観察眼が鋭く他人の機微に敏感なのだ、ボロが出る前に逃げ、
「あれ?キョーダイいつもおまもり着けてたよな?今日は無いんだねぃ」
「!!!!」
しかし、その矢先にリュックを指差し指摘されて。
(ど、どうしよう。怒られ……いや、怒るような人じゃないけど、それでも悲しませちゃうかも……!!)
内心焦って考えて考えて。
気付けば咄嗟にデタラメを言い放っていた。
「えと、実は!!この間新しい鞄を買って!!それとどっち使うか迷って荷物移したりしてたら、新しい方に着けっぱなしで忘れて来ちゃったみたいで!!」
「へえー。キョーダイは慌てん坊だねぃ」
「あはは!!本当にね!!自分でもビックリ!!」
誤魔化されてくれた、かは分からない。この先輩はなにを考えているのかイマイチ読めないので。
ただ逃げるなら深掘りされない今のうちだと、早急に持ち物を収めて鞄を背負った。
「それでは私はこれで!!」
「どっか行くの?」
「い、一旦部屋戻って、テラリウムドームに行こっかなって!!じゃあ!!」
「おーう。お疲れーい」
深くは訊かずにニコニコ手を振られるので、安堵しながら会釈して部室を後にした。
「あーーーうわーーー」
カキツバタ先輩に嘘吐いちゃった。向こうの方がいつも嘘や隠し事や冗談塗れだけど、罪悪感が凄い。辛い。悲しい。今回ばかりは彼はなにも悪くないので本当にやっちゃった感が。
ちょっと泣きそうになりながら顔を覆って、しかしどうにか頑張って早々に切り替え私はエントランスに出た。
「あ、あのー」
「! チャンピオン!どうなさいました?」
とにかく泣いてないで一刻も早く発見しなきゃ。既に立っていた受付の職員さんに、スマホロトムの画面を見せながら尋ねた。
「この写真の、鞄に着いてる私のゆれないおまもりなんですけど。今朝から見当たらなくて、多分昨日のうちに校舎の何処かで落としたんだと思うんです。届けられたりしてませんか?」
「ゆれないおまもりの落とし物ですね?確認します、少々お待ちください」
「ありがとうございます」
あるかなあ。あるといいなあ。流石に拾ってそのままパクられたりとかは無いと信じたいけど。でもアレ、ポンと渡されたけど他に持ってる人見たこと無いし結構貴重品っぽいからなあ。
そわそわフラフラ待っていれば、職員さんから返答が。
「アオイさん。大変申し訳ありませんが、ゆれないおまもりは届けられていないようです」
「えっ」
「捜索のお約束は出来ませんが、遺失物届けを提出しますか?」
どうやら誰も持って来ていないらしい。いよいよ八方塞がりだ。
私は軽く絶望しながらも、とりあえず淡い希望に賭けて遺失物届けを書くことにした。
「はぁ〜〜〜〜っ…………」
「チャンピオン、気を落とさないでください。チャンピオンの物ですから、きっと直ぐに見つかりますよ」
それは一体どういう理屈なのか。前々から不思議だったが、スグリの件といいこの学園の人はチャンピオンをなんだと思ってるのかな。私だってそんな絶対的な存在でもなく普通の人間なんですけど。
カキツバタ先輩、よくこんな環境で五年もチャンピオンしてたよなあ。名乗ってなかったって聞いたけど、これは確かに肩書きを背負うのも嫌になるかも。
余りにも気持ちが下がりまくって、ガラにもなく仕様もないことで苛々しながら届出を終えた。
「もう一回食堂と購買を探してみよう…………」
肩を落としながら校舎内に戻り、気付けば人がチラホラ増え出してきた廊下を進む。
何処にも無かったらどうしよう。先輩に嘘まで吐いちゃったし。大人しく白状、した方がいいんだろうけど、嫌われるかもと思うと怖くて。
あの人は怒らないとは分かってる。でも、本当の本当にシンプルに私の管理が甘かった所為だから、もっと早く気付いていれば、そう考えれば考えるほど『とにかく隠し通さなければ』という思考に支配された。
ペパーみたいに素直だったら言えただろうか。ボタンみたいに優しく勇気があったら言えただろうか。ネモみたいに前向きだったら言えただろうか。
「はぁーーーーっっ」
そんな風に逃げようとする自分も嫌になる。もうどうしたら…………
「あれ?アオイだ」
「おーいアオイー!おはよー!今日も早いねー!」
そこへ、ちょっと年上だけど一応同級生と言える友人、スグリとアカマツくんにバッタリ出会した。
あんまり顔を見られたくなかったのに、私を慕ってくれてる二人は満面の笑みで駆け寄ってくる。
「あ、あはは……おはようスグリ、アカマツくん」
なんとか笑顔を取り繕って挨拶したら、近くまで来た彼らは途端に真剣な面持ちになり顔を見合わせた。
「アオイ、今日なんか元気無い?弱火だね?」
「っ」
「大丈夫?顔色悪いし、具合でも悪いんだべか?それとも寝不足?」
「い、いやいやいや!元気だよ!すっごく元気!なんでもな…………」
なんでもない、と言いかけて、以前嘘を吐いてスグリと喧嘩したことを思い出す。
……二人には、特にスグリには、話した方がいいかも。あんまり隠したら傷付くだろうし。
…………いや、カキツバタ先輩でも、傷付いたかもしれないけど…………
あれ、テキトー言った時、先輩どんな顔してたかな………
「えと、実は……大切な、おまもり、失くしちゃって」
「えっ!?」
「それ一大事だよ!!何処で失くし、」
「し、シーッ!大声出さないで……!!」
正直に告げたらアカマツくんが叫ぶので、私は慌てて制止した。
それから一旦二人を人通りの少ない場所まで連れ出し、事情を話す。
「あの、そのおまもりね?人から貰った物で……その、あんまり知られたくないっていうか…………」
「貰い物?」
「知られたくないって、別にその人も怒んねえんじゃねえか?アオイは誰にでも優しいし、謝ればきっと許して、」
「そ、それでも、嫌なの!私が許してもらっても、悲しませるかも、しれないし…………それに、もう誤魔化しちゃって。今更失くしたなんて言えないよ……」
「え……嘘吐いちまったの?」
肯けば、二人は頭を抱える。
「アオイらしくないね」
「人に嘘さ吐くのは良くねえよ。例え相手を傷付けない為でも。今からでもちゃんと謝ろう」
「…………せめて、おまもり見つけてから……」
「強情だな。見つかるかも分かんねんだろ?なら謝って新しい物貰うとか、」
「別に、新しいおまもりが欲しいわけじゃないよ……確かに便利と言えばそうだけど、でもあの時貰った物だから価値があるのに…………」
「…………ごめん」
謝られて首を横に振る。大事な物ほど他人に理解されないことが多いのは知ってたから、そこはいい。
それより、話して謝罪した方がいいという言葉が胸に刺さっていた。言い返しようもない正論だからだ。
だけど、やっぱりちゃんと見つけたいし、新しい物を差し出されでもしたらどうしたらいいか分からないから、私は。
「とりあえず、私もう一度校舎内探して、無かったら一応テラリウムドームに行ってみる」
「ど、ドームまで探すの!?そんなの日が暮れちゃうよ!」
「遺失物届けは?」
「出した……落とし物としても届けられてなかったから」
二人は私が本気で落ち込んでることをとうに察してるのだろう。うんうん唸って悩んでくれて、それから。
「うん!じゃあオレも手伝うよ!」
「俺も!アオイがそんなに悲しんでんのに放っておけないべ!」
そう提案してくれた。
今日も授業あるのに、目星もついてないのに、私の問題なのに、悪いよ。
どれも言葉にならず、それどころか優しさでまた泣きそうになってきた。
それでもなんとか涙を堪えて、笑う。
「ありがとう。お願いするね」
「うん!」
「よーし、そうと決まればリーグ部の皆にも、」
「ああああそれはダメ!!止めて!!誰にも言わないでって!!」
「「え???」」
「でもねーちゃん達なら言い触らさないだろうし、人手は多い方が、」
「おまもりくれたの!リーグ部の人なの!協力なんて求めたら絶対バレちゃうって!」
「あー」
「わ、分かった。それなら俺達三人だけで探そう。絶対皆には内緒で!」
こうして、スグリとアカマツくんは先にテラリウムドームへ、私は再度校舎内から探索することを決めて、一旦二手に別れた。
「ん?」
「? なした、アカマツ」
「いや……今そこに誰か居たような……」
「別に人さ居てもおかしくないし、声掛けねえってことはただの通りすがりだべ。それより早く行こ」
「…………うーん……うん、そうだね!」
結局食堂や購買を隅々まで探してもゆれないおまもりは見つからず、私はアカマツくんのスマホに『無かった。今からドームに行くからまだ探してないエリア教えて』とメッセージを送った。すると『サバンナとキャニオン回って、今はコーストに居るから、あとはポーラくらいだと思う!』と返信される。
「よりにもよってポーラエリアかぁ……」
まああの気候だから後回しにされるのは分かってたけど。カキツバタ先輩と会ってしまう可能性を考えると、気が進まなかった。
でも、他に探してない場所はもう無い。あったとしても足を運んでないから落とし物をする方法なんて無いし。
仕方ない、腹を括ろう。私はアカマツくんに『じゃあポーラに行ってみる』と伝え、相棒のコライドンに乗ってあの雪と氷のエリアまで飛び立った。
「ありがとう、コライドン」
極寒の地に到着すると、地面を注視する為に一度相棒には戻ってもらう。それから歩き始めた。
「見晴らし良いし、あるとしたら直ぐ分かると思うけど……」
もしもポケモンが咥えたりして水の中にドボンとかなってたら完全に終わりだ。あるとしてもどうか転がってますように。
時々すれ違うアローラロコンやクマシュン、他野生のポケモン達に挨拶しながら雪を踏み締める。寒いなあ。もうちょっと着込んで来ればよかった。カキツバタ先輩もスグリも、よくこんな所をあんな薄着で彷徨けるよな。男の子だから?……思えばアカマツくんも厚着とは言い難いし、この学校の男子は薄着が多い。皆元気だな、で済ませることにした。
「……無いなあ。やっぱりスクエアに行って訊いてみた方がいいかなあ。……でも、カキツバタ先輩居るかもだし、」
「オイラが居たらなんだってー?」
「っ!?!?」
そこで独り言を零してたら、聞き覚えのある声と一人称が飛んだ。
私は一気に血の気が引く感覚を覚え、振り向く。
「よっ」
背後に会いたくない人が、嘘を吐いてしまった人が……カキツバタ先輩が立っていた。
彼は相変わらずの張り付けた笑みで私に手を振っている。
なんで、いつから、どうやって。私は口をパクパクさせて愕然とする。
いや、違う、それより、聞かれた。
誤解、される、謝らないと、
「おいおい、随分酷えツラだぜぃチャンピオン。そんなにオイラに会いたくなかった?」
「あ、ち、ちが、そうじゃ、なくて、私、」
「ん?なに?」
怒ってる?怒ってない?分からない。なんで笑ってるの。せめて教えてよ、分かりやすく振る舞ってよ。嫌いなら、嫌いって、嘘吐きだって詰って、
「……んー、なんかアオイ誤解してねえかい?」
「あ、ちがうの、わたし、そんなつもりじゃ、」
「まーまー落ち着け。ほら」
大混乱で脳も声帯もロクに働かない私の目の前に先輩は立ち、
ポケットから取り出したなにかを突き出した。
それは青に近い緑のような、特徴的な、あまり揺れない、
「………………あっ!!!!」
「うおお、ビックリしたあ」
ゆれないおまもり!!
それにこの傷の付き方、間違いない!!私のだ!!
「せっ、先輩これ何処で!?」
「それがよ!聞いて驚きなキョーダイ!」
一体どんな奇怪な場所に、とその真面目な表情に身構える。
「オイラ普通にこの辺ほっつき歩いてたんだが……なーんかポケモンが空飛んでんなーって思ったら、なんと正体はオトシドリ!しかもアオイのおまもりをオイラの頭にポイだ!いやー丁度硬え部分に直撃してよ!はちゃめちゃに痛かったぜぃ!」
……なのに、想像してた五倍ふざけた話が鼓膜に響いて。
「は?」
「はい塩ー!」
いつものような空気の読めない冗談だと気付いた瞬間、思わずネリネさんのような冷たい声と顔になっていた。カキツバタ先輩は何故か嬉しそうに手を叩く。
って、いや、いやいやいや。そうじゃなくて。そういう嘘じゃなくて!!
「本当は何処で見つけたんですか!?」
私はおまもりを雑に渡されながら再三問い掛けた。
カキツバタ先輩は「はいはい降参〜」と今度こそ真実を話してくれる。
「いやなに、シンプルよ。……アオイの部屋のドアの隙間に挟まってた」
「えっウソ」
「ホントー。あ、誤解すんなよ?流石に女子寮にゃ行ってねえさ。ただちょっと女子部員にお願いして探してもらったんでぃ。キョーダイのことだ、自分の部屋、しかもドアの隙間なんて見逃してたんじゃねえか?」
……確かに、室内は探しまくったけど、パニックになってたから細かい所は確認不足だったかも。
それに自室は一番雑に見ていた自覚もある。まさかそんなとこにあっただなんて。灯台下暗しってやつだ。
「大方帰った時におまもりが引っ掛かってプチっと行っちまったんだろうねぃ。現に紐も千切れてたし」
「え?切れてませんよ?」
「あー、そのまま返すのマズいと思って取り替えたんだよ。ほら、千切れたやつ」
彼は見つけただけでなく破損した部分まで直してくれたようで、無惨な姿になった括り付ける為の紐をぶら下げる。
「流石に要らねえだろぃ?処分しとくよ」と直ぐに仕舞ったけれど。
……なんにせよ、よかった。ちゃんと見つかった。このまま紛失したらどうしようかと。
…………それと、あと、もう一つ。このまま流されてはいけない部分があった。
「先輩、あの、怒ってないの?」
「ん?あのチャンピオン様がツバっさんが怒るようなことしたかぃ?してねえよな?」
「し、したよ!私、おまもり失くしたし、嘘を……!!」
「嘘ぉ?そんなのもうおあいこだろぃ。失くしたのだってわざとじゃないし、謝るこたねーさ」
「へ?おあいこ?」
「オイラもさっき言っただろ?嘘」
一瞬ハテナを浮かべたが、直ぐにハッとする。
『なんと正体はオトシドリ!』
「あ、あんなの嘘に入らな、」
「そーゆーことだからよ。もう落っことさないよう気を付けなーチャンピオン!」
「今チャンピオンとか」
「あ。アカマツとスグリにちゃんと連絡しろよ。あと遺失物届けの取り下げも忘れずにねぃ。てなわけで、ツバっさんこれから四天王チャレンジを控えてるので!アオイもまたバトルしようぜーぃ!」
「えっ、待っ何処まで知って」
アカマツくん達に協力を仰いだことといい、遺失物届けを提出したことといい、そもそも誤魔化したのにおまもりを紛失してたってことといい!何処まで把握してるのこの人!?
ツッコミを入れる間も無く、読めない先輩はカイリューに乗って消え去ってしまった。
私は暫く呆然として、やがて手の中のおまもりに視線を落とす。
「…………ズルいよ、先輩」
スグリに対してもそうだったけど、「ごめん」の一言も言わせてくれなかった。
……そういえば、彼のマントと白い靴がいつもより少し汚れていた。あんな軽い調子でジョークを言い放っていたが、彼も彼で相当探してくれたのかもしれない。
「はぁーっ。だからアカマツくんに心配されるんだよ、ツバっさん」
普段は口にしない渾名でちょっと揶揄しながら、スマホロトムで「おまもり見つかった」と同胞に伝える。アカマツくんと彼に聞いたらしいスグリは、電話を掛けてくるくらい喜んでくれた。
『無事に戻ってよかったね!』
『その様子だと傷付いたりもしてないみたいだな。何処にあったんだべ?』
「えと、部屋のドアに挟まってたって……」
『あー』
『アオイ、相当パニックになってたもんな。それは気付かないよ』
「そ、そんなにだったかなあ……確かにパニクってたけど……」
『あれ、でも今ポーラに居るんだよな?なんで部屋にあったって?もしかして誰かが見つけてくれたとか?』
「そんなところ」
なんか言わない方がいい気がしたから、先輩の名前は出さなかったが。
とにかく二人にはちゃんとお礼を伝えて、今度学食でも奢ることを約束しそのまま解散としたのだった。
「ふぅー……こんなしょうもない失くし方で騒がせちゃったなあ」
おまもりは大事なので些事とかじゃなかったけど。落とした場所と理由が馬鹿馬鹿しくて、ちょっと笑えた。
「ま、偶にはこんなこともあるよね」
私は手持ちのボールと相棒に話しかけながら、一度リュックを下ろし。
いつもの位置に、ゆれないおまもりをしっかり結び付けた。
「よし!今度は落とさないようにしないと!帰ろう、コライドン」
やっとしっくり来るいつもの鞄に戻って、すっかり元気になりながらコライドンにライドした。
カキツバタ先輩は、多分感謝も謝罪も受け取ってくれない。それは予想出来たので、せめてお菓子をあげたり書類を手伝ったりはさせてもらおう、と決心しながら校舎内に戻ったのだった。
…………まあ、その後なんやかんやタロちゃんを誘導してまで躱されたのは言うまでもない。何処までも難儀な先輩だなあ、と呆れ果て、悔しさを噛み締めた。