唐鋤星今日はオレ、ペパーとダチのネモが初めてブルーベリー学園へ行く日だ。
どうにも少し前に学園で特別講師?なる制度が動き出したようで。既にパルデアの教師やジムリーダー、四天王、トップチャンピオンまでお呼ばれしていて。その中「生徒同士の交流もどうか」と話が纏まり、オレ達が親友のハルトの推薦で選ばれたらしい。
その中には勿論ボタンも居たが、一先ずオレとネモに来て欲しいとのことだ。大恩人であり一番の親友の頼みなので当然断る理由は無い。単位も貰えるって話だし、意気揚々イッシュ地方ブルーベリー学園へと飛び立った。
「ペパー!ネモ!ようこそ、ブルーベリー学園へ!」
到着すると早速ハルトが歓迎してくれた。まるでここも自分の母校だといった振る舞いに、ホッとしたような寂しいような。
とにかく、ダチはオレ達に学園やリーグ部について教えてくれて、続けてブルベリーグ四天王とやらも紹介した。
「オレ、アカマツです!強火によろしくな!」
「ネリネと申します。お二人の話はハルトやゼイユ、スグリから伺っています」
「私はタロです!よろしくお願いしますね!」
「ペパーだ。まあ、よろしく」
「ネモです!わーっ、ブルーベリー学園凄い!強そうな人が沢山!」
皆ハルトと仲が良いらしい。オレ達のことも無条件に信用してる様子で、やっぱ複雑だぜ。
だが、あんまり攻撃的な態度を取れば困るのはハルトだろう。その名に傷を付けたいわけでもないので、なるべくフレンドリーに優しくと自分へ言い聞かせた。
「それで、……あれ?ていうかツバっさんは?」
「あ、そういえば」
「不在を確認。まだ寝ているのでしょうか」
そこで『ツバっさん』とやらを皆が探して溜め息を吐く。誰だそれ。
「まだ寝てるって、もう昼も近いぜ?そんなことあるかよ」
「あるな」
「あります」
「残念ながら」
「あるんだよねえこれが」
「ええー…………」
オレとネモが首を捻ったら、満場一致で寝ててもおかしくないと頷かれた。どういう生活してんだソイツ。本当にここの生徒なのか?
「その人どんな人なの!?強い!?」
「えーっと、一応ブルベリーグ暫定二位で」
「つまり順位的にはハルトの次に居て」
「元チャンピオン」
「な、なにぃ!?」
「なにそれスゴーイ!!戦いたい!!ね、ね!!何処に居るの!?寝てるなら私が起こしに行くよ!!」
「ネモ、ネモ、落ち着いて。来て早々に男子寮に突撃は流石にマズいから」
元チャンピオンか……しかもこんな時間まで寝てるとか、また癖が強そうだな。
無理してよろしくやる必要は無いだろうけど、仲良くなれるか不安である。
「ちなみに現在リーグ部長であり三留してます」
「個性強過ぎちゃんか……?」
「ペパーも危ないからあんまり人のこと言えないけどね」
「うるせー」
まあ、ボタンとかも留年してたしオレが言えたことじゃないのはその通りだし、三留についてはそこまで気にならない。それぞれ事情ってモンがあるだろう。
だがリーグの部長となると避けてばかりも居られない。どうにか上手くやって行きたい、気持ちだけは、今のところあるけれど。
「あ、先輩返事来たよ。『悪ぃね、今起きたわー』だって」
「はぁーーーーっっ」
「クソデカ溜め息」
アカマツがスマホロトムで連絡を取ったら、皆の言う通り本当に寝てたとのことだ。タロとネリネが呆れ果てる。
……この空気、皆ソイツに苦労してるんだろうなあ。ランキングは強さで決まるからともかく、なんでそんなヤツが部長やってんだ?
「アカマツくん、『三分で来なさい』と伝えて」
「オッケー!」
中々無茶なことを言うタロに、アカマツは従った。ネリネもハルトも止めないし、普段の扱いがよく分かった。
そして、それから十五分後。
「おーっす皆、おはよー」
「『おはよー』じゃない!!!」
結局三分で準備は終わらなかったようで、十分以上オーバーしてソイツは現れた。
寝坊に遅刻までかましといて悪びれもせず、怒られてもへらへら笑う白い髪の男。三留してるだけあってハルトよりそこそこ年上に見えるソイツは、オレとネモを見て「お?」と目を丸くした。
「なーんか知らない顔が居るねぃ。誰?」
「はぁーっ」
「カキツバタ……ハルトさんが話してたでしょう。特別講師として来た!!オレンジアカデミーの!!生徒さんです!!」
「あー!そういやそんな話もあったなぁ!」
「もーっ!!忘れてたの!?先輩部長なんだからしっかりしてよ!!」
オレ達の訪問さえすっかり忘れていたと宣うソイツは、変わらず愉快そうに手を叩いた。
……なんだコイツ………としか思えなかった。
「初めましてだねぃ。オイラはカキツバタ。お二人さんの名前は?」
「あ、ペパー、っス……」
「ネモです!ねえカキツバタさん強いんだって!?勝負しよ!!」
「おーおー元気が良いねえ!でも今寝起きだから後にしてくれぃ。どうせやるなら万全の状態のがいいだろ?」
「確かに!!分かりました!!」
あ、あのネモがお預けを受け入れた!?
暴走しがちなバトルジャンキーのダチを一瞬で止めたカキツバタに、益々『なんだコイツ』と戸惑う。ハルトも仰天していた。
「じゃー紹介も終わったしゆっくりしてきなー。オイラは眠気覚ましにドーム行ってくるわ」
「あっ!待ちなさい!仕事は!?」
「後でやるー」
「コラ!!そういうの良くないと思います!!」
「へいへーい」
よく分からないまま、カキツバタは欠伸を零しながらどっか行ってしまった。
……居なくなるの早過ぎだろ。仲良くなれる気がしねえ。
「ごめんなさいお二人共……あのちゃらんぽらんが」
「ネリネ達が代わりに謝罪を」
「い、いやいいけど。なんか変わったヤツだな」
「でも隙が無い感じで強そう!!」
「隙だらけだと思いますけど……」
髪型も服装も不良っぽかった。少し前のオレだったら普通にビビっていた気がする。ハルトとの冒険でメンタル強くなったから今は平気だけどよ……
「ハルト……アイツに妙なこと吹き込まれたりしてねえよな?」
「えっ!?いやいやそれは無いって!ツバっさん意外と良い人だから大丈夫だよ!意外と!」
「『意外と』強調するね!」
「まあ、事実悪人ではありませんが。あの通り面倒くさがりでサボり魔でダラけてばかりなので、私としてもハルトさんに悪影響な気はしますね」
純粋にハルトが心配になってきた。元チャンプだか部長だか知らないが、誰であれオレのダチをグレさせでもしたらこの手で……
「でもハルトはカキツバタ先輩のこと大好きだもんな!いっつも『ライバル』って言ってるし!」
「「!!」」
「あ、アカマツくん!!シーッ!!」
そこで爆弾発言が飛び込み、ネモが反応した。
「へえー、ライバル?でもハルト、一番のライバルは私だよね?」
「そ、それは勿論!!!当然だよ!!!」
「ま、まあライバルってのは何人居てもいいもんな!な!?」
「?? そう、ですね」
「一人でなければいけないという定義はありません」
「んー、でもそっかあ、カキツバタ先輩でも一番じゃないのかあ。学園でハルトに勝てたの先輩くらいだからてっきり、」
「えっ」
「あ」
「…………ハルト、負けたの?カキツバタさんに?」
アカマツは次々とんでもない事実を口にする。ハルトが負けただって?あんなユルい顔した男に……?
ネモに詰め寄られた親友は、暫く沈黙して怯えて……
「……ハイ、負けました…………」
やがて認めた。
ネモは静かになって、深呼吸をする。
それから、
「ちょっとカキツバタさん探しに行って来る!!!」
「ね、ネモ!!講師の仕事は!?」
「後でやるー!!!」
「ネモーーっ!!!」
そう飛び出してしまった。あーあ…………カキツバタ死ぬかもなあ。
実はオレも一回だけハルトに勝ったことあるけど。今となっては実力差はかなり開いているので、現在の最強と呼ばれるハルトが負けたとあればネモ的には黙ってられないのだろう。
ああなると追い掛けようがないから、ポカンとする四天王達に謝った。
「お、オレこそごめん。なんかマズいこと言っちゃった、んだよな?」
「いや、ああ、ううん、うん……ネモはちょっとバトルと僕への執着が凄くてね……」
「延々バトルアンコールになるだけで変なことはしない筈だから、そっとしておけ。首突っ込んだら止めるどころか巻き添え食らうからな」
どうにもならない、触れないのが一番だと親友と共に言い含めれば、三人は遠い目になってしまった。
「ハルト、先輩と親友なら助けに行ってあげればいいのに」
「あ?」
「あーもうアカマツくんなにも言わないで!!!お願いだから!!!」
そこへ次はオレの地雷が踏み荒らされた。
親友だと?あのふざけた男とハルトが??親友???
「ふぅー……オレもドームとやらに行って来るわ」
「ペパーっ!!待って!!ごめんなさいお願い待って!!」
「あれ?オレまたやっちゃった?」
「みたいですね」
「流石はハルトのご学友……個性が強い」
冒険家とはいえ年下だ。オレはハルトの手を難無く振り払い、ナントカドームという学園内にある大自然へと飛び出した。
そこの中心にあるスクエアとやらが騒がしかったので向かってみれば。
「パーモット!!"れいとうパンチ"!!」
「はぁ、はぁ、オノノクス、"じしん"だ!!」
既にネモがおっ始めてて、対峙してたカキツバタはヘロヘロになっていた。この短時間で何戦したんだコイツら??
「ぜーぜー……ネモさぁん、もう勘弁してくれねえかなあ。オイラもバトルは好きだけどよお、連戦するならせめて休憩…………」
「まだまだぁ!!行けジュナイパー!!」
「マジかよ……オノノクス、"ワイドブレイカー"……ゲホッげほ!」
集まっていたギャラリーのテンションは最高潮だった。その人混みにオレも混ざって叫ぶ。
「おいカキツバタ!!それが終わったら次はオレとバトルだぜ!!覚悟しとけよ!!」
「はぁーっ!?」
「ペパーも滾ってきた!?いいよ!終わったらね!」
「ちょっ、ええ!?アンタらなに!?オイラなんかしたっけ!?」
カキツバタがなんか喚いてるが、本当にハルトの親友に相応しいか確認しねえと気が済まねえ!!嫌だと言われようが絶対やる!!ギタギタにする!!
目で訴えれば、カキツバタはガシガシ頭を引っ掻いて。
「はーっ、さっすがキョーダイ!!とんでもねえお友達呼んでくれたねぃ!!」
『バトルは好き』というのは嘘ではないらしく、疲労困憊ながら楽しそうに口角を吊り上げた。
「ぶっ放せ、オノノクス!!」
「頑張ってジュナイパーっ!!!」
結局その日はカキツバタがぶっ倒れるまでポケモン勝負をしてしまった。
そして翌日。ネモと入れ替わってボタンがやって来たが。
「えと、初め、まして。ボタンです」
「…………カキツバタでーす」
「あれ?なんかうちめっちゃ警戒されてる?もしかしてカキツバタさんも人見知り族?意外……」
「いや人見知りどころかコミュ強の部類なんだけど……」
「昨日ネモさんとペパーさんと色々あって」
「なにしたんだし???」
ボタンよりもカキツバタの方が警戒心マックスになってしまい、オレはハルトとブルベ四天王達にみっちり叱られたのだった。
あとボタンとカキツバタは存外共感出来ることが多かったらしく直ぐに仲良くなった。想定外のことだらけで、学園も中々退屈しないな、と思った。