地獄の沙汰もバトル次第 6日照りの中、結晶が砕けリザードンが倒れ伏した。
「勝者、チャレンジャースグリ!!こ、これによりランキング変動!!ブルベリーグチャンピオンは、スグリとなります!!」
観客席が騒つく。三天王とゼイユが絶句している。
その中オイラとスグリは、ただ静かに互いを見据えていた。
「……本当、強くなったねぃ、お前」
「はぁっ、はぁ…………は、はは、勝てた……見ろよ、やっぱり俺は正しかった………!!頑張れば才能にも主人公にも勝てるんだ!!」
「……………………」
ただ、向こうはオイラを見ているようで見ていなかった。相変わらず何処か遠くのなにかを見ている。
人のことを勝手に捻じ曲げないで欲しいなあ。オイラはお前が認めて欲しいと思うヤツを知りもしないんだぜ?ていうか『主人公』ってなんのことよ?
やっぱ、お互い呼び掛けても叫んでも届かねえんだなあ。
スグリの身体が傾く。
あ、と思った頃には、ゼイユが飛び出して床に激突しそうになった痩身を支えていた。
「スグ……!!っ無理し過ぎだったのよやっぱり!!」
「ゼイユ、スグリは!」
「多分寝ただけ!あたし運んでくるから!後はよろしく!」
「あ…………」
この場の酷い空気も辛かったのだろう。ゼイユは弟を抱えて急いで走り去り、駆け寄っていたネリネが手を伸ばしかけて下ろす。
「カキツバタ!!」
「先輩!!」
続けてタロとアカマツがこちらに来る。
その剣幕に首を傾げていたら、タロが掴み掛かってきた。
「あ・な・た・は!!本当に!!アカマツくんの話聞いてなかったんですか!?!?」
「ぐえぇえっ、ちょっ、なになに」
「『なに』じゃない!!貴方は倒れたんですよ!?病み上がりで暴れるとか良くないと思います!!!」
「いやあ全然元気だからいいかなって」
「良くないよ!!先輩のバカっ!!」
「塩ぉ」
てっきり負けたことになにか言われるのかと思ったが、どうやら倒れて直ぐにチャンピオン戦を受けた方がお気に召さなかったらしい。優しいヤツらだねー。
バトルで若干忘れかけていたオイラは物理的に揺さぶられながらへらへら笑って見せる。
「そんなことより負けちまって悪いねー。頑張ったんだけどなあ」
「あ、っなたは、もう……!!」
「理解不能……」
「負けたとかそういうのじゃなくて!!先輩のこと心配してるんだよ、オレ達は!!」
「心配してるヤツの揺らし方じゃないねーぃ」
ガクガクグラグラ身体が動く。三半規管はそこそこ強い方なので酔いはしなかったけれど。
そこへ、ギャラリー達のどよめきというノイズが耳に届く。
「カキツバタ先輩、負けちゃった……」
「ってことは、またスグリが部長になるのか?」
「そんな……!!じゃあリーグ部はどうなるの!?」
「折角復帰したのに……!!」
「先生!!そろそろどうにかしてよ!!なんでずっと見てるだけなの!?」
うーん地獄。本当に負けてしまって申し訳ありませんね。
異例も異例だらけで先生達も対応に悩んでいるのだろう。懇願されても答えられていなかった。
チラチラと縋るような視線を向けられる。しょうがねえなあ、ダメな大人の代替品をやってやりますか。まあついでだけど。
「まー要するにアレだろぃ!?オイラがまたスグリから王座を奪い取っちまえばいいわけだ!!」
「は、」
「え……」
「か、カキツバタ!!貴方なにを言って」
「任せろぃ任せろぃ!!お望み通りオイラがやってやりますとも!!なんたって先輩だからねぃ!!」
わざとらしくフラフラ両腕を上げ、それだけ告げてその場を離れた。騒いでた皆はポカンとしていたけれど、まあいいだろう。
後からついてくるタロが「話聞いてた!?」と怒るので、「大丈夫、もう倒れねーから」と迷惑を掛けてしまったことは謝罪した。「そういうことじゃない!!」とまたキレられるけど、オイラにとってはそういうことなので。
「カキツバタ!!私もう見たくないですよ!!あんなに楽しくなさそうに勝負する貴方なんて!!」
歩幅で引き離してしまおうと早歩きをしていたら、ライバルが息を切らしながら叫んだ。
悲痛な声につい足が止まる。もしかして泣いてるのかな。気になるが、彼女はオイラに泣き顔なんて見られたくないだろうな。
だから振り向かず、しかし顔はどちらも見えていないにも関わらず作り笑いを浮かべて言った。
「また楽しむ為に今頑張ってんだ。そういうこともあるとでも思ってくれや」
楽しいだけじゃないのが人生だろ?
言い訳に近かったが、まさかオイラからこんな言葉が出るとはなあ。
言っておきながら自分でもビックリしたが、タロが静かになってしまったので再び歩き出した。やはりその顔は見れなかった。……オイラも大概人の話聞いてねえなあ。
あの後オイラ自身とスグリの体調の関係で手続きやらなんやらは後回しになって、それから三日後の今日。やっと部室に現チャンピオン様が現れた。
ので、姉に付き添われながらだった彼が怯える部員へ口を開く前に、オイラが一言ぶつけた。
「スグリ。早速だがチャンピオン戦を申し込ませてもらうぜ」
またリーグ部で好き勝手してえなら、もう一度オイラを倒せ。
ゼイユも三天王もお冠で、他の部員もオロオロしてたが。ここで退くわけにはいかない。今のコイツが部長なんて、以前より酷い有様になるのは火を見るより明らかだ。
「……悪いけど、正式なチャンピオンになる為の書類がまだ」
「そんじゃあ『不戦敗』でいいんだな?」
「っ!お前な……!!」
睨まれ唸るような声を出されても、ただ微笑む。
スグリの視線は最早『ただの邪魔者』に向けるソレではなくなっていた。そんなにも似てるのか?オイラと『アイツ』とやらは。
まあ似てる似てないってとこはどうでもいいが。
「分かったならエントランスに出な。今回"も"、楽しくやろうや?」
「チッ……分かった」
「スグ!!アンタまだ病み上がりなんだから、」
「黙れよ。俺とカキツバタの問題だ。弱いヤツには関係無い」
「っ……」
……ふーん、オイラはもう"弱いヤツ"じゃないんだねぃ。大層な評価を頂けて光栄ですこと。
機嫌を損ねても面倒なだけなので心の中で吐き捨て、バトルコートに立った。
最早大人達は異常なモノを見る目だった。
生徒達も中々な面持ちでオイラとスグリを見つめていて、実感する。
「オイラももう学園引っ掻き回しまくってる迷惑な狂人なんだろうな」
「……なにか言ったか?」
「いんや?」
いいさ。嫌われ役は慣れてる。オイラがちょっと損するだけで丸く収まるならそれでいい。
ギャラドスとキングドラのボールを握り締め、いつものルーティーンの後身構えた。
「で、では……四天王及びチャレンジャーカキツバタvsチャンピオンスグリ!!勝負開始!!」
オイラは雨パ、スグリは晴れパで組んでいたバトルは随分シンプルな気がしたが、どうにもギャラリーや審判はついていけなかったらしい。
歓声も悲鳴も応援も、なにも聞こえないままただ雨と技の音とオイラ達の声ばかりが反響して、やがて決着した。
オイラの勝ちだった。
「えっ…………」
「……あ、しょ……勝負、アリ!!勝者、チャレンジャーカキツバタ!!ランキング変動!!ブルベリーグチャンピオンは、カキツバタとなります!!」
観ていた生徒全員が愕然とする中、スグリは頭を抱えて呼吸を乱していた。癇癪を起こさないだけまだマシか。
次第に正気に戻ったギャラリーは、どうすべきか迷う素振りを見せながら徐々に立ち上がる。繰り返されるチャンピオンの交代に現実味なんざあるわけがなく。
一方ただ一人冷静だったオイラは、笑った。
「残念だったねぃ。"元"チャンピオン」
「…………!!」
こんなこと、お前の渇望する『アイツ』は言うか?
なあ、そろそろ現実を見ろよ、スグリ。オイラは天才でも主人公でもなんでもないんだぜ。
お前を叩き潰し踏み躙る、単なる留年生だ。
「カキツバタ!!そういう煽りは」
「へいへーい、ジョーダンよ、ジョーダン。また挑みたいなら待ってるぜ、スグリくん。そろそろ諦めてくれた方が嬉しいけどねぃ」
「だから!!」
「発言には配慮を。そのような言動は好ましくありません」
「いつものことだろーい。オイラに気遣いとかムリムリ」
ポケモン勝負は終わった。ここに居ても息が詰まるだけだ。
逃げるように足を動かし校舎内へ引き返した。もう何度この流れをやったのだろうか。
「カキツバタ……!!次は、俺が勝つぞ!!!」
オイラとスグリの地獄は、とっくの昔に幕を開けていたんだ。
悪循環は加速するばかりだ。
チャンピオン交代後、スグリはまた公式戦を仕掛けてきた。
流石に再び先生達に止められたが、オイラは当然のように受け入れ、バトルをした。
結果はオイラの勝ち。しかしそれでもスグリは懲りない。何度も何度も挑み続け、やがてオイラに勝利した。
またチャンピオンが交代すると、立場は逆転する。今度はオイラがスグリへの挑戦をしつこく続けた。
そしてまた頂点の椅子を奪い返す。するとまた立場は変わりスグリがオイラを倒しに来る。
ずっとそのループだ。悪循環以外の何物でもない。
スグリの内心は知らないが、オイラはもうどうしたらいいのか本当に困っていた。諦めるわけにもいかず、そもそも諦めたい気持ちも湧かず、だけどこんなことをしたいんじゃなかったのに。
表面上はいつも通り振る舞っていたが、スグリへの感情ももうぐちゃぐちゃでめちゃくちゃで。きっと最初に抱いていた純粋な『救いたい』という気持ちは影も形も無いだろう。
楽しくもないバトルを何十回、何百回と繰り広げて、最強の椅子を奪い合う。バカバカしかった。お互い『チャンピオン』なんかには執着していないのに、一体なんの皮肉か。
見兼ねた三天王とゼイユ、部員達も先生へ相談したらしい。そのうちカウンセリングの場を設けられたが。
「別にオイラだってやりたくてやってるわけじゃねえっスよ……スグリが元に戻るなら、チャンピオンの座くらいくれてやってもいいのに」
諭されても相談しなさいと言われても、そうとしか返せなかった。だって事実だから。皆「カキツバタが部長だった時の方が良かった」と言うから。「最強なんでしょ」「なんとかしてくれ」と期待してくるから。オイラも皆も楽しい箱庭に戻って欲しかったから。スグリもリーグ部も元に戻す為に勝とうとしていただけだったんだ。
それがどうしてこうも歪んでしまったのか。他に解決法があるなら是非とも教えて欲しいさ。全部元通りになるなら今直ぐにでもこんな暴挙止めるに決まってる。
……カウンセラーも先生も曖昧に微笑むだけで、結局頼りにはならなかった。
スグリの方も似たようなものだったようで、お互いの関係性もやり取りも一切変わらなかった。
いよいよ八方塞がりだな、と笑えてしまう。向こうに至っては無理が祟って何度も体調を崩すし、それでも身体を引き摺りながら立ち向かってくるのだから最悪でしかない。
そのうち「スグリが授業に出なくなった」と耳にした。
曰く、「レベルが低い」「時間の無駄」という思考らしい。オイラが言えたことじゃないが流石にマズいだろう。
だが彼は誰の言うことも聞かない。強者至上主義を持ち出しながらオイラの気遣いも無視なのだからそりゃそうだ。
「『主人公』とやらは、助けてくれ、って言ったら助けてくれんのかねぃ」
『アイツ』とやらは今何処に居る?居場所と素性さえ分かれば引き摺り出してスグリの前に突き出すのに。名前も顔も声も知らないのでそれは叶わない話だった。
ゼイユも何度訊いても口籠るし。……諸々を踏まえて推察するに、姉弟にとっては大事な友達なのかもしれない。
知ったことか。
ソイツの所為でどれだけ皆が迷惑を被ってると思ってんだ?
…………最早なにも知らない相手しか怒りをぶつける対象が居なかったのもある。だがスグリが歪んでしまったのは確実にソイツとなにかがあった所為だろう。
本人に悪意や悪気が無くとも、スグリの勝手な思い込みだとしても、説明してもらえなければ悪者と捉えてしまうのは当たり前だ。
スグリはともかくゼイユは庇ってるつもりなのかもしれない。友人に非があるように言いたくないだけなのかもしれない。しかしてんで逆効果だ。
「つーことでブライア先生。林間学校ってパルデアのオレンジアカデミーの生徒と一緒だったんですよね?どんなメンバーだったか教えてくれや」
非常識は承知で、林間学校の引率をしていた先生に尋ねてみた。当たり前だが「プライバシーがあるので」と教えてもらえなかった。今更まるでマトモな大人面だ、腹が立つ。
シアノ校長もだんまりで、「バトルに勝ったら教えてあげてもいいかも?」と言うので即座にその申し出を受けて叩きのめしてやった。だが直ぐに「そんなこと言ったっけ?」とトボける始末。これでどうここの大人を信頼しろと言うのか。
ただ、シアノ校長までもを打ち倒したことにより先生達はまた動き出した。
『ディンドンダンドーン』
オイラが何度目かのチャンピオンとなった二日後だ。部室にてアカマツに押し付けられたサンドウィッチを食べていると、校内放送が流れる。
『放送室より生徒のお呼び出しです。リーグ部チャンピオンカキツバタさん。四天王トップスグリさん。お客様がお待ちです。校長室までいらしてください』
『ドンダンドンディーン』
「校長室?お客様?」
「カキツバタ、心当たりは?」
「ねーけど……まあ呼ばれちまったモンはしょうがねえ。ちょっくら行ってくるわ」
「行ってらっしゃーい」
面倒だが行けば分かる。余計に考えて体力を使ったりはせず、立ち上がって校長室に向かった。
到着すると、「スグリは一足先に来て生徒指導室へ行った」「二人のお客様はそれぞれ別の人なのでキミは違う指導室に行って欲しい」と目的地を告げられ、怪訝に思いながら渋々校長室を出る。なんなんだ、一体?
暇ではない故にバックれようか悩みながら、なんとなく嫌な予感がして従った。複数ある生徒指導室のうちの一つの扉を叩く。
「失礼しまー…………」
「よく来たね、カキツバ」
「失礼しましたー」
「コラ!!」
室内に入った途端、見覚えがあるどころではないツラが視界に入って直ぐにドアを閉めようとした。
即座に叱られたのでギリギリで止まり、改めて入室する。
「久しいな、カキツバタ。元気そう……ではないようだ」
「なーんでアンタがここに居んですかねぃ……ジジイ……」
そう、待ち構えていたのはオイラの血の繋がったジジイ。つまり祖父のシャガだった。
仕事柄バカみたいに忙しい彼がこんな昼間から自分の目の前に鎮座している事実。それが信じ難くて現実逃避したくなった。マジでなに?なんでこんなとこに居んの?仕事は?屋敷は?
「とにかく座りなさい。話はそこからだ」
「へーい……」
ともあれ、促されたので彼の正面の椅子に腰を下ろした。座り心地は悪くないが居心地は悪い。
「さて。早速本題に入らせてもらうが」
「なんでしょー」
「先生達から聞いたよ。近頃随分と問題行動を起こしているようじゃないか。なんでも後輩である男子生徒と大喧嘩をしているとか……」
あー成る程?そういう感じね?
こうなった訳が分かった気がして、ここの教師の頼りなさに益々失望する。要はオイラとスグリがめちゃくちゃやってるので保護者に助けを求めた、ってことか。
となると、スグリの方も…………
「やだなあ、オイラ喧嘩なんざしてないぜーい。学園もリーグ部もみーんな仲良しだから安心しろぃ」
「しかし、きみ達はチャンピオンの椅子を奪い合っていると……それもとんでもない剣幕と顔色だったと伺った。現にきみは体調が悪そうだ」
「そんなこたねーって。確かに頻繁にやり合ってチャンピオンも交代しまくってるが、ここはバトル強豪校なんだからなんにもおかしなことじゃねえだろ?」
「しかしだね」
やれやれと眉間に皺を寄せながら溜め息を吐かれる。
実際『大喧嘩』と言われるとちょっと違うわけだ。スグリはオイラを見てないし、オイラだってスグリをどうこうしたいんじゃなくてただ助けたいだけなのだから。ギスギスしてるとはいえ喧嘩ではないだろ。多分。
一人で納得していれば、祖父はまた息を吐き出した。そんなに面倒なら来なければいいのに。まー体裁とかあんのかねー。
「何故そのようなことを?きみはそんなにもチャンピオンに拘りがあったのか?」
「いや別に。チャンピオンは正直どっちでもいいというか、どうでもいいというか」
「ではどうしてチャンピオン戦など……」
「黙秘しまーす。教師はともかくアンタが出る幕じゃねえよ。単なるガキ同士の揉め事でぃ」
「そういうわけにもいかない。先生達は大変困っている様子だった。保護者の私達も仲裁に入るのが道理だろう」
「へえ。じゃあ具体的になにしてくれんの?停学?退学?それとも退部?」
「どうしてそうなる。飛躍し過ぎだ」
面談や相談だけでどうにかするって?そっちの方がおめでたいだろ。
力技に出る気は無さそうな様子に呆れ果てる。助かるには助かるが、大人ってのはなんのプランも持たないバカばかりなのだろうか。
「カキツバタ。何故後輩と王座を争っている?」
「…………………………」
「答えなさい」
とはいえ、なんだかんだオイラもドラゴン使いの一族の人間。当主様のご命令とあらば逆らうわけにもいかず。
ついさっきに黙秘したばかりだが、答えてやることにした。
「知らねー。正直オイラだって困ってんだよ」
「と、いうと」
「こんなことになるとは思わなかったんだ。でももう後戻りも出来ねえし……スグリを元に戻せるならアンタに泣いて縋ってやってもいいんだがねぃ」
話はそう単純じゃない。オイラもどうすればいいのか分からないのだ。
「泣いて縋ってもいい」は半分冗談だったが、そうして解決するならプライドなど捨ててやるさ。元々有って無いような、些末で仕様もないものなのだから。
「ただアイツを救いたかっただけなんだがねぃ……間違えちまったんだわ」
「…………件の少年に、一体なにが?」
「さあ?オイラも訳分かんねえまま巻き込まれた側なもんで。本人かアイツのねーちゃんにでも訊いてくれや。どうせ答えないだろうけど」
「そうか……」
オイラは間違えただけで原因そのものではないと信じてくれたようだ。ジジイは悩むように眉間を揉む。
「しかし、ならば何故?」
「ん?」
「面倒事を嫌うきみが、チャンピオンの座を奪い合ってまで止めたがるのは何故だ?きみは全くの無関係なのだろう」
「だってよー、スグリのヤツ部長になった途端めちゃくちゃ好き勝手してくれたんだぜ?具体的には言えないが、本人含めた誰の為にもならないような振る舞いだった。だから先輩として目を覚まさせてやりたかったんだ」
「それが裏目に出た、と」
「そ。オイラはおバカだからよ。一回お灸を据えれば解決するって思っちまったんだ。……んで、気付いた時には止まれなくなった」
「……………………」
「なあジジイ。権力だとか立場を使おうと思うなよ」
「!」
「さっきも言ったがアンタの出る幕じゃない。スグリを追い出したってなんの解決にもならない。だからオイラはアンタを頼らずに頑張ったんだ。……頼むから、放っといてくれ。他の保護者に出てこられちゃもうなにも言えないが……オイラはアンタの助けなんざ望んでない」
「カキツバタ……だが、……いや、そうか…………」
回りくどい言い方をしても通じないだろうから、もうハッキリ拒絶を示した。
思えばここまで明確に口にしたことは無かったので、ジジイはガラにもなくショックを受けたような顔をする。アンタの表情筋ってちゃんと生きてたんだなあ、とかどうでもいい感想を抱いた。
「ってなわけなんで。お忙しいんだろぃ?オイラは気にせずお帰りくださーい」
「………………しかし、きみは理不尽な目に遭っているのだろう。ならば私も」
「だーから、ジジイに助けて欲しくないって言っただろ。余計なお節介は止めてくれ。……嬉しくもないし、むしろ迷惑だ」
いっそ今以上に嫌われてしまえば、と顔を背けた。そのまま返事も聞かずに立ち上がる。
「ま、今年は進級するつもりだから安心しろぃ。じゃあな」
「待ちなさいカキツバタ、話はまだ」
「オイラから話すことはもう無いんで」
「っ……」
そうして部屋を出て、扉を閉めた。
……これでいいんだ。そう自分に言い聞かせながら歩き出す。
「後から姉貴がうるさそうだなあ……あーあ」
どうしてこんなことになってしまったか。オイラが一番知りたいよ。
……その後会ったスグリも、少し萎縮して今日のチャンピオン戦を見送ってくれた程度で殆どなにも変わっていなかった。保護者である祖父母でさえ彼の心を救えないらしい。
じゃあやっぱり『アイツ』とやらかなあ、どうしたもんかなあ、とフラフラしながら考える。答えなど出るわけが無かったが。
そんな幸せな人間など居ない地獄で過ごし続けて、また数日後。
パルデアのオレンジアカデミーからチャンピオンランクの交換留学生が現れた。