原作👹ちゃん夢 嗅ぎなれない匂いがする、それは微かなものだが、代わり映えのしない世界においては、ごまかしのきかない異端だった。
アタシはざわつく鬼の群れから早々に離れて、線路の脇に止めてある古ぼけた車に乗り込み、エンジンをかけた。
古いからしかたないけど、座り心地はわるいし、走り出したら小石まみれ雑草まみれの道のうえで更に不快感を増すけど、人をだましてゆっくりじっくり食べるまでの我慢。
さあて、どんなヤツがきたかな。若いやつがいいな。男は歯ごたえあるけど、女の嚙み心地も柔らかくて好きだ。
でもあんまり期待すると、ひょろひょろのガキなんか現れたときガッカリしちゃうな……?
ちょっと車をはしらせて、トンネルの入り口が見えてきて、ふと違和感に気づいた。
違和感の正体がわかる前に自然と右足はブレーキを力いっぱい踏んで、両手はハンドルをありったけ右に回していた。遠心力で体が揺れる。
手癖でサイドブレーキをかけてエンジンをきって、思考がまとまるころにドアを開けて車外に出た。
「なんで誰とも会わないんだ……?」
いつも人間はトンネルを超えてくる、そうしないと鬼の住処まで匂いは届かない。
人間は引き返したのか…?それにしちゃ、このへんから、きちんと匂いがする……
「まさかッ――」
待ち伏せされていたのは、アタシの方か。
その考えに至ったとき、背後から殺気を感じた。とっさに膝をまげて体を小さくする。
角の上をかすめていった何か……月光の反射からして丸い小ぶりな金属……? それを鎖で繋いでるな、そういう武器は、たしか鎖鎌といったか、ずいぶん古風な武芸者だ。
「おもしろいじゃん!」
空振りした分銅と、鎖を掴んで、一本釣りするみたいに引っ張った。
すると甲高い声とともに、ぴゅーっと小さな影が宙を舞い、アタシの足元に落っこちた。
「なんだあ…?ガキじゃないか…?」
二つ結びのくせっ毛、リボンつけた黒い服と紫のスカート、素足に黒いローファー。
「ちぇ……弱いし、食べ応えなさそうだし、ハズレだな。」
「ハズレだとお!」
起き上がって、落ちた鎌をひろって、それについている鎖の先のアタシの手を見た。
「かえせ!!」
「……度胸はあるみたいだな。」
「聞いてんのか!?」
「聞いてる聞いてる。あんたいくつ?」
「いくつだと!!ケンカうってるのか!?」
「はあ?」
ただ年齢をきいただけで目をつりあげて憤慨した、なんかおかしいな、アタシにビビらないし鎖鎌なんてつかうし、オマケにこの反応、まさか……人間じゃないのか?
「あんた何者?」
「死神だ、鎌もってるだろうが。節穴め。」
「…………。死神が鬼になんのよう?」
「鬼ぃ?……え、お、おまえ、鬼なのか?」
「はあ?知らないできたのか?……へへ、角ついてるだろうが。節穴め。」
同じ言葉を返してやると真っ赤になって悔しそうに口をへの字にした、いい気味だな。
「ちょっとまて、なんで人間界に鬼がいるんだ、ナスコはちゃんと人間界に来てたはずだ!」
こいつナスコっていうのか。
「電車に乗ってきたんだろ。よくわからないけど、夜に電車で人間が違う世界から運ばれてくることがあるんだよ。
あんたもそのうちのひとり……死神は初めてだけどな。」
「そ、そんな……死相の出ているやつを探してたら寝落ちしただけなのに……」
「死神が寝落ち!?アハハハ!」
「笑うなぁっ!!
おい鬼!はやく帰り道をおしえろ!」
ひとに物を聞く態度じゃないな、バカなちんちくりんでも死「神」だからか、態度がでかい。
「ん……あんたを食えば、死神を食ったことになるな?
……じゅるり。」
「ひいっ!!??」
アタシの涎をみて身の危険を感じたか鎌を両手で握りしめて後ずさり……しようとしたが、鎌についてる鎖分銅はアタシが握りしめてるから無理だ。
「逃がさないよーっ!」
鎖を引っ張ったら簡単にこけた。鎌を離さないのは、あきらめきれないってことだろうが、バカだな……
本当にあきらめたくなきゃ使えない武器をとっとと離して逃げるべきだ。
まあそうしたとしても、アタシが今言ったとおり、逃がさないが。
手から力ずくで鎌を取り上げ投げ捨てて、金属音が無情になるうちに首根っこつかんで持ち上げて、震える目の色は明るいピンクとオレンジ色が混ざり合っていて綺麗だと思った。
「……目はデザートだな。いただきま――」
「おまえが死ぬぞ!!」
「あ?」
なにいってんだ?
「し、し、死神の体には、死のエネルギーがたくさんはいってるんだ!マズすぎてお前も死んじまうぞ!?」
「………………」
「本当だ!試してみて本当だったらどうするつもりだよ!?怪我したナスコが死神仲間にこのこと話したら、鬼の命を刈り取りに押しかけてくるぞ!!いっとくけどナスコより強い死神ばっかりだ!!」
汗だくで言ってる、前半に関してはどうみても出まかせ……でも、アタシは死神を食べて無事だったという話をしらないな。
「……ゲテモノ食いはたしかに危ないな、マズすぎて気絶くらいはありえる。それであんたを逃がしたら本当に死神と戦争になっちゃうかもだな。」
「いまゲテモノって言った!?」
「あんたより強い死神とやりあうのは楽しそうだけど、ボスとしちゃ戦争は御免だ。」
「!! 見逃してくれるのか!」
「いったん、な。死神を食えるってわかったら食う。」
手を放してやると顔面から地面におちた。そして慌てて鎖鎌を回収して、トンネルのほうに走る。
「食われるもんかバァァカッ!!」
と捨て台詞吐きながら、闇に消えていく。
つぎは普通に人間がきてくれるといいなあ。