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    やまなしおちなしいみなしです
    タグのテーマで書き始めたら全然関係なっちゃったのの供養です
    朮″シュワラャがずっと内心もちゃもちゃしているだけの内容となっております

    主朮″の小説!「お前ってとっつきやすくなったよなあ」
    「……いきなりなんだよ教官」

     昼休憩も半分が過ぎたあたりの時間。自分が所属する初心者コースの教官であるルークは、ふと思い立ったように話しかけてきた。ボシュは今さっきまでサンドバッグを殴っていた手を止め、振り返る。

    「私もそう思うわ!ボシュって意外と話しやすいんだ〜って最近分かったのよね」
    「な、冗談とかも言うし」
    「そりゃ、話しかけられたら返すだろ?」
    「ボシュはいい子だよな〜」
    「やめろって」
    「あ〜〜フラれちまった」

     いつの間にやら集まってきた同コースのメンバーがボシュの周りを取り囲み、やいのやいのと騒ぎ出す。そのうちの一人にわしゃわしゃと頭を撫でられ、ボシュはむすっとして手を払いのけた。俺の三ヶ月前くらいに入会していた、コースで一番のお調子者だ。……あー、いや。一番ってのは嘘かも。今のこの場には居ないが、限られた面子にだけふざけ散らかす、もっとずっとうざったい内弁慶の男を、ボシュはよーく知っているのだった。

     泣き真似をしたそいつにどっと笑いが起き、ボシュもつられてしまう。それを輪から少し離れたところでルークが微笑ましげに見守っているのに気付いて、ボシュはなんだか無性に恥ずかしくなった。あいつが入ってくる前は、こうして自分が人に取り囲まれることなんてなかったのだ。
    「ま、お前は人と喋んの好きだろ?いいことだよな」
     そういえば配り忘れてたというよく冷えたゼリー飲料をその場にいる面々に放り投げながら、ルークは眩しく笑う。俺のところには二つ降ってきた。意図は読めるので、むやみに投げ返すことはしない。これは別に、今腕を教官に向けて振る労力を使うなら俺が二人分食ったほうが得だよなというあれであって、だから教官の意図に沿ってあいつにどうこうとかそういう、

    「おっ」

     後方に向かって教官がひらひら手を振った。それを合図にするように、ボシュの周りに群がっていた面々が少し離れる。来たか。奴にしては戻ってくるのが早い。おおかた今日はリーフェンやジェイミー…さんが留守にしていたのだろう。
    自分以外全員がちらちら伺っている入り口の方、ボシュの背後。そっちを自分一人だけ振り返ってやらないのは、さっき飯を食い終わったそいつに黙ってふらり中華街へ向かわれたことへの幼稚な腹いせからだった。

     あれ?こっち来ないなあ。おーい。周りが色々呼びかけている。しかし、奴が比較的慣れている初心者コースの面々とはいえ、こんな人数が集まっていたら後から寄ってくる確率は低いだろう。直に確認せずとも、あの人見知りが軽く会釈を返したのち、目を細めてなんとも言えない顔で微笑みつつそっと扉にUターンし、残り数十分をメトロシティの散歩およびファイト三昧に繰り出すまでの姿がありありと想像できてしまう。

    ボシュはやれやれと溜め息をつき、手に持ったうち一つのゼリー飲料をぱきりと開封した。高々と掲げて軽く振る。

     するとメンバー達からおおっと感心の声が上がり、ボシュ近くの何人かが少し距離を空けた。面白そうににやつく教官に顔をしかめる。あーあ、一人で全部食べてやろうと思ったのに。誠に遺憾である。
     多分あと五歩くらい。ちょっと大股かも。三歩、二歩、一歩。

    「おやつだ!」

     結局ボシュは一度も後ろを振り返ることなく、しかし想像通りのタイミングでずしり頭頂部に乗ってきた重いかたまりは、ちょうどいい高さに差し出されたパックに口をつけ、もきゅもきゅと食べ始めた。予想以上に減りが早いことを握ったパックの体積変化度で感じる。また水分を摂るのをさぼっていたのかもしれない。最近暑い日が続いてるんだから、水分補給はしっかりしないとだめだろ。小言の代わりに持っていたもう一つをすかさず開封し差し出せば、嬉しそうな気配が接地している顎越しに伝わってきた。よしよし、食ってる食ってる。

    「さすがボシュ!うまく釣れたな」
    「えっ、俺これ釣られ」
    「私がゼリー振っても来なかったのに……ちょっと悔しいわ!」
    「悔しいとは!?」
    「そりゃボシュだしなあ」
    「オニギリ?とかだと来るかもしれないぞ」
    「今度やってみるか」
    「ンナ……」

     来ればあっという間に会話の中心へと押し上げられる。そういう男だ。いつもの光景。先ほどよりも騒がしくなった空気の真ん中で、そいつは困惑しつつも逃げ出さず馴染んでいる。入ったばかりの頃に比べればかなり成長したと言えるだろう。俺にべったりしがみついていたのが今や近くに立つだけになり、あーあー抵抗しないからべたべた好き勝手、…………。……、…………。
     ………………さて。この馬鹿を呼び出すことには成功したのだから、ボシュはもうお役御免だろう。あとは優しい面々にいっぱい構われていればいい。そんなに慣れているようだし。うん。そうだ。実際こんなにもへらへらしている。あームカつく。眼球に向けて投げてやろうかと思ったゼリーの残骸は、いつの間にかちゃんと回収されてあいつの手の中にあった。これにもムカつく。あーーーもうお前偏食だろ!それだけはちゃんと言っておけよ!?グリルサーモンかツナ&マヨしか食わないくせに!みんなが違う味買ってきたらどうするんだ!他の奴らが俺みたいに、お前が一口かじったやつをなあ、苦手な味でしょぼくれてるからってだけで代わりに食ってくれるわけじゃないし、いや、食ってもらえるかもしれないけどさ、俺が食ってもらいたくないしってなんだ教官その顔!やめろ!そんな目で俺を見るな!

    「………じゃあ、俺ランニングしてくるから」
    「エッッッッッ」

     別に居た堪れなくなったとかではないが、ボシュはそう言って手慣れた動作で上に被さっていたかたまりを跳ね除ける。くるりと出口へ向き直り、すたすたと歩いた。慌てたような足音が勝手に追いかけてくる。
    「アンタ今日機嫌悪いわね?!」
    「別に」
    「これ見」
    「見ない」
    「えええええ」
     後ろの足音が止まれば、つられてボシュも反射で立ち止まってしまう。一応ちょっとだけ振り返ってやれば、いつも丸めている背をさらに縮こませ、しょぼりと肩を落としているそいつが立っていた。下に向けた視線の先、手のひらの中には小さなストラップが二つ並んでいる。なんだっけ。饅頭男?
     長い前髪が俯いたそいつの顔に影を落としていて、寂しそうな様子を助長させていた。赤とグレーのオッドアイが少し下がった眉の下で不安な色をのせていて、思わずぐぬぬ……と唸る。ボシュはこのまま意地を張り続け、無視してこの場から立ち去っていくこともできた。だが、やっぱりどうも放っておけそうにはない。俺の意地っ張りがこいつの情けない顔に勝てた試しはないのだ。

    「……それがどうしたんだよ」
    「!今日の昼から先着で十個限定だったやつ、中華街のおじちゃんの協力も得て二個買えまして……」
    「で?」
    「これ饅頭男界隈だと結構レアなやつっていうか、だから……いやでも、そうよな、ボシュくん饅頭男に興味ないもんな……呼び止めちゃってごめん……これリーフェンちゃんにあげ」
    「は?貰ってやらないとは言ってないだろ別に」
    「うおおお痛い痛い痛い手の力が強い」

     聞き捨てならない発言に、ボシュは間髪入れず目の前の手首を力強く掴んだ。饅頭男界隈だのなんだのは知らないが、俺に寄越されるつもりだったならこいつを他の元へ逃がす道理はない。ぷるぷると震えるそいつの手からひったくるようにして一つ回収する。小さなサイズにも関わらずよく見れば作りが細やかで、もしかしたらそこそこの値段がしたのかもしれないとふと思った。奪われたような形にも関わらず、さっきまでのしょぼくれた顔は嬉しそうなものへと変わっている。かわいい。ムカつく。理不尽に軽く頬をつねった。

    「おいお前ら!そろそろ戻ってこい!」

     タイミングよくセンターの扉から顔を覗かせた教官に声をかけられる。結局昼休みは潰れたようだ。まあ結果としてよしとする。……でも今度は中華街の面々ではなく、俺のことも誘うようによく言いきかせておこう。手の中のストラップをそっとポケットにしまいこむ。トレーニング中に壊れるのは嫌だから、一度ロッカールームに寄る必要があるだろう。君なんでご機嫌ななめだったのよ。手首を掴み直され、ずるずると引っ張られるそいつが聞いてくるが、答えることはしない。ボシュの口元はもう勝手に緩みきっているのだった。
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    「……いきなりなんだよ教官」

     昼休憩も半分が過ぎたあたりの時間。自分が所属する初心者コースの教官であるルークは、ふと思い立ったように話しかけてきた。ボシュは今さっきまでサンドバッグを殴っていた手を止め、振り返る。

    「私もそう思うわ!ボシュって意外と話しやすいんだ〜って最近分かったのよね」
    「な、冗談とかも言うし」
    「そりゃ、話しかけられたら返すだろ?」
    「ボシュはいい子だよな〜」
    「やめろって」
    「あ〜〜フラれちまった」

     いつの間にやら集まってきた同コースのメンバーがボシュの周りを取り囲み、やいのやいのと騒ぎ出す。そのうちの一人にわしゃわしゃと頭を撫でられ、ボシュはむすっとして手を払いのけた。俺の三ヶ月前くらいに入会していた、コースで一番のお調子者だ。……あー、いや。一番ってのは嘘かも。今のこの場には居ないが、限られた面子にだけふざけ散らかす、もっとずっとうざったい内弁慶の男を、ボシュはよーく知っているのだった。
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