Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    はもん

    @hamon_samon

    文字と🔞倉庫用

    ☆quiet follow Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 18

    はもん

    ☆quiet follow

    ・そりゃあここまで許しておいて告白から逃げたらブチギレるよねって回
    ・アラスターは影を通して契約主と攻防を繰り広げている設定です
    ・契約主、契約内容には触れてません

    #ルシアラ

    アラスター視点 4 ルシファーはそれからも、度々アラスターをデートに誘った。その度にアラスターは断ろうとするのだが、彼に見つめられると気付いたら頷いていた。
     ルシファーがアラスターを見つめる目はいつも甘い。うっとりと熱に浮かされた眼差しで、目の前のアラスターしか世界に存在していないとばかりに、真っ直ぐ愛を込めて見上げてくる。
     そんな目で見られる度、その熱が移ったかのようにアラスターの体は火照った。全身に熱が浸透し、脳の奥がジンと痺れる。
     そんな状態になると、頭で考えてもどうにもならない。いつの間にか口が、手が、ルシファーの望みを叶えようと動いてしまう。
     この現象が何なのか、アラスターには分からない。
     分からないまま、心地よい関係に身を委ね、誘われるままデートを繰り返している。
     デートの度に、ルシファーは花を一本贈ってきた。初めに貰った物と同じ、真っ赤な薔薇の花を。
     保存魔法のかけられたそれは枯れることなく、アラスターの手元にあり続けている。
     徐々に増え続ける薔薇の本数。その数が重なる毎に、アラスターは焦燥感を覚えていた。
     薔薇の本数に意味があることは知っている。ルシファーがそれを意識していることも気付いている。彼がアラスターとの関係に区切りを付ける日は近い。
     それが分かっていてもなお、アラスターの中で答えは見付からなかった。
     ルシファーへ向ける感情が何なのか。彼とどういう関係になりたいのか。
     結論は出ないまま、部屋に漂う薔薇の香りが強くなるばかりだった。

    ***

     頭がクラクラする。完全に逆上せてしまった。
     パジャマ姿のアラスターは、風呂上がりの火照った体をテラスで休めていた。
     今日はルシファーとのデートの日だった。
     いつものように蛇の姿のルシファーと街を散策して、いつものように薔薇を一本プレゼントされた。律儀なことに、贈る薔薇にはいつも違うリボンが巻かれていた。アラスターはそのリボンも一つ一つ皺を伸ばして大切に保管している。
     期限は刻一刻と迫っていた。それを意識する度に息が詰まるような心地になる。
     そんなアラスターの様子に気付いたのだろう。先日ロージーに会いに行った時、バスボムをいくつか貰った。今度新しく売り出す予定の商品らしい。

    「リラックス効果がある物なの。使ってみた感想を聞かせてちょうだい。最近は男性もこういう物を買っていくことが多くなってるから、あなたの意見も聞きたいわ」

     頼りになる親友には応えたい。あれから毎日使っているのだが、甘くない華やかな香りはアラスター好みだった。心地よくて、つい長湯になりがちなのが欠点だろうか。
     手帳に意見を書き連ねるアラスターの赤い髪が、夜風に吹かれてサラサラと揺れる。地獄のカラッとした空気が心地よい。
     ルシファーの嫌がらせで出来上がったテラスだが、アラスターはこの場所を気に入っていた。唯一残念なのは、見下ろす街並みが明る過ぎることか。特にある一角がビカビカしていて不快だ。

    「……アル? ここか?」

     背後から声がしてアラスターは驚く。気配に気付かなかった。すっかり気が抜けていることに内心で舌打ちする。
     二時間ほど前に別れたばかりのルシファーが、テラスの扉からひょっこりと顔を覗かせた。丸っこい顔がアラスターを見付けて破顔する。そしてすぐに目が逸らされた。
     ムカ。アラスターの胸に苛立ちが湧き上がる。何故目を逸らす。

    『何かご用ですか?』
    「あー、いや。酒でも一緒にと思ったんだが……勝手に入ってすまない。ノックに反応がなかったから、以前みたいに倒れてるんじゃないかと思って……」

     以前とは、アダムの傷の話だろう。アラスターは溜め息を吐いた。

    『あんなこと、そう何度も起きませんよ』
    「それはそうなんだが……でも心配で……」
    『ええ、ええ。そうでしょうとも』

     アラスターは呆れながらも室内に戻る。サンダルからスリッパに履き替えていると、ヒュッと何かが空を斬るような音が聞こえた。

    『? 今何かしました?』
    「いや? 何も」
    『ふーん?』

     さっきから目を合わせないルシファーは、チラチラと何かを気にしている。その視線を追うと、アラスターの足元に辿り着いた。
     別に珍しい物なんてない。ただのスリッパだ。なのに何故かルシファーは頻りにそこに目線を向けている。

    (……蹄が珍しいとか? 否チャーリーの足も蹄だったし、そんな訳ないか)

     アラスターが疑問を抱えていると、ルシファーが突然咳払いをした。

    「もう風呂に入ったのか?」
    『ええ。逆上せてしまったので、テラスで休んでいました』
    「ああ、それでやたらと色っぽ……なんでもないっ。それより、いくら逆上せたからって夜風はよくないぞ」

     ルシファーはポールハンガーにかけられていたガウンを取り、アラスターの肩にかける。アラスターがそれに腕を通すと、腰紐をルシファーが結んだ。

    『子どもじゃないんですよ』
    「知ってるとも。ただ、早く体を温めた方がいい。……ほら、手がこんなに冷えてる」

     ルシファーはそっとアラスターの手を握る。アラスターの反応を確かめながら、ゆっくりと。
     アラスターが他者からの接触を嫌うのは、ルシファーに早々に知られている。そもそも隠してもいないし、デート中にうっかりアラスターに接触した罪人が八つ裂きにされているのを目の前で目撃もしているのだから当然だが。
     それを知ってから、ルシファーはアラスターに触れる前に許可を求めてきた。とっくにアラスターが許しているのには気付かずに、何度も。
     その内、アラスターが許容していることに気付いたのだろう。口で確認する回数が減り、目だけで伺う回数が増え、今では無断で触れてくることがほとんどだ。
     それでも、ルシファーはアラスターの反応を確認することはやめない。そこに僅かでも嫌悪や不快を見つければ、すぐにでも手を引っ込める。相手を慮る姿勢はアラスターの胸をざわつかせた。

    『……そんなに冷たいですか?』
    「気付いてないのか。それはよくない。酒は今度にしようか」
    『いいえ。折角来たんですから、ゆっくりしていってください』

     ソファに二人横に並んで座りながら、ルシファーが持ってきたウィスキーとシードルを空けていく。つまみは作り置きの鹿肉ジャーキーとナッツ、それとチーズ。
     ルシファーと互いの部屋で酒を飲み合う関係になってから、自室の小さな冷蔵庫には常に彼の好む物が置かれていた。チーズはシードルによく合う。ルシファーも肉より乳製品の方が好きなようだった。
     グラスを何度空にしても、ルシファーの気もそぞろな様子は変わらない。ずっとアラスターの足元を気にして、何度も視線が下に向かう。

    『……そんなに私の足が気になりますか? さっきからずっと見ていますが』
    「ンッ いや、そのー……」

     ルシファーは頬を赤くして口をまごつかせた。何だこの反応は。
     ──まさか今告白する気か? まだ本数も足りてないのに?
     アラスターは動揺と緊張に身を固くした。
     対してルシファーはスリッパから見え隠れする赤い蹄に目を奪われたまま、ようやく口を開いた。

    「君の足に蹄があるとは知らなくて。それで、その……是非、プレゼントさせてくれないか。必要だろう? 蹄のケア。質の良いクリームを知ってるんだ」

     なんだ、そんなことか。
     アラスターは見られてないことを良いことに安堵の息を吐いた。少しだけ残念に感じる自分が嫌だ。
     必死でいつもの自分を、自分の好きな自分を演じる・・・・・・・・・・・・。アルコールが回っていようとも、癖づいた演技は誰にも違和感を与えなかった。

    『ああ、チャーリーが使ってるやつですよね? 確かにアレは良い物でした』
    「うんうん。そうだろ……何で君がチャーリーのケア用品を知ってる?」
    『使わせてもらったことがあります』
    「いつ?」

     珍しくルシファーがアラスターに顔を近付ける。真っ赤な目は瞳孔が開いていた。どうやら怒っているらしい。
     理由が分からないまま、アラスターは事情を話し始める。疚しいことなど一つもなかった。

    『以前のホテルでチャーリーが、ホテルの皆と親交を深めるにはどうしたらいいかと、全員から意見を募ったことがありました。そこでニフティが「皆と温泉に入る」と提案したんですよ』
    「は? 入ったのか? チャーリーが? 君が? ……彼らと?」
    『いいえ。反対意見多数で却下されました。ただ、足湯は全身浴と同等の効果があるという話を私がしたら、チャーリーが興味を持ちまして』
    「人前で足を晒したのか? 君が?」
    『ええ。まずは発案者の私から試す、と。チャーリーとヴァギーと、ニフティに』
    「……他のメンバーは?」
    『全員拒否して散会してましたね』

     結局、足湯効果の検証がいつの間にかボディケアの話へと変わり、最終的にその場は女子会の様相となっていた。その時にチャーリーが蹄ケア用品を貸してくれたのだ。

    「……娘の物を使うな」
    『チャーリーに言ってください。彼女が勝手にしたんですよ』
    「…………」

     ルシファーはむっすりと黙り込んだ。林檎ほっぺが膨らんで、子どもが拗ねてるようだった。アラスターは風船を赤い指先で潰す。

    『ニャハハッ』

     無邪気に笑う赤い悪魔。ルシファーの顔がじんわりと赤らんでいく。

    「……今日の分はもう終わったか?」
    『いいえ。そもそも私は最低限しかしてません』
    「ああいうのは毎日するんだ。割れたら痛いぞ」

     子どもに言い聞かせるようなそれに、アラスターの眉間に皺ができる。父親気取りか。不愉快な。

    『では、あなたがしてください』
    「は?」

     言下、アラスターはルシファーの膝の上に脚を伸ばした。スラリとした長い鹿の脚にルシファーはヒュッと息を飲んだ。錆びたロボットのようにギクシャクした動きでアラスターの足と顔を交互に見遣る。

    『あなたが、してください』
    「……触れてもいいのか?」
    『今更』

     ルシファーは何か言いたそうに何度か口を開閉させた。が、結局それを全て飲み飲んだ。目が動揺を表して忙しなくあちこちに動く。

    「……ケア用品はどこに?」
    『ベッド横のチェストに』
    「…………」

     ルシファーはグウと唸った。治まり始めていた顔の赤みが戻ってくる。
     魔法を使って遠隔でチェストを漁ったルシファーは、出てきた品々に半目になった。王族が使う物と比べたら質が落ちるのは当然だろうに。そんな顔をしないでほしい。
     ルシファーが無言で指を鳴らす。酒とつまみしかないテーブルに、一瞬でブラシやらクリームやらが現れた。チャーリーが使っていた物と同じ物もあれば少し違う物もある。どんだけ持っているんだ、この男。
     ルシファーの細い指が、徐にアラスターの足に触れた。

    「冷たくなってるな。先に温めよう」

     そう言って再度指を鳴らす。湯が張られた桶が、湯気を昇らせながら床に現れた。
     ルシファーは袖を捲り上げながらソファから立ち上がり、床に膝をついて掌で湯の温度を確かめる。そのまま静かにアラスターを見上げた。色の異なる赤い目がかち合う。

    「足をこちらに」

     低く甘い声で、ルシファーは手を差し出す。騎士が姫に忠誠の許しを請うように、地獄の王は跪いて恋しい人を見つめていた。
     アルコールの染み渡った頭がグワンと揺れるような感覚。アラスターは僅かな興奮が背筋を駆け上るのを感じながら、小さな掌の上に足を差し出した。
     黒い肌に赤い蹄。鹿の特徴を持った足が湯に触れた。爪先からじんわりと温もりが広がっていく。

    「裾を上げてくれないか」

     アラスターの赤い指がピクリと震える。

    『……どこまで?』
    「膝まで」

     アラスターは無言のまま、ゆっくりと裾を手繰り上げた。
     細くしなやかな筋肉を持つ脚に目を細めるルシファー。湯に浸したタオルを使って、足裏からふくらはぎの半ばまでを揉んでいく。

    『くすぐったい』
    「冷えてるからだ。暖まれば気持ちよくなってくる」

     ルシファーは真剣な顔で手を動かしていた。
     地獄の王が、罪人に跪いて足のマッサージだなんて。貴族や他の大罪の王が聞いたら卒倒するんじゃないだろうか。アラスターはルシファー以外の階層の王をよく知らないから、ただの想像でしかないが。
     悪戯心が疼いて、赤い爪先で湯を弾いてみる。

    「コラ、やめないか」

     口では咎めながらもルシファーは笑っていた。今度はよく見える旋毛を指先で何度も突く。

    「アル〜?」
    『フフッ。ここ押すと下痢になるらしいですよ。えいっ』
    「オイッ」

     じゃれ合いながらもルシファーの手は止まらない。器用にアラスターの悪戯をいなしてマッサージを続ける。
     足元から温もりがゆっくりと上り、アラスターの全身に広がっていく。自分の頬が赤らんでいるのが鏡を見なくても分かった。
     充分に足が温まったのを確認し、湯桶を魔法で消すルシファー。乾いたタオルでアラスターの脚を拭き、テーブルの上にあるいくつかのボトルを手に取って中身を脚に塗り込んでいく。
     アラスターはぼうっとそれを眺めていた。程よく回ったアルコールと、全身に広がる熱が心地よい。
     保湿が終わると、蹄用のマニキュアが丁寧に塗られていく。ルシファーは様々な大きさのハケを使って、踵の小さな蹄までも綺麗に仕上げてみせた。
     艶やかにコーティングされたそこにルシファーが息を吹きかける。

    『ルーシィ』

     くすぐったくて抗議の声をあげる。だが返ってきたのは、熱の篭った真っ直ぐな目だった。

    「……アル」

     掠れた声のルシファー。赤い目に宿る熱量の多さに、アラスターは息を飲んだ。
     ルシファーの黒い指先が、アラスターの魔の肌を滑る。足の甲から足首、脛を辿ってふくらはぎをスルリと撫でた。アラスターの心臓が大きく脈打つ。

    「アル」

     懇願するような声。こちらを見上げる顔は哀れみを誘うような情けない表情をしている。それなのに、目だけは地獄の炎さながらの熱を持っていた。
     ルシファーは剥き出しになっているアラスターの膝に顔を近付ける。魔と人の性質が混ざり合い、不思議な色をしている肌に唇を寄せた。
     チュ、とリップ音。唇は触れていない。リップノイズをたてただけだ。膝に熱い吐息が触れる。
     その間も、灼熱を宿した目はアラスターを見つめ続けていた。
     呑まれそうなほど強烈な熱量に、しかしアラスターは屈しない。

    『ルシファー』

     意識して声を低くする。ルシファーはすぐに手を離した。

    「ああ、もうこんな時間だ。私は部屋に戻るよ。アルは、それが乾くまで動かないように」
    『分かってますよ』

     先までの雰囲気など一切なかったかのように、二人はいつもの調子戻った。動けないアラスターの代わりにルシファーがテーブルを片付ける。

    「今度はプレゼントを持ってこの部屋に来るよ」

     ルシファーは慎重にアラスターの手を掬い上げた。振り払われないことに眦を緩めて、さっきと同じように指先に唇を寄せてリップノイズをたてる。最後まで決して、唇で触れようとはしなかった。
     名残惜しそうに扉の向こうに消えるルシファー。それを見届けたアラスターは、大きく脱力して溜め息を吐いた。
     体が熱い。まるでサウナにでも入っていたかのようだ。
     アラスターは火照った頭を抱えて、磨かれた蹄をぼんやり見下ろす。

    (小さいチャーリーにもああやって甲斐甲斐しく世話をしていたのかな……?)

     やたら手馴れていたし、恐らく当たっているだろう。それはそれは微笑ましい光景だったに違いない。小さく笑いが零れる。
     ──その時、足の下で何かが揺れた。
     アラスターは咄嗟に脚を抱えてソファの上に避難させる。先までアラスターの足が置かれていた箇所で、黒い何かが蠢いていた。
     影だ。アラスターの能力の一つである自由自在な影が、指示もしていないのに動いていた。
     アラスターは歯噛みする。こんな事態への心当たりなんて一つしかない。憤怒のまま影を強く踏み付ける。

    『──消えろ』

     誰かの笑い声が聞こえる。黒い友人のものではない。それでもアラスターは微動だにせず影を睨み付けた。
     やがて影は徐々に元の静けさを取り戻した。不動のままソファで蹲っていたアラスターは、それから十分経ってようやく脱力した。

    『……クソが』

     唸るように呟く。
     最近、影が無断で動くことが多くなった。理由は分かりきっている。アラスターのが多くなったからだ。
     ルシファーのことで思い悩むことが増えた。彼と共に過ごす時間が心地よくて、気が緩むことが増えた。彼を前にすると、心が千々に乱れてしまう。
     その隙を、影の向こうからアラスターを縛る存在・・・・・・・・・・・・・・・・・が見逃すはずがなかった。
     これ以上は危険だ。ルシファーへ向ける感情が何だとか言っていられない。これ以上、彼のことにかかずらってはいけない。
     終わらせなければいけない。ルシファーとの関係を。

    (……それでも。それでも、あともう少しだけ)

     薔薇の本数は既に九十を超えた。残りは両手で数えられる数もない。
     ──ルシファーとの関係の終わりが、すぐそこまで迫っていた。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💅❤❤💖💖💖💖👏👏👏
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works

    recommended works