Recent Search
    Create an account to secretly follow the author.
    Sign Up, Sign In

    はもん

    @hamon_samon

    文字と🔞倉庫用。文字は暫くしたはpixivに加筆修正して載せます。

    ☆quiet follow Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 26

    はもん

    ☆quiet follow

    ・巻き込まれるエンジェルと、見てしまったヴォックス

    #ルシアラ

    ラジオVSテレビ 2 新しいホテルの廊下を、エンジェルは憂鬱な気分で歩いていた。最悪なことに、これから仕事なのだ。ホテルに来る前もずっと、こんな仕事辞めてしまいたいと思い続けていたが、ホテルに来てからはその思いがもっと強くなった。
     ポルノスターとしてではない、ただのエンジェルを案じてくれるチャーリー。飲み友達でいてくれるハスク。妹を思い出させるニフティ。
     このホテルにいる悪魔は、エンジェルの心を楽しくしてくれる者ばかりだった。
     だからそこ、仕事への忌避感は募る一方なのだが。

    「やめたいなぁ……」

     どれだけ嫌でも、契約がある限り逃れられない。エンジェルにできるのは憂鬱をやり過ごすことだけだ。
     今日も朝からバーカウンターで飲んだくれている友人に軽く挨拶をして、エンジェルは懐からサングラスを取り出した。気持ちを切り替える為に大きく息を吐く。
     面倒事はさっさと片付けて、帰って友人と飲もう。そして思いっきり愚痴を吐いてやるんだ。世話焼きのバーテンダーなら、きっと笑いながら付き合ってくれる。
     そう意気込んだエンジェルの前に、突然赤い男が現れる。ホテルマネージャーのアラスターだ。

    『エンジェル』
    「おわっ な、何、何?」
    『少々頼みたいことがあるんです』
    「えっ? セックス?」
    『違います』

     食い気味に否定された。当然、本気ではなかったので肩を竦める。

    『私、今からルーシィとデートなんですよ』
    「え? ああ、そう。楽しんで」
    『どうも。それでお願いなんですが……』
    「ちょっと、まだやるとは言ってない。アラスターからの頼み事とか大変そうだし、やりたくないんだけど」
    『まさか! とぉーっても簡単なお仕事ですよ』
    「……聞くだけ聞いてやるよ」

     訝しむエンジェルの前で、アラスターは黄色い歯を剥き出しにして笑った。



     飛び交う怒声。舞い散る肉片。広がる悲鳴。
     ──地獄は今日も阿鼻叫喚である。

    「……頭痛が痛いみたいな表現になるのか?」
    『何です?』
    「いや、何でもないよ」

     ルシファーは可愛い恋人に力なく笑いかけた。二人の周囲では、グロテスクな光景がこれでもかと繰り広げられている。
     それを作り上げているのは、ルシファーの可愛い恋人であるアラスターだ。

    (……初デートもこんなだったなぁ……)

     ペンタグラムシティの街中。デート中のルシファーは、疲れきった様子で恋人の背中を見守っていた。

     ルシファーは久しぶりに生身の状態で街中へ繰り出していた。今まで街に出る時は、騒動にならないよう動物に変身していたのだが、アラスターがこれを拒否したのだ。

    『あなた、私とのデートでコソコソするつもりですか?』
    「今までもそうだっただろう?」
    『恋人になる前の話じゃないですか。まさか、これからもずっとデートの度にそうするつもりだったんですか?』
    「まぁ、罪人たちが落ち着くまではそうするつもりだが……」

     件の駆除からかなりの月日が経ったというのに、ペンタグラムシティの罪人たちは未だにルシファーへの熱を鎮めていなかった。飽き性な彼らには珍しいことだが、それだけ天使軍の撃退は大きな衝撃だったということだ。
     だからルシファーは駆除以降ずっと、生身で街に出かけることができていなかった。アラスターとのデートの時も、いつも蛇の姿に変身して正体を隠していたのだ。
     落ち着くまではこの方法を続けようと思っていたのだが……アラスターは呆れた様子でやれやれと首を振った。演技がかった仕草にルシファーは苛立ちを感じる。

    『ルーシィ、よく考えてください。──何故、私たちがコソコソしなくてはならないんですか。騒ぐしか脳のない馬鹿の為に、こっそりデート? 冗談じゃない。私たち恋人になったんですよね? 私はあなたと、堂々とデートしたいんです』
    「アル……」
    『愚物たちが落ち着くまで? それはいつになるんです? 彼らは駆除から数ヶ月経った今も騒ぎ倒しているんですよ? ……ただ恋人あなたとデートしたいだけなのに、どうしてこんな思いをしなくてはならないんですか……?』

     悲しげに顔を伏せるアラスター。大きな赤い目は潤んで揺れていた。
     身長差でその全てが見えてしまったルシファーは、恋人の珍しい表情に胸を締め付けられる。次いで怒りが湧いてきた。何故可愛い恋人が、こんな顔をしなくてはならないのか。

    「そう……そうだな。アルの言う通りだ。何故デートするのに、私が隠れる必要があるんだ。騒ぐ連中が悪い!」
    『ええ、その通りです』
    「行こうアル。君と恋人になって初めてのデートだ! 記念になるような素敵な日にしよう!」
    『ええ、ルーシィ!』

     力強く意気込むルシファー。それに同調しながら、見えない所で口角を吊り上げるアラスター。
     まんまと恋人の口車に乗せられたルシファーは、実に数ヶ月ぶりに本来の姿で街に降りていった。

     ──そして案の定、ルシファーに熱狂する罪人たちに囲まれてしまった。
     早々に結界を張って近付けないようにしたはいいが、身動きが取れない。立ち往生するルシファーと裏腹に、アラスターは嬉々として罪人たちを嬲り始めた。
     お陰で結界は血と肉と臓物で塗れ、血肉の海に沈んだような光景が四方に展開されていた。ルシファーがうんざりするのも当然だ。

    「ハアー……」

     ルシファーは大きく溜め息を吐く。せっかく意気込んで出て来たのに、これでは台無しだ。

    『カカカカカッ』

     未だに楽しそうにマイクステッキを振り回す恋人。ルシファーは再度溜め息を吐いて、林檎の杖をひと振りした。突如現れた黄金の水に、トイレのように流され消えていく罪人たち。

    『おや』

     すっかり無人と化した周囲に、アラスターは目を瞬かせた。ルシファーは半信半疑で尋ねる。

    「……アル、まさかとは思うが、君のお楽しみ・・・・の為に私とデートを?」
    『そんな訳ないでしょう。もちろん楽しみましたが、アレはですよ。私たちのデートの邪魔をしたらどうなるか教えなくては。なのに、あなたときたら結界に引き篭って……』
    「ああ、うん、分かった。そうだな。今ので私も分かった。避けるんじゃなく、排除する方が楽だし簡単だとな」

     ルシファーは乱暴に自身の頭を掻く。
     罪人相手の対処のし方はアラスターの方がよほど上手い。彼らの性質もよく理解している。罪人を避けるばかりだったルシファーは、粛々と彼の言うことに従うことにした。
     気分を変えるように帽子を被り直す。

    「よしっ。それじゃあ邪魔もいなくなったし、デート再開だ!」

     細腰を引き寄せるルシファー。
     特に行く所は決まっていない。初デートの時に行った公園にでも行こうか。あそこでのんびり薔薇を愛でて、ショッピングを楽しんで、その後はカフェでゆっくりしよう。以前デートした時に見かけたカフェが好きな雰囲気だったのだ。是非とも利用したい。
     脳内で計画を立てながらエスコートしていると、恋人の動きがぎこちないことに気付いた。顔を上げると、眦を染めて戸惑っている様子のアラスター。

    「どうかしたか?」
    『いえ……なんというか……外でこんなにくっつくの、恥ずかしいですね……』

     ルシファーは絶句する。

    (……アルが照れてる……)

     なんて可愛いんだ。ルシファーは胸を掻き毟りたくなる衝動に駆られる。
     恥ずかしいと言いながらも、ルシファーの手を退けることなくエスコートに身を委ねているアラスター。普段とは異なるしおらしい態度は、ルシファーが彼に夢中なる理由の一つだった。
     こんなにも可愛い生き物が自分の隣にいて、自分の愛に応えて、愛を返してくれる。これほど素晴らしいことは他にはない。ルシファーはうっとりと恋人を見上げた。

    「恥ずかしがることはない。私たちの仲を見せ付けるんだろう? ああでも、こんなにも可愛らしい君を私以外が見るなんて……どうしようか。うっかり君を見た連中を殺してしまうかもしれない」
    『それはそれは……怖いですね』
    「本気だ。君はそれほど魅力的なんだよ」
    『知ってます』

     自慢げに頷くアラスター。いつもの調子が戻ったようだ。
     ルシファーは滑らかな肌触りの手を取り、甲に口付ける。抱いた腰を引き寄せ、より体を密着させた。

    「さぁ、行こうか。私の可愛いバンビ」
    『……はい。私の小さなお星様』

     はにかむアラスターは、それはそれは可愛らしかった。



    「……え?」

     ヴォックスは今見た物が信じられず、生放送中だということも忘れ言葉を失った。スタッフの何人かがヴォックスを呼びかけているが、今の彼には聞こえていない。顔面のモニターが情報を処理しきれず、エラーを吐き続ける。
     今見た光景が理解できない。したくない。してしまったら、ヴォックスを今まで支えてきたものが壊れてしまう。

    「何で……」

     モニターには、ペンタグラムシティを歩くルシファーとアラスターが映っている。二人の距離は近い。ヴォックスからすれば信じられないほどに、近い。

     ──何故、ルシファーはアラスターの腰を抱いている。
     ──何故、アラスターはそれを拒絶するどころが受け入れている。

     アラスターの表情はノイズが走って分からない。だが、隣のルシファーの表情はよく見えた。
     甘い、熱を含んだ男の顔。恋に浮かれきった眼差しは、アラスターへと一心に向けられていた。
     かつてヴォックスがアラスターへ向けていた表情と、まったく同じ顔だ。

    「……嘘だ……」

     ヴォックス史上最悪の放送事故は、スタッフが強制的に放送を中断させるまで続いた。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💞💞💞🍎🍓
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works

    recommended works