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    nainaisokoniha

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    nainaisokoniha

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    大石が記憶を求めて色々なってる話。
    ワンドロライお題 食欲で書いたけどジャストではない。
    大石さいこ~~~!

    リプレイ 休日、ほぼ寝巻き姿のままで、ソファーに座ってテレビを見ている。息子も家中を走り回ることなく、目の前でテレビに釘付けになっていた。暖かい陽の光がわずかに差し込んでいるようなリビングで、そのはしゃぐ小さな背中をぼんやりと眺めていた。テレビの中に声をかけながら、何度も繰り返し見ているDVDの映像をはしゃいで楽しんでいる。微笑ましく、なんでもない日常だった。何も考えること無く、どこにも出かけないような休日も良いものだった。ずっと続く日常は平穏で、繰り返しで、うっかりしているうちに心に丈夫な根が張っていく。当たり前のようで確かに存在している日々が心地良い。家族と過ごす時間はかけがえのないものになっている。
     ふと、画面の前で無邪気に飛び跳ねる頭を見ながらテーブルに手を伸ばした。お菓子が入った浅いかごに触れ、なんとなしに手に取り包装を広げ口に入れた。人工的な甘いにおいがする。お菓子は息子が幼稚園でもらったもののあまりだった。それがなぜか中々減っていなくて、久々に子供向けのお菓子を食べている。
     舌で口の中の甘い塊を転がす。すると、なぜか大きい音が頭に響いた。家のどこかから聞こえたものかと思ったが、それは歯の上で転がった塊の音だった。自分の脳内で反響するように大きく聞こえた。どこかで聞いた音に、ソファーに座った体が固まった。今まで気にしていなかったお菓子の味が舌に広がる。かたさのあるいちごの味が、口内に張り付いていく。そして余計に様々な音が聞こえ、一気に汗が吹き出た。指の関節がバラバラに動き、目の前の部屋の景色より手前に暗く揺れた光景が映って、一瞬にして脳を侵した。わっと喉から声が出そうになって、しかし耳の中で自分のものでは無い息遣いと叫び声がそれを覆うように響く。
     手元をよく見ずに口に放ったそれは棒付きの飴だった。口の中で生まれた飴の音が、感じたことのある味が、今まで体験したことのある感覚を蘇らせた。あの映像に囚われて、空気が漏れるように呼吸をする。振り払いたいのに、放心していた。いつか見たあの殺人の体験が脳にこびりついていた事が、信じられなかった。こんな些細なことで突発的に日常に蘇ってしまうとは思いもしない。頭を強く打たれたようになって、いつの間にか飴を口から出していた。下のまぶたがわずかに痙攣して、手の中が湿っている。浅い呼吸を繰り返していると、段々と息子のはしゃぐ声が聞こえてきた。見渡せば、いつも通りの我が家だった。家族の誰にも見られていないようだったが、気づかれないよう冷静さを装いながら、大きく鳴る心臓が治まるのを待つ。
     焦りと急に襲われた感覚に飲まれ、体調さえ悪くなったような気持ちになる。上がった体温が気持ち悪い。しかし、いつも映像を見る時に求めていた興奮もまたあったのかもしれなかった。



     仕事が終わり家に帰る前に、携帯を片手にスーパーの棚を見ながら歩いていた。酒でも買うついでに、妻に電話をしながら買うものがないかを確認する。笑いながら、家の中ですればいいような話をしてしまっていた。週末で気分が緩んでいる。さっさと我が家に帰ろうと電話を切り、言われたものをかごに入れていく。大した量ではなかったが、レジに向かった。するとレジの近くにはお菓子の棚があり、そこを通ると、端の方には棒付きのキャンディーが刺さるように飾られた台が置いてあった。それを横にすると、売り場に溶け込むことなくひときわ色が濃くカラフルで、それに釘付けになる。いつの間にか体がその場から動かなかった。睨むように目を伏せる。歯が軽く軋み、焦っているのか心臓がわずかに早まる。会計を済ます前に、あの時の記憶が蘇る。飴を口に入れただけで蘇った、自分の脳が作り出した記憶。本物ではなくともあの感覚を得られるものがある。頭がぼーっとし、目の前の飴の塊が滲んでいく。
     食べたかった。味わいたかった。無性に唾液が出てきて、喉を鳴らしていた。そして自暴自棄のように飴が群がった台へと手を伸ばし、指で鷲掴み何度もかごの底に放り投げる。わずかに残った飴の前で手を止め、振り切るようにレジに向かった。人に混じり、会計を進める。挙動がおかしくなっていないかの不安が、また焦りとなって視線が泳いだ。会計の間も、スーツの男が酒と一緒に、棒付きのキャンディーを大量に買っているなんて変だと思われていないか、杞憂だがそれが不安だった。飴の個数を数えられ、それを声に発せられる。会計が終わりそそくさと財布を手にして、走るように足は動きそのままスーパーを出た。
     FEDであの映像を楽しむための金額はそう安いものでは無い。裏モノだから当然ではあるが、週一回趣味の場に通うようにして楽しめるものでは無かった。
     内容は別として、体験する時間の長さと比例しないような金額が毎回消えていく。新しい犯罪が起こった時は別だが、それ以外であの店に行ける頻度には限りがある。何食わぬ顔で沢山あれを見るような生活を送るのは不可能だった。自分は家族を、妻を、子供を支えていかなければならない。あの興奮に沢山の金をつぎ込む訳にはいかなかった。
     でもあの感覚を味わえる方法が、身近に存在している。映像の中で始まりから終わりまでなるあの音と味。1本50円にも満たない棒付きの飴が、五感を刺激する訳ではなくとも蘇らせてくれる。
    「ただいまー……」
     いつも通りわが家の玄関を開け、2人が待っている食卓へと足を運ぶ。カバンを置くと、スーパーのレジ袋を見た妻がありがとうと話しかけてくれる。そして不自然にならないよう、食事が始まる前の机に、袋から大量の飴を広げた。
    「わあー!」
     息子がその数に目を輝かせるように机のふちを掴み言った。
    「買ってきたぞ」
     あくまでも普通に、笑いながら声を出す。
    「いっぱいある!なんでなんで!」
     台所から妻が料理を手に、楽しそうな息子を見ながら話しかけた。
    「どうしたのこんなに沢山」
    「前にあそこにあったの食べたら、意外と美味しかったんだよ」
     おかしいと笑うようにしている妻と息子と同じように笑いかけた。ひとまず小さいかごに移し、リビングの机に置く。普段通りの食卓で夕食を食べながらも、頭は飴の事でいっぱいだった。早く食べたくて仕方がない。



    「おやすみなさぁい」
     舌足らずで寝室に向かう息子の背中を見届け、暗いリビングで座っている。夜の寝る前だと言うのに体が疼いていた。妻がベッドに向かう前に俺に気づく。装うように、手に待っていたビールの缶の中身を喉に流し込み、先に寝るように促した。
    「おやすみなさい」
    「おやすみ」
     はやるように言葉を返してしまい、また焦りが生まれた。しかし静まったリビングで、目の前には自分が買った飴がいくつもあった。ベッドには妻がいて、1人でゆっくり楽しめるような場所はソファーしかない。仕方なく、無くなりかけたビールを飲み干して机に缶を置いたあと、飴が入ったかごに手を伸ばした。前回とは違う味を選び、袋を剥がした。わずかに震える右手の指先で細い棒を掴んで、気持ちを整えながらあの時の感覚を思い出す。丸い塊を口に入れると、砂糖漬けの炭酸飲料の味が舌にじわじわと広がっていく。行為のために両手を自由にし、口の中だけで飴を味わった。嫌でも響く飴の転がされる音が思い出されて、目をつぶると次第に目の前が揺れる。いてもたってもいられ無くなり、ソファーに倒れこんだ。身を預け、ただ感覚だけを楽しむ。口を動く飴の横からため息が漏れる。必死にただ叫んでいるだけの女の声を聞いている時のあの心地を思い出す。怯えている気がたった女を眺めているだけで溜飲が下がるような気分だった。どれだけ震えた足で走り回り暴れようと、ゆっくりと迫る己の影からは逃れられない。無意味さに、健気さに、息が荒くなる。捕まえて、軽く女の体を廃材に向かって突き飛ばす。そうやって緩やかに歩いている感覚を思い出して両脚が足元から疼き、それを逃がすために表面を擦り合わせていた。衣服が擦れる音がわずかに聞こえてくる。追いつかせるように息をしながらも、飴を口内で転がす。愉快そうに転がして、受けた刺激を蘇らせるように脳が渦巻き熱くなっていた。血流が巡る。全てを鮮明に同じように体に刻める訳では無いが、あの殺しの体験をしている時の興奮は同じようなものだった。強い刺激が、それほど脳に刻まれ離れていないのかと思い知る。しかしそれがとても助かっている。今、それに浸れているのは自分自身のおかげだった。そう感じながら、口に広がる甘さを唾液と共に飲み込み、また蘇る記憶の表面をなぞり、その中へと入り込んで包まれていく。女が逃げ道を失って、俺と対面して、絶望の中それでも抵抗をして、そんな風に生きたがっている肉体の首元に手を伸ばす。
    「はぁ……はあ、……っ」
     どの瞬間もとても気持ちがいい。自然に口の両端が上がり、目元に力が入った。
     今までどの女も驚いたように目を丸め、そして口を開け絶望していた。俺の両手を掴み、どうにもならないような力で剥がそうとする。しかし無意味で、自分だけが楽しく目の前の状況に浸っている。手袋越しの肉体の皮膚の感触が、組織が詰まった首の中に通る生命線を潰す感覚が、俺を喜ばせる。興奮と笑みが止まらず、そのまま夢中で目の前の体から力が無くなっていく感覚を楽しむ。そうして胸板が上下に動き、自分が歯の奥をかみ締め、一気に口の中の飴が砕けた音が響いた。そしてはっとし、現実に戻された。女の体が完全に死ぬ手前だった。何が起こったのか一瞬分からなかったが、不自然な呼吸をしている自分に気づき、目を広げ目の前の暗闇が路地ではなくリビングだと認識する。いつの間にか自分の両手を強く組み握っていて、骨の中に痛みを感じた。顔の皮膚から温度が抜けたようにもなって、汗をかいてるのかあべこべだった。蘇っていた記憶がいきなり終わってしまったが、脳内ではまだ血が巡り、全身は快楽に浸れていた。粉々に崩れた飴の破片を舌でざらざらと感じながら、ただ無心に鼻に通る息を整える。自然と肩が上下し、感覚が現実へと溶け込んでいく。
     気づいたことは、実際の感覚とは違うが、興奮は映像の長さの分だけではなく、飴を舐め終わるまでの時間自分はずっと楽しんでいた。最後に砕けてしまったが、これだけは本物の体験に勝ることなのかもしれないと思った。



     その後、かごの中から飴を減らしたのはほとんど自分だった。浸って、また浸って、あのカフェの奥の店へと足を運ぶ代わりに自分で完結させた。一日足らずで食べたいと感じ伸ばす手を停められない時もあり、しかし何度味わっても減るお金の額は雀の涙だった。
     しかしある時、いつものようにソファーで記憶を貪って一心不乱になっている時、いつの間にかテーブルに置いてあった息子のおもちゃを握りこんでいたのか、気がつけば手の中で折れ壊れてしまった。一気に興奮が抜け、目の前の状況を飲み込む。熱さとは異なる汗が伝って衣服を湿らせた。
     ​──何をやってるんだ俺は。
     周りには誰もいない。落ち着け、落ち着けと自分に言い聞かせるほど脈拍が上がった。手の平に乗るロボットの形をしたプラスチックの割れたおもちゃを、早く見つからないようにしなければ。今すぐにでも台所のゴミ箱に入れてしまいたかったが、いつもそこにいる妻に気づかれるような気がした。いや、目隠しをしどのゴミ箱に入れようとも誰かに見つかる気がした。代わりに口に入っていた飴を捨て、仕事用のカバンに押し入れた。そして逃げるようにして妻のいる寝室に向かう。翌朝、急かされるように朝食をとり家を出て、会社まで壊れたおもちゃを抱え、必要のない書類を被せ一階の共用のゴミ箱に捨てた。ずっと気もそぞろで、自分のデスクについてやっと落ち着いて一日を始めることができた。自分で楽しむためのものであるはずなのに、息子の遊び道具を壊してしまっていた事に後ろめたさを感じながら生活を続けることになる。帰宅すれば、案の定息子と妻がおもちゃを探していた。
    「大きいのにどっかいっちゃったね」
    「なんで、どこにあるの」
     不機嫌に苛つきをあらわにしている息子に向かい、同じのを買おうと率先して話しかけた。それでその場はどうにかなった。もし気づかれていたとしても、説明ができない事実に頭を抱える羽目になる。



     何気ない日に、誰がこんなにたくさん飴を食べているのかを家族が楽しそうに話していた。話が続いて、予想は出来る事だが自分に二人の目線が向けられる。口を開け、目線はぎこちなく動かなかった。
    「あなたばかり食べ過ぎじゃない?」
    「お父さん、食べ過ぎー!」
     はしゃぐ二人に安堵が湧き、心臓表面の動きが緩まる。何もバレていない。夜な夜な殺人の快楽に浸っていることも、ある時自分の手で息子のおもちゃを壊したことも。
     もういっそ、高額な金を支払ってでも本物の感覚をまた体験した方がいいほど、俺は飴で記憶を追従する事に溺れかけていた。他では得られないあの興奮がふと恋しくなる度に、会社の騒がしい飲み会の席でも、人混みで体をぶつけられた時でも、イライラとすることがあればあの感覚が欲しくなった。もちろん心が穏やかな時にもそれは湧き、気軽に得られる興奮の体験をただ欲していた。
     早く飴を食べたい。口にしたいという欲求を抑えられない。満たされる訳でもない腹のその底が疼いて、仕方なくなる。味と音だけで条件付けのように起こるそれに、全身を委ねて漂いたかった。自分のことを何とも思っていなかったような女がただの肉塊になる姿を夢想し楽しんで、浸りたい。
     あのディスクでの体験が強い刺激であることは分かっている。だからこうして再生するように飴を食べるだけで興奮が蘇る。望んで見たものだが始めは衝撃があって、しかしもう何度も見て、刺激自体他人の触れられないようなものではなく自分のものになっている感覚がある。それもまた快感だった。



     ベッドは妻がいる。隠れるようにリビングのソファーに座り、また飴を口に入れる。もう何度も貪った記憶をまた再生する。事前に両手にかたいタオルを巻きつけ、手の中に収め握り込む。祈るように項垂れて、自分の息を感じながら飴を転がす。頭の一部が熱くなって、段々と全身に広がる。本能が開放されたように息がしやすく、目をつぶった視界にはけたたましく音を立てながら獲物が走っている。喚いて、縋って、なんの意味もない姿に興奮が高まる。手の中のタオルが軋む。そしていつものように最後まで満たされて、荒れた息を調えた。
     それだけで十分なはずだった。しかし、飴の棒を噛み締めながら、いきなり全てが虚しくなった。糸が切れたように現実の世界に戻る。自分が感じて楽しんでいる感覚が、本物では無いことが虚しい。
     何度も同じようにしてきたせいか、段々と脳内で再生している映像が霞んでいっている気がしている。飴の音で、広がる味で心臓は高鳴るが、それ以外のことは本物ではない。ただの自分の記憶でしかない。その事実がやけに自分を襲ってくる。
    ──なんでこんなことをしてるんだ、俺は。
     こんなことじゃ満たされない。それを否定しようにも、自分自身がそう感じているなら不可能だった。満たされない。満たされない。急に全身がからになったような気がして、余計に欲が湧いた。しかしもう本物を味わい自分の中に取り込むことでしかきっと何も解決ができなかった。
     先程まで興奮に溺れていた体に重さを感じ、ソファーでうつむく。まだ荒さの残る息が自分の口から出ていた。
    「意味がない」
     眉間にしわが寄る。握っていたタオルをまた再び掴んで指に力がこもった。飴を食べても、自分で思い出しても意味が無い。金がかかろうとも本物にしか意味が無い。あの男がくれる感覚でしか得られない。それだけで頭がいっぱいになった。早くあの店に行きたい。だからその理由か欲しい。早くあの男が殺人を起こしてくれればそれでいい。新しい映像なら体験しないわけにはいかないからだ。
     ため息が漏れる。目の前に置かれた飴の束に、途端に興味を失った。あれほど欲していたのにもう必要がなかった。目の前から無くなってほしかった。どうしようもない虚しさで、苛つきさえ抱えながら立ち上がり寝室に向かう。飴の棒を捨て、欲している感情を思いながら満たされない体で夜を過ごした。
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    nainaisokoniha

    DONE妄想してたら出来た学パロの室志(カプ描写なし)
    志摩野鷹也ハピバの室井の話。
    学パロだから2人が少し青くさい。
    学パロハピバ室と志 誰かがプロフィール帳に書き留めていたものから始まったようだった。
     自分の手帳の日付にも彼の行動予定などと同じように記しているが、今日は志摩野さんの誕生日だった。朝から色々な生徒が彼の元に来て何かしらの贈り物を手渡している。昼食時、横に座っていた男子生徒も、「おめでと〜」とコンビニで買ったような菓子を軽く渡していた。彼はどれもにこやかに受け取り、礼を言って自分の鞄にしまっている。
     放課後は学校に用はなく、そのまま下校する予定だった。そんな中でも、志摩野さんは廊下を歩いていると何人かの生徒に呼びかけられ、言葉と共に贈り物を渡されていた。
     次々と手渡される光景に、ずっと胸の内がわずかに落ち着かない。それは焦りに似た何かだという自覚がある。自分以外の誰かは、ただひたすらに祝福の言葉をかけたり贈り物をしたりしている。そんな中で自分だけが何もしていないような感覚が、無意味に思考を包んだ。しかし、自分という立場の人間が何かを贈るなど考えもつかない。仕えている側である人間が、何かを渡そうという気にはならない。この日が来る前からずっと、そんなつもりもなかった。だから色々な生徒が彼に祝福を手渡すのを後ろからただ見ているだけでいる。
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