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    nainaisokoniha

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    nainaisokoniha

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    妄想してたら出来た学パロの室志(カプ描写なし)
    志摩野鷹也ハピバの室井の話。
    学パロだから2人が少し青くさい。

    学パロハピバ室と志 誰かがプロフィール帳に書き留めていたものから始まったようだった。
     自分の手帳の日付にも彼の行動予定などと同じように記しているが、今日は志摩野さんの誕生日だった。朝から色々な生徒が彼の元に来て何かしらの贈り物を手渡している。昼食時、横に座っていた男子生徒も、「おめでと〜」とコンビニで買ったような菓子を軽く渡していた。彼はどれもにこやかに受け取り、礼を言って自分の鞄にしまっている。
     放課後は学校に用はなく、そのまま下校する予定だった。そんな中でも、志摩野さんは廊下を歩いていると何人かの生徒に呼びかけられ、言葉と共に贈り物を渡されていた。
     次々と手渡される光景に、ずっと胸の内がわずかに落ち着かない。それは焦りに似た何かだという自覚がある。自分以外の誰かは、ただひたすらに祝福の言葉をかけたり贈り物をしたりしている。そんな中で自分だけが何もしていないような感覚が、無意味に思考を包んだ。しかし、自分という立場の人間が何かを贈るなど考えもつかない。仕えている側である人間が、何かを渡そうという気にはならない。この日が来る前からずっと、そんなつもりもなかった。だから色々な生徒が彼に祝福を手渡すのを後ろからただ見ているだけでいる。
     呼びかけが止み、門を出てやっと彼は落ち着けた。

    「持ちます」
    「いやいいよ。そんなに重くない」

     いつもより膨らんだ鞄を手に提げて、志摩野さんはいつもの様に少し前を歩いている。その鞄の中には、彼に向けられた純粋で弾けるような気持ちが沢山込められているのだと思うと、こうして彼が学校に通う事も悪く無いものだと感じられた。年相応に受けられる祝福がある事が、何となく喜ばしい。上海にいながら彼がこの学校に通いたいと申し出なければ、こんなことも有り得なかった。彼自身は貰った好意をどう感じているかは分からないが、俺はそれが間接的にも嬉しさのあるものだった。彼の目的や人生に必要のない事かもしれないが、こんな時くらいは純粋な数々の祝福を受けてもいい。幼い頃から常に仕事のいろはを染みつかせられ、そのような振る舞いも彼自身が既に獲得している。言動も思考も、校内外で実際に行っていることも、未成年の人間がするべき必要は無い所まで研ぎ澄まされ、不必要な程の辣腕(らつわん)を振るっている。そんな彼が、今日くらいは世間一般的に祝われて、自分は安心さえ感じていた。
     そんな事を考えていると、わずかに悪戯そうな顔がこちらを振り返った。

    「お前は、何かくれないのか?」

     そう笑いかける彼に、心臓が一瞬止まった。跳ねたのか、固まったのか分からない動きをして、また普通通りに脈を打ち始めた。

    「自分は、渡すつもりは……」

     滅多にしない珍しい顔が、その言葉を聞き静かに眉をわずかに上げた顔に変わる。彼は黙っているが、おそらく自分の思考を理解したのだろう。幼い頃から今と同じ形で居続けていて、自分は他の人間とは違う立場だということは、理解して欲しかった。広く言えば、自分は雇われている側の人間だ。腑に落ちなくても自分はそうするべきだと考えてそうしている。今までもそうだった。過剰には、彼が自分に対して何かを望むことは無いとは分かっているが、直接口で問い詰められるとは思ってもいなかった。
     志摩野さんは軽く微笑んでいた。その顔に安堵の気持ちが湧く。軽い戯れも、楽しめたのならそれでいい。
     しかし突然、彼は革靴を浮かせ行き先を変えた。

    「ちょっと付き合え」

     付き添わない訳にはいかず、その背中にいつも通りついて行く。焦りと少しの不安があった。
     しばらくして足を踏み入れたのは、アパレルショップや帽子屋などがちらほらと建ち並ぶ路地だった。
     学校は都市部付近に建てられており、ショッピングモールや賑わう観光地もそう遠くない場所にあった。その中で、普段は通る必要はなかったような路地を志摩野さんは歩いている。そして、なぜか店の看板を見渡しているようだった。香水の店舗や小さな喫茶店などを通り過ぎて、前を往く姿はやがて歩みをとめた。

    「ここだな」

     彼は何かを決めたように、店内を遠く見ている。その店は小さいショーウインドウにスーツ姿のマネキンの上半身などがあり、スーツの専門店なのだと気づいた。

    「入るぞ」

     小さく笑いかけ、しかし扉を引き店に入る時にはすんと落ち着いた顔に戻っていた。
     控えめにベルがカラカラと音を出す。後に続き、昼間の光とは打って変わった暖色の照明で店内は静かに佇んでいた。木の床を踏む度にあたたかくこもった音がする。高級さのみを売りにしていないというのが、何となく分かる。彼が私用で訪れる高級店の雰囲気は傍にいて何度も目にしたことがあるが、この店はそれらと比べては少し落ち着きがある。しかし、制服を着た学生だけが入るには場違いとも言える雰囲気のある店だ。もし店主が厳格でこだわりの強い気質を持っていた場合、自分達の姿を見た後に入店を断る可能性だってある。彼の身につけている装飾を見て様々なことを察してもらいたいが、来店している立場で言えることでは無い。なぜ彼は、彼の叔父のもとで頻繁に利用しているオーダースーツ専門店ではなくこの店に入っているのかも疑問が浮かぶ。今必要だからなのか。
     思考が巡ってると、志摩野さんは照明が落ちているディスプレイの一角で足を止めた。ポケットに両手を入れ、そこに並べられた物を見下ろしてる。

    「どれもいいな」

     彼が見ていたのは照明で端の方が光っているネクタイピンだった。小さい紺色の箱の上に置かれ、同じ向きで同じように並んでいる。数はそれほど多くは無いが、だからこそここに選ばれたこだわりを感じられた。マットな素材の物も、シンプルに螺鈿(らでん)細工を施している物も、木製の物も様々にある。
     彼に同調して、輝く装飾品をその隣で順に眺めてしまう。すると彼は、一つのネクタイピンと箱を片手で持ち上げた。
     見ながら、その手の中で愛でるように傾けている。ふと覗いてみると、クリップの先端付近に斜めのラインが彫られているような、シンプルながらもその部分に印象がいくシルバーのネクタイピンだった。その縁にはわずかにねじ曲がっているような曲線がかけられて、綺麗さと同時に力強さもあるシルエットになっている。

    「造形が良いですね」

     そう口に出す。するとそれを自分の方に傾けて、目線を合わせ彼は問いかけた。

    「これ、買えるか?」

     突然の言葉に、え、と口に出してしまったかもしれない。置かれていた場所に示された値段を見ると、高額すぎはしないが、学生が一括で買うには値が張っていた。
     普段金を使う際、自分の懐には志摩野さんの家としてのお金と、自分の物との両方がある。前者は主に彼の行動で金を要する際に使う。叔父の日本での仕事を、できる範囲で代わりに指示通りこなすことはもちろん、その傍ら彼は自身で学校をある目的のために作り替えている。その一環で、誰かと話したり示談目的でファミレスやカフェを使った時などにも、珍しく何の目的もなく入った時にも、前者の金を使う。経費と同じく、その使用目的や支払先等をまとめ、自分が彼の叔父の元へ提出している。だから志摩野さんがふらっと喫茶店に寄った時も、念の為自分が領収書を貰うようにしている。全てを書く必要はないと思うが、書かない理由が特に無ければ書いている。そしてそれは、彼の叔父が会社として学校での自分達の動きを監視・確認するためでは特になく、金に関わる事だからそう指示をしているのだろうと思う。しかし、彼の行動の全てを知ると、校内のあらゆる部分を内側からも外側からも、まるで自分の企業の様に密かに動かしている事が紙の上からも伝わるだろう。それはきっと、叔父の会社ですぐにでも働くことが決定している彼のあるべき姿なのかもしれない。
     そして後者は、自分が彼らから渡されている金だ。
     志摩野さんが学校に通う事になった際、その傍で常に動ける適役に自分が選ばれた。日本に移り住む際、彼の住む家の近くのアパートでの暮らしで必要な金は自動的に振り込まれている。学費も食料費も、必要なものとしてそこに含まれる。しかしそれとは別に、自分は報酬を送られている。志摩野さんの元で動き、役立っている理由としての報酬が、彼の叔父の方から入る。その事を志摩野さん自身が知っているかは分からないが、自分は金があってこの務めを果たしているようで嫌だった。しかし昔から自分は志摩野さん達の会社に仕え、支える側で、そう思えた義理ではない。個別の報酬。毎回そうやってわずかに苦い気持ちになりながら受け取っている。それを、普段は校内では自分の飲食のため、外では参考書や気になる本を買うために使っている。
     そして、自分がネクタイピンを買えるかどうかを聞かれたのは、会社からの金の事ではないという前提でのものだ。普通に買うのならわざわざ確認したりはしない。志摩野さんは自分に対してたずねている。自分が払えるかどうかを聞いているのだ。
     いきなりのことだったが、所持金に届きはするし、普段使い道の無い部分の金が無くなることになんのためらいも生まれなかった。

    「はい」

     では、カウンターに……と続け、自分は彼の手から箱を手にして会計をしに向かった。
     いつも衣服を仕立てる時のように金の行き先が残る形では無いが、いつもするように自分の金を取りだし商品と共に渡した。彼は後ろでそれを待っている。対応している店主と思わしき人物は穏やかに紳士的に微笑んでいて、何事もなく紙の袋で商品が返された。ベルを鳴らし、再び外に出る。
     店から出た彼は満足そうな顔をしていた。膨れた鞄を提げ、こちらを見ていつものように静かに笑みを浮かべている。

    「このお店に用があったんですか」

     四六時中傍にいる訳では無いが、常に行動を共にしている自分にとっては身に覚えのない店だったため、なにか理由があるのかもしれなかった。すると彼は一度瞬きをしふちの薄暗い黒い瞳を向け、より深い笑みを作った。

    「いや。ただ欲しくなったから買ったんだよ、お前のお金で」

     悦びか、試しているかのような読み取れない笑みを向けられて、しかしにこやかにしているその姿に、「そうでしたか」と言う他見つからない。何も応えることなく品物を主の元へ返すと、彼はこじんまりとした袋を片手で受け取った。

    「お前が元手だ」

     言葉を続けながら紙の袋に目線を落とす。店内のディスプレイで見ていた時のように、軽く傾けゆっくりとした手つきで眺めている。

    「お前の金で、俺が満足した」

     顔を上げ、手にした袋を身に引き寄せた。

    「助かったよ」

     喉奥から軽く呟くように言う。薄く弧を描く口が、涙袋がより浮かんだ目元が、彼の表情を際立たせ静かに目に飛び込んでくる。
     自身の欲求のためにわざわざ間に自分を入り込ませた。間接的にこの人の喜びを満たせたのだと感じた。この人が誕生日に一つの満足を得た。その瞬間、空いていた穴が埋まっていって、その穴の存在に気づいたような心地がした。
     「お前はくれないのか?」と冗談っぽく問われた時、こちらも同じように笑って返していれば、恐らく彼はこうしていなかった。自分の中にわずかなわだかまりを見てこの行動に至っている。見透かされたようで、なにか己に不甲斐なさを感じた。
     しかし彼が満たされているのなら心は晴れた。
     自分の身を顧みないような内容の指示を出され憤りを感じることもあるが、今回彼に出された自分本位とも捉えられる様な指示に従えたのは、ふと清々しさにも似た感情が残るものだった。
     自分はただその場で立ち尽くしている。嬉しいのか、ありがたいのか、気概ないのか、何を思っているかよく分からなかった。そんな中彼は目配せをして歩き始めた。

    「移動しようか」

     後を追い進んで行ったのは、そう離れていない人気の少ない路地だった。店の壁の傍に立ち、志摩野さんは自分に紙袋を手渡した。受け取りながら、こちらを見上げる姿を見つめ返し言葉を待つ。

    「付けてくれ」

     彼はそう言いながらブレザーのボタンを外し、軽く裾を開いた。仕える側としてなんのためらいもなく手が動く。鞄を地面に置き袋から小さな箱を取り出す。その間に志摩野さんは今つけているネクタイピンを外し内ポケットに挟んでいた。彼自身余程気に入ったとしか思えなかった。それか、自分に買わせた実感を持たせるためなのか。どちらにせよ、充分すぎるほどの計らいだった。感謝の言葉を伝えるのもはばかれる程に。
     開ければ、箱と同じ暗い紺色のクッションの上に先程のネクタイピンが収まっている。左手でそれを開き取り出す。そのまま彼の胸元にかざし位置を確認しながら制服と同じ色味のネクタイと白のワイシャツを挟む。歪みを整え平行に取り付ける。付けながら、つかえていた様にしていた感情が落ちた。

    「お誕生日、おめでとうございます」

     今朝、登校前に事務的に交わしただけの言葉を、改めて口に出した。ちゃんと祝えた事がとても喜ばしい。間接的に贈り物を渡せたという事実そのものではなく、祝福の気持ちをこうして純粋に伝えられた事が嬉しかった。自分にとっては支える人で、しかし彼自身が支える理由になる様な人間だ。尊敬や畏怖、好意といった明確なものとして定まってはいないが、彼の彼としての言動や今まで傍で見てきた姿は支えを続ける理由になる。今いる場所で彼の行く末を見ていたいと思ってしまう。だから、そんな人の誕生日を祝えた事が嬉しい。
     志摩野さんは軽く「ありがとう」と付け足し、自分の買い物に満足したようにネクタイピンが付けられた胸元を見ながらブレザーを閉めた。そして帰路に着く。先ほど来た道に戻りながら、志摩野さんはまたネクタイピンが施された胸元を見下ろして呟いた。

    「年中付けられるな」

     そう言うが、自分にはわずかに疑問が浮かぶ。

    「夏服の際は、必要ないのでは」

     ベストにネクタイピンを施す意味はさほど無い。しかし彼は目を細めたまま軽くこちらに視線を傾けた。

    「その下に付けてればいい」

     正しい装いの仕方を前提に、彼はそう言って微笑んでいた。
     外出時はともかく、制服を着る際に彼は数ある装飾の中でこれを付けるということなのか。あまりに仰々しいと思ってしまいそうだったが、それほど彼は今胸元にあるネクタイピンが気に入るものだったということだ。
     しばらくして志摩野さんの家に着いた。学校では出来なかったが必要な事務的な作業をそれぞれして、自分は最後に彼の元へまとめた紙を手渡した。自室の椅子に座る彼のネクタイには、ラインが刻印されたように彫られたデザインのネクタイピンが未だ控えめに照明を反射し光っている。
     彼の叔父は夕食に上海料理が食べられる様な料理店で食事をする事を勧めたらしいが、今日彼は至って普通の食事をするようだった。
     明日の予定を確認し、一日の労いの挨拶をして彼の家を後にする。自分が暮らしているアパートは彼の今住んでいる家より手前にあるから、来た道を引き返した。
     翌日、いつも通り彼と共に学校の門を抜け朝の教室に向かう。
     こぼした言葉通り、昨日買ったネクタイピンを常に身につけるらしい。昨日と変わらずそれは彼の襟の横に控えめに飾られていた。歩きながらそれが目に入ると、なぜか改めて胸の底が燃えるような心地がした。決して自分で導いた形ではないが、自分が購入したものがそこにある、あり続けるというのは名状しがたい感情で包まれるものだった。
     今日の予定を話しながら志摩野さんの教室の前につき、軽く一礼して自分の教室に戻ろうとした。するとクラスの社交的でにぎやかな生徒に声を掛けられていた。
     
    「昨日はもしかして豪華な料理とかめっちゃ食べた?」
    「志摩野ん家の誕プレめっちゃ気になる!何貰うの!?」

     そんな会話を聴きながら彼は微笑んで返事をしていた。頷いて話の盛り上がりに耳を傾けている。
     一区切りし、自分は「じゃあな室井」と言われ軽く頷きを返した。
     志摩野さんはこちらを見て口を閉じふっと笑っていた。また今日もいつもの日常が始まる。
     胸元のネクタイピンが、廊下に入り込む朝日を照らしている。
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    nainaisokoniha

    DONE妄想してたら出来た学パロの室志(カプ描写なし)
    志摩野鷹也ハピバの室井の話。
    学パロだから2人が少し青くさい。
    学パロハピバ室と志 誰かがプロフィール帳に書き留めていたものから始まったようだった。
     自分の手帳の日付にも彼の行動予定などと同じように記しているが、今日は志摩野さんの誕生日だった。朝から色々な生徒が彼の元に来て何かしらの贈り物を手渡している。昼食時、横に座っていた男子生徒も、「おめでと〜」とコンビニで買ったような菓子を軽く渡していた。彼はどれもにこやかに受け取り、礼を言って自分の鞄にしまっている。
     放課後は学校に用はなく、そのまま下校する予定だった。そんな中でも、志摩野さんは廊下を歩いていると何人かの生徒に呼びかけられ、言葉と共に贈り物を渡されていた。
     次々と手渡される光景に、ずっと胸の内がわずかに落ち着かない。それは焦りに似た何かだという自覚がある。自分以外の誰かは、ただひたすらに祝福の言葉をかけたり贈り物をしたりしている。そんな中で自分だけが何もしていないような感覚が、無意味に思考を包んだ。しかし、自分という立場の人間が何かを贈るなど考えもつかない。仕えている側である人間が、何かを渡そうという気にはならない。この日が来る前からずっと、そんなつもりもなかった。だから色々な生徒が彼に祝福を手渡すのを後ろからただ見ているだけでいる。
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