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    nainaisokoniha

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    nainaisokoniha

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    俺杉夢
    俺は杉本英記の友人

    俺杉 まどろんでいた。だから、いつの間にか夜に近づいているような時間になっていたのかもしれない。畳に座って、壁に背を預けて心地がいい頭の緩みだった。うっすらとまぶたの隙間から見える自室の窓からは、暗い夕方の色と電車の走る音が聞こえる気がする。
     寝ちゃってたのか。
     脳がそう意識し始めて、深く瞬きが繰り返される。乾きをなくしていく視界には、畳の上の食台と、昼から俺の家に来ていた友人のあぐら姿の影があった。背を少し丸め、こちらを見ているようだった。そりゃあ、一緒にいる人間が寝ていたら気にしてしまうだろう。当たり前だ、申し訳なさが湧いてくる。しかし、共にゆっくりと話をして互いに何かをしながら部屋で過ごす時間は、とても心地が良く眠くもなるものだった。それもまたいいと思える。目の前の友人も、なんとも思っていないだろう。いつもと同じような事だ。
    「悪い、寝てたな」
     口にちゃんと出せたか否か分からないが、笑いかけながら言った。目元を片手の平で覆い軽く抑える。この後、友人はもう少しこの家にいるだろうか。それとも二人で何かを食べてから帰るだろうか。どうするのかを軽く聞きながら体を起こす。すると畳にだらんと伸ばしていた脚の片方に重さがかかった。起き上がろうとしていた体がわずかに動きを止められる。数度瞬きをすると、俺の左ももの上に白いワイシャツをまくった右手が置かれていた。右側にある影が先程より近づいているのに気がつく。頭を上げ、目の前の顔を視界に入れる。するとまた近づいて、俺は壁に首を傾げるようにした。どうしたんだと思っていると、わずかに笑みを消した瞳が俺を見ている。俺の奥底を見ている。
     今までこんなことは無かった。目の前のこいつは気軽に相手に触れるような場面はないし、これほど俺とこいつが近づくような事は無い。なぜこんなにも、見ているのか。
     分からないまま、口が薄く開いた。完全に起きたか分からない脳が段々と澄んでくる。俺は瞬きを繰り返しているのに、眼前の表情は動かないままで俺を見ている。顔の陰影が、パーツの深さを際立たせていた。それがいつもある程度の距離にいる時に見ている顔とはまた変わる感じがする。凛としていて、それなのに綺麗すぎない。近寄りがたくなく、普段からある穏やかさや地に足の着いた冷静さが滲み出ている。そして、その顔が目の前で俺を見つめている意味が分からない。
     また、わずかに近づく。俺は畳に両手を置いた。
    「杉本?」
     思わず口から出た。俺は寝ていただけで、自分が何をしたのか分からない。それなのに、距離を詰め迫られている。しかしそれを振り払う気は起きなかった。それは俺の奥を見る瞳があまりにも、綺麗な黒だからなのかもしれない。綺麗だと、思ったことは、俺はあっただろうか。こいつの目は、こいつそのものだと思ったことはある。だから、綺麗なのはこいつ自身なのか。焦っているのに頭はゆるゆると揺れている。
     そうして何も考えられないままでいると、左脚に置かれた右手がゆっくりと浮いた。しかし離れないまま、太ももの外側を伝って畳に手の平をつく。横にあった目の前の体が正面の位置に近づく。目線が同じ高さにある。そして次は伸ばしていた脚の間に、跨るようにして右膝を置かれた。また距離を縮められたが、なぜか抵抗感がなかった。しかし近い。今までにないほどに、服越しに友人の肌の温度を感じる気がする。それか俺の体温が上がって火照っているのか。
     目の前の顔は次第に緩やかになっていく。それと同時に、自分の息は止まったようになる。心臓が焦りか何かで覆われて動きが不規則に静かに跳ねた。
     誰もどこにも触れて居ないのがおかしい程に互いの間の熱がこもってる。そして、体の横に置いてあった右手がゆっくりと上がり、俺の上体の方へとためらいなく近づいた。そのまま力を抜いた柔らかい指先が俺の顔へと伸びて、わずかに目にかかったセットをしていない前髪の先を軽く横に流された。視界が鮮明になって、しかしそれをされると同時に引きつったような声が出ていた。
    「杉本」
     相手の前髪に軽く触れ額の横に払う事など、友人同士でやるのか。俺とこいつの間でやる事だったのか。驚きを隠せずしかしその動揺を見せたくは無い。
     どう考えても、杉本は何かを求めている。俺を求めている?熱を求めている。この緩やかに流れる時間を心地よさそうに漂っている。俺だけが何ひとつ定められていない。
     髪の表面に触れてもいないような状態で、右手は顔の横に置かれたままだった。そして何も言わなかった口がゆっくりと開いた後、名前を呼ばれてそれが脳の中に響いた。
     反応を返せる事無いまま、目の前の顔はこちらを見つめ続けている。そのまま、また静かに言葉が落とされた。
    「嫌ならやめる」
     落ち着いた声色でもって選択を迫られる。微笑んで柔らかく、あまりにも当たり前のように言うから、俺は逆に動揺した。目の前に迫る圧のような存在感は、この世の何よりも俺に対して優しいものだった。焦るが、拒否するような感情が体の底に沈んだままだ。
     しかし息は上がる。それを一心に抑える。そのまま、目の前の体温がこちらに飛び込んで来ても問題無いという程に、心は決まっていた。目線を離さないようにわずかに首をぎこちなく左右に振る。俺もこの体の全てが欲しい。今までもずっと望んでいた事のようにその感情が脳を渦巻く。すると反応を見てまた顔を緩めて、右手が顔の側面に軽く触れた。大きい手の平に顔の熱を包まれ、喉仏が上がった。そしてより一層、柔らかい目元が俺を見ていた。
    「英、記」
     手が湿る。シャツと肌の間で汗が滑り落ちる。目の前で笑う姿はとても清くて、同時に男としての熱を感じさせる行動の共存がたまらなくなった。普段と同じなのに、普段とは違う。 
     受け入れる、俺はこの瞳を。熱を。そうすればこいつと。
     俺の指先が動く前に顔の横にあった手が伝うようにしてシャツの襟に下りた。閉められたボタンに片手の先が置かれる。鎖骨の表面をなぞる様に杉本の指先が動いている。そのまま全て外され俺は衝動的に壁から背を起こし目の前の体に近づく。無我夢中で、俺も必死に上からボタンを外した。その手元を、膝立ちしている杉本はただ見下ろしながら肩を動かし熱い息を落としている。落ち着きを装いながらも互いの脳内は掻き混ざっていた。言葉もなくただ目の前の熱を欲している。最後を外し終え、白いワイシャツをベルトから引き抜いた。何も言わず目の前の体を畳に倒す。畳に置かれた顔は少し目を伏せていて、まつ毛の存在が際立っている。首筋が浮いていて汗ばんでいるようにも見える。俺は無意識に杉本の名前を呼んでいて、それと同時に杉本の腕が俺の首に回っていた。必然的に動脈を触れられる。襟足を伝って回された手の位置が上がる。また互いの目線が重なる。
     確かめる様に名前を口にして実感を得る。眼下の顔がその様子を見て微笑む。その表情が愛おしくて、額を右手で覆い長い前髪を撫で付けていた。みぞおちの底で燃える衝動がより強くなる。そして杉本の全てを覆いたくて、顔を傾けさせ姿勢を落とし、俺は目を閉じた。
    「うわっ!」
     上体を落としたはずなのになぜか跳ね起きた。自室のベッドの上で俺は布団を片手に握っていた。見渡すと、カーテンは締め切られていて、隙間からは朝の色の光が部屋に漏れている。肩で息をして脳が熱い。目の前にあるのは現実だった。自分はありえないものを見ていた。友人同士の杉本が、あまりにも熱っぽかった。そしてそれを俺は押し倒した。あるべき姿ではないのに体と体をなんの抵抗もなく近づけて俺は服越しの肌に触れていた。顔を触っていた。頭を包んでいた。そしてそれを杉本が受け入れていた。
     全部己の欲望なのかと錯乱する。しかし友人だ。まず第一に、杉本は京都の地にいる。今の俺の部屋に来たことはない。杉本がこの部屋にいた事はない。しばらく会えていない。そして俺達は友人で、心地いい距離感の間柄で、それなのに俺は当たり前のように。
     状況のせいで、熱が引かなかった。心臓が跳ね続けているのが分かって、余計に己の無意識下の夢の形に焦りが募った。あまりにも体温を感じた。あいつの顔に触れていた自分の手の平を見ると現実味が無かった。しかし先程までの熱がまだ残っている感覚がある。なぜかそれを振り払う気にはなれなかった。頭の中の熱さも、何もせずただ引いていくのを待っていた。
     しばらくして額を手で覆った。そして項垂れてため息が出た。困惑だけが頭の中にある。何かも間違いなのに現実として受け入れていた自分が分からなかった。しかし確かにあいつは綺麗で、貪りたくなって、俺の前には俺の好きなあいつの目があった。妙な現実感が胸の表面を覆う。
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    nainaisokoniha

    DONE妄想してたら出来た学パロの室志(カプ描写なし)
    志摩野鷹也ハピバの室井の話。
    学パロだから2人が少し青くさい。
    学パロハピバ室と志 誰かがプロフィール帳に書き留めていたものから始まったようだった。
     自分の手帳の日付にも彼の行動予定などと同じように記しているが、今日は志摩野さんの誕生日だった。朝から色々な生徒が彼の元に来て何かしらの贈り物を手渡している。昼食時、横に座っていた男子生徒も、「おめでと〜」とコンビニで買ったような菓子を軽く渡していた。彼はどれもにこやかに受け取り、礼を言って自分の鞄にしまっている。
     放課後は学校に用はなく、そのまま下校する予定だった。そんな中でも、志摩野さんは廊下を歩いていると何人かの生徒に呼びかけられ、言葉と共に贈り物を渡されていた。
     次々と手渡される光景に、ずっと胸の内がわずかに落ち着かない。それは焦りに似た何かだという自覚がある。自分以外の誰かは、ただひたすらに祝福の言葉をかけたり贈り物をしたりしている。そんな中で自分だけが何もしていないような感覚が、無意味に思考を包んだ。しかし、自分という立場の人間が何かを贈るなど考えもつかない。仕えている側である人間が、何かを渡そうという気にはならない。この日が来る前からずっと、そんなつもりもなかった。だから色々な生徒が彼に祝福を手渡すのを後ろからただ見ているだけでいる。
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