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    Myky9Y

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    Myky9Y

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    ツイでぶち上がったメギの浮気ックス現場を押さえ、そのまま続行orキルを強いる大臣の話
    なんか大臣が被害者みたいになったけど元凶はお前やぞ定期

    発想元は大天才フォヨワーさん‼️
    本当ありがとうございます‼️

    赤い水音ゆらゆらと、彼が掌中のグラスを玩ぶ。注がれたワインは大して減っていなかった。丸い玻璃の中で波立ち、赤い水音を立てている、はずだ。軽やかな音がグリスの耳に届かないのは、目の前の惨状にあった。グリスの命の恩人である男の妻と使用人が、獣の姿で交わっているのであった。
    密通の再演を自ら命じたにも関わらず、男の顔に表情はなかった。彼にはただ、つまらない芝居の終わりを待つ観客と同じ、平坦な退屈の色だけが浮かんでいた。左手の杯をもて遊ぶ一方で、右手は油断なく新月刀の柄に置かれている。

    グリスが男に従うようになって日は浅いが、この様な人格ではなかったと思う。

    あの夜、グリスは女の血飛沫の向こう側に青衣の男を見た。彼の意思の強い黒い眼が、洋燈の灯りに一瞬、強く光った。
    その輝きは、グリスに女主人への怒りと我が身への諦念を忘れさせた。そして自然と片膝を折り、命の恩人に新たな忠誠を誓わせたのだった。

    恐らくその時には、彼は壊れ始めていたのだ。
    豊かな暮らしと裏腹に彼の頬はやつれ、隠しきれない隈が彼の目元に居座る様になった。
    彼の権威は王に迫り、彼の善名、彼の暴虐、彼の色欲、どれも都人の口に上らぬ日はない。
    「これは人の暮らしではない」
    彼がそう嘆いた夜に逃げ出してしまえば──あるいは殺してしまっていれば──彼は楽になれたのだろうか。

    彼はグリスに杯を渡した。
    獣たちは歩み寄る死に気づいたが、繋がったままでは間に合わなかった。
    新月刀が白く閃く。
    続けざまに二度、重い物が落ちる音。
    グリスは杯を背に隠した。
    主人のワインに、不埒者の血が混ざってしまわぬように。

    赤い水音がする。
    夫婦の寝台に鮮血が染みていく。
    「ああ、疲れた」
    彼は刀の血油を拭いながらつぶやいた。
    シーツを真っ赤に染めた血がやがて床へ滴るのを無感動に眺めてから、彼はグリスに振り向いた。
    「汚れているよ」
    彼は自身の左頬を指した。
    「失礼を」
    グリスが頬を拭うと、手のひらにべとりと返り血が付いた。
    目の前の主人に目を遣ると、彼は頭から膝まで返り血に濡れていた。青衣は、元の色がわからないほどどす黒く、錆びた鉄の臭いがする。グリスの失言を笑うでもなく、彼は再び死体を眺めていた。乱れた彼の懐から、殺戮のカードが覗いている。グリスに横顔を見せたまま、彼は呟く。
    「私も汚れてしまった」
    彼の黒い眼は、今は昏く、今し方彼が殺した二人を見るともなしに見つめている。
    「身体を流した方がいい」
    グリスが言うと彼は首を横に振った。どうやら拒絶ではないらしく、ただ疲れきってしまった、そんな動作だった。
    ふと、彼はグリスに手を伸ばした。グリスが真意を測りかねていると、彼はようやく微笑んだ。
    「杯をありがとう」
    彼の赤い指に、杯を渡す。
    赤い酒が微かに水音を立てる。
    彼はそれを飲み干した。
    もう彼は死体を見なかった。
    「明日、朝参の供をしなさい」
    彼はまた七日を存える。
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    Myky9Y

    DOODLE「自分が全てを失った時もこうして、アサールは自分の手から本を買い戻すのでしょうか…(うろ)」にぶち上がって書いたド鬱主人公敗北バッドエンドifです
    そういうの好きな人が読んでってね
    星の墓標 アサールは一人、城壁の外にこびりつくように広がる難民街を歩いていました。彼の書店を空にした書痴の大臣がその輝かしい地位を失って以来、一番の上客をなくした彼は長く店を閉めていました。しかし、いつまでもそうしている訳にもいかず、彼は本を仕入れに来たのでした。

     一人でここを歩くのは久しぶりでした。彼が本を仕入れに行くと言えば、アルトは必ず資金とともに誰か護衛を寄越しました。そうしてやって来た護衛には様々な人がいました。初めて出会う人々と会話をし、本でできた彼の象牙の塔から出るのは、アサールにとって心おどる冒険でした。
     彼らはどこへ行ってしまったのでしょうか?
     あの日、アルトが地位を失ったと聞いてから、アサールは閉めきった暗い店の中で誰かが助けを求めてくるのを待っていました。もしかしたら、あの日アルトに連れられて来たザジイが、本好きのルメラが、アルトの影のように付き従っていたファラジが、もしくはアルト自身が──顔馴染みの店主を頼ってくるかもしれなかったからです。アサールは待ちました。しかし、ぽつぽつと彼らの訃報が届く以外に、彼の戸を叩く者はありませんでした。
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