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    ❄️氷❄️

    成人済|🔞のものや進捗をあげたりするかと思います

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    ※ミゼクウ未満
    ※ダンマカのいわゆる「下ルート」後を激しく捏造しています。
    ※自己流の設定が飛び出します。
    ※カップリング的な描写はほぼ皆無です。雰囲気文章です。

    砂の塔 ようやくか、とクウラはひとりごちる。
     アークとの──実際にはその中枢を担うナーヴ教会との──対話の機会を望み、何年経ったことか。アルムやクヴァルたちの協力で主要施設の構造を頭に叩き込み、警備も掻い潜り、地上に残した仲間と無線で連携しながら、単身乗り込んできた。眼前に立つのは、敵のトップだ。トップであるミゼリコルドに対話を持ちかけてみると、最初こそ泡を食った顔をしていたが、すぐに「まあ、丁度いい機会だな」と零した。あまりにもすんなり要望が通って、クウラは気が抜けそうになった。
    「お前のとこのリベリオンが足掻くから、兵の派遣も辞められないんだよ。さっさとこの場でくたばってくれ」
    「はあ?」
     絶対にお断りだ、という意思を込めてキツくミゼリコルドを睨みつける。眉間に皺が寄っているのが自覚できた。ビキ、という音が血管からしたのは気のせいか。  
     とてつもなく不穏なことを言っているのに、サファイアだけは透き通っている。クウラは文献でしか見たことがない、大海のようだ。吸い込まれそうとは、このことだろう。綺麗な青い瞳は、抉り出したら高く売れそうだ。
     と、そこまで考えてクウラは自身に嫌気がさした。チッと軽く舌打ちする。まるで、下卑た盗っ人風情が考えそうなことだと思ったからだ。
    「ここまで来ておいて、突っ立ってるだけか。ハン、所詮は下界の有象無象と同じだな」
     いつかスピーカー越しに耳にした声よりも、熱が篭っている。それだけに、罵倒の言葉を受けて、胃液が押し上げられそうだ。
     奥底に眠る記憶も一緒に奔流される。ミゼリコルドの声が焼き付いた日のことを、モノクロではなく鮮明に思い出してきた。

    「本当に使えるのか、これ」
     机上には、手のひらサイズよりは大きめの箱が置かれている。見かけに反して、重量がある。高度な機器で、これ以上は小型化出来なかったと商人が言っていた。
     赤いヘアバンドが特徴の商人は「出所は言えねェが、天上の放送を拾える代物だ。安くするぞ」と、やや強引に売り付けてきた。情勢を知るのはクウラにとって悪いことじゃあるまい、と口端を上げながら。
     ひとまず電源を入れて何時間か放置しているものの、静寂は破られないままだ。不良品かとクウラが深く息を吐いた途端、ボソボソとノイズ音が漂ってきた。砂利のような音が段々と、内容を成してゆく。
    『アークの諸君──』
     空に浮かぶ世界の放送が、本当に流れてきた。クウラは瞳を何度か瞬かせる。異世界の住人になったようで不思議な心地だ。
     住民たちに呼びかける挨拶の文言が続く。すらすらと澱みなく綴れるのは、慣れているからだろう。男の声だった。低めの声色ではあるが、喋り口は悠然たるもので聴き取りやすい。張りもある。恐らく、若い人物だ。それも内容からして指導者の地位にいる者に違いない。
    『ナーヴ教会は、貴方方に幸運の加護を授け続けよう──信じることで、とこしえの安泰が開かれる──』
     ミゼリコルドだ。
     アークの一大宗教、ナーヴ教会の現在の指導者を務めている。そんな彼が自ら訴えかけることもあるのか。クウラは感心した。だが、敵ながら天晴れなど思ったのは刹那に過ぎなかった。
    『下界では、我らに歯向かう徒党が未だに存在する──断じて許されない人々だ』
     声が、力強さを増す。罪人を断ち切る刃のようだ。許されないのか、とその一言が胸の裡の柔らかな部分に食い込む。
    『何故ならば、奴らは──エーテルネーア様を手にかけた!』
     義憤で燃え上がりそうな声になった。スピーカー越しの空気もビリビリと震える。すっかりリベリオンは悪人扱いだ。空を見上げて、そこに手を伸ばそうとする志を抱くチームは、地上においてはリベリオンぐらいしかもはや居ない。教会からすれば、目の上のたんこぶだろう。ことにクウラは、そうである筈だ。
     今現在、地上とアークの諍いは演説の主と、クウラがそれぞれ率いていると称されている。彼との共通点を挙げるとすれば、所属する組織のトップを喪ったことだ。そして、二番手だった筈が、今や大勢を率いる立場となっている。
    『天子と共に祈りを捧げる道を突然断たれたあの方の無念は、憤懣は、いかほどのものか──』
     けして早口ではないが、目を三角にでもしていそうな鋭さがある声色をしている。
    『──エーテルネーア様を弑した下賤の者共に、必ずや天罰を──』
     ブツン、と爆ぜるような音がして、言葉は途切れた。電波の傍受状況が悪くなったようだ。
    「よく言うぜ」
     教会の長たるエーテルネーアを手にかけたのは、他ならぬこの金髪の男だとクウラは知っている。正確には、又聞きなのだが。つまり、嘘で民衆を煽る詐欺師まがいのことをしているというわけだ。
    「無念を晴らす、かァ……」リーベルはそういうの俺たちに望んでないな、多分。もしもリーベルと今会話出来たとしても、地上をよりよい世界にして欲しい、と言う筈だ。小さな機体から演説はもう流れないが、まだまだ終わりそうにもない気配を纏っている。
     例え口から紡がれる言葉が偽りの信念であったとしても、多くの人々の忠誠心を突き動かしているのは確かだ。自分は三年程経って、ようやく板についてきた程度なのに。指導力って、もって生まれた才能ってわけ? 思わずため息が吐き出される。
    「はあーあ……」
     リーベルの遺志を継いでクウラが度重なるストレスにも負けず奮闘するのは、彼の理想を砂上の楼閣で終わらせないためだ。そのために、今ここに居る。分かってはいるが、胸の辺りが何だか重い。酒でも呑めば紛れるかもしれないけれど、地上に出回る酒には純度の低い粗悪品が多く、そう酔えない。
     とりあえず瞼を伏せてみる。仮眠を取れば、胸が詰まる思いからも幾らか癒されると思いたかった。
    「それにしたって、ここの所アークの兵達はちょっと気味が悪いよ。狂信的というか」
     明くる日にクウラは、戦略会議をしていた。相手はロイエ──この男、リベリオンに来るまではアーク側の軍人だった。そのため、対人の戦闘面での知識も経験も豊富であるし、何よりクウラよりはずっと敵の情報に通じている。ミゼリコルドとだって、やり取りをした経験があった。ただ、当時からいけすかない上司だった、と本人はしょっ中愚痴を言っている。
     ロイエが言うには、指導者の素質がないとは思えない。ただ、彼の名を抱き、叫び、時にリベリオンと衝突する兵士の目はどこか虚ろであることが増えている。まるで感情が閉ざされているようだ、と続けた。
    「ミゼリコルドの奴、何か人を操るまじないでも知ってるんじゃないか。紋章を使って、クヴァル君から攻撃されないようにする小細工までしてたぐらいだし……」
    「そんな」
     じっとり纏わりつくような空気にキイ、と不自然な程高い金属音が軋む。ロイエが左腕を見やった。彼は隻腕で、左手は人工物なのである。普段の生活に支障はないので、クウラも忘れそうになっていた。
    「ごめん、話の腰を折ったね。これもたまにはメンテナンスをしておかないと」
     優雅にピアノでも弾くように五本の指を動かすと、またも音が立った。話し込んでいた二人を制するかのようだった。
    「せっかくですから、今日はもう終わりに」
     悪いね、と眉を下げたロイエが退室して行った。
     人の精神を操るすべを使っているとすれば、それはリベリオンにとっては大きな脅威である。もう少し詳しくロイエの意見を聴きたかったが、今はそのときではない予感がした。ツンとした匂いが鼻を刺す。
     志を抱く指導者たる者、必要なのはどんな能力なのだろうか。考えると、目眩がしそうだった。

     完全に思い出した。邂逅した経験はなくとも、どことなく奇縁を感じていたんだな、とクウラは微かに苦笑する。
    「ダンマリだな。こちらの方からお望み通り、『話し合い』といこう」
     クウラの笑みを知ってか知らずか、そのまま隠し持っていたダガーナイフを取り出した。弱い火でジリジリ焦がしつけるように、間合いを一歩、二歩、と進めてゆく。
    「おおっと〜。近付いたら火傷するぜ。変な例えじゃなくて、マジのやつ」
     この日のために、最高傑作の爆弾が手元にある。射程距離は相当短い代わりに、破壊力は桁違いだ。完全に芸術家のような高ぶりに陥りながら、一心不乱に手を動かし、作り上げた。対話が第一の希望だったのでこの手段は使いたくないのだが、もしもミゼリコルドに手を下されるのならば、差し違える覚悟はあった。二人分の血飛沫で彩られながら倒れても構わない。「アンタまでもう来たんですか!」なんて、フーガ辺りには叱られそうだ。今地上には、信頼できる仲間たちが居る。後を任せることに不安はない。
    「俺と心中でもしたいのか。情熱的」クク、とくちびるだけで薄く笑う。
    「ふざけるなよ……! この私の顔に傷を付けようってのかァ、ええ?」
     逆上した口調でありながらも、判断は冷静ですぐにクウラから距離を取った。
    「ハー! だから傷じゃ済まねえよ! 爆弾作り舐めんな」
     わざと挑発的に、悪役のように振る舞ってみる。しかし、広いこの世界でどちらが悪役なのか、真実は分かったものではない。
    「……なあ、どうすんだよ。一回膝突き合わせて、話してみんのも良いんじゃねえの」俺の理想も、聴いてくれよ。理想的な世界を作りたいのはお前だけじゃない。
     ミゼリコルドの眦が吊り上がる。クウラの話を聴き入れてくれるだろうか、判断できない。ただ分かるのは、青い瞳が少し翳ったことだった。
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