ノウイセちゃれしすクリスマス〜ちゃれしすサイド 前編〜ここは、ちぃ店長こと松永知恵らが働いている『ちゃれしすお日さまレストラン』。小さな食堂からファミリーレストランに装いを変え、新宿という新天地にて再出発をした彼女たちは、みんなが笑顔になれる店を目指して奮闘中。
今年の冬は、リニューアルオープン後初めて、クリスマスフェアが開催される。その名の通り、クリスマスにピッタリなごちそうメニューと、ツリーやリースなどをイメージしたサラダなどが販売されている。出入り口の扉の近くには、カラフルなオーナメントで飾られたツリーが設置され、店内にもクリスマスの装飾がされていて、ホリデー感満載だ。
開店まであと5分。ワクワクしながらちぃ店長はこう言った。
ちぃ「今日はお客さんたくさん来てくれるかな〜?」
つぼ「楽しみだよね〜♡ イケメン来てくれないかなぁ〜?」
ほー「まあ、カップルとか来そうな気はするけど…。」
つぼっちが鼻血を吹きそうで、厨房にのっしーがいないか心配なほーじょーちゃんだが、そののっしーはレジ横にあるグッズコーナーを眺めていた。
のし「この小さき獣たち、どこか不思議な雰囲気があるな…。」
スピ「これか?バルセロナグループっちゅーところから出ているマスコットキャラのストラップなんだぜ。可愛いだろ?」
今年は、バルセロナグループとの全面協力で、プレーンやレーヴ、とこなっちゅなどのキャラクターのストラップを販売するとのことだ。ちゃれしすからも、ほうれん草の精のスピニーや、さくらんぼの精で、オーナーのチェリボンのストラップも販売されている。しかし、のっしーは舌打ちしながら不満げに呟いた。
のし「……ちっ、あいつの所か…。あいつが好きそうなやつもいるしな…。」
スピ「おーい、舌打ち丸聞こえだぜー。」
ナガ「せっかくクリスマスが近いんだから、みんなで楽しもうよ。」
のし「お前は絶対あとで買うつもりだろ。」
すると、チェリボンがレジスターからひょっこり顔を出した。
チェリ「ちょっとまつでしゅ。チェリボンもお忘れではないでしゅか?」
ナガ「あっ、ごめんねっ。ちゃんと忘れてないよ!」
テーブルの拭き掃除を終えてレジに戻ってきたかなたは、明らかに見覚えのあるようなストラップに気付いた。
かな「このストラップ…、もしかしてスピニーとチェリボン?」
スピ「そうなんだよー!よく気付いたなっ。」
チェリ「いくらドヤ顔で言っても、このワカメはコアな人しか買ってくれないでしゅ。やっぱり、この可愛いチェリボンの方が万人受けするに決まってるでしゅ♡」
スピ「なんだとぉ!?それと、ワカメじゃないっつってんだろーが!!」
相変わらず相容れない2人をよそに、副店長のみゆっき〜が、店員全員に呼びかけた。
みゆ「皆さん、開店時間まであと1分です!」
この一声で、それぞれの立ち位置についた。
開店から約5分、最初のお客様が来た瞬間、みんなが声を揃えて歓迎した。
「いらっしゃいませ!」
最初のお客様は、母親と一緒に来た女の子だ。その女の子は、ウェーブのかかった長髪で黒いカチューシャをつけた、薄いピンクのコートを着ている。
みゆ「お席をご案内いたします。」
みゆっき〜に案内された親子が座ったのは、窓際のテーブル席。母親が、注文用のタブレットを取り出して、女の子に何食べたいか訊きながら操作した。
「私、これ食べたい!」
タブレットで注文されたものが、次々と伝票として印刷される。
カルボナーラと目玉焼き付きのハンバーグのライスセット、そしてドリンクバー。さらには食後のデザートとして、クリスマスフェアのメニューのひとつ、粉雪チョコケーキ。粉雪をイメージしたホワイトチョコを使用したケーキのことだ。
つぼ「わぁっ!今日は最初のオーダーでクリスマスメニューの注文がきたわ!作るのが楽しみ〜♪」
リョ「まずは、メインディッシュからだな。カルボナーラは私に任せて。」
ほー「OK!私はハンバーグを作るね。能代くんは、トッピングの目玉焼きをお願いできる?」
のし「フッ。我の力を発揮する時がきたか。いいだろう。姫の頼みならなんでも聞こう。」
ほー「いいから早く準備に取り掛かりなさいよ。」
ちぃ「お米の仕込みもバッチリだし、炊き立てをお届けできそうだよ〜!」
厨房内では、それぞれ分担しながら業務に取り掛かった。その間に、続々とお客様が来店。接客組も時々厨房の業務を手伝いながら、ホールの業務をこなしている。
ゆい「お待たせいたしました!お先にライスのお客様〜。」
「こちらにお願いします。」
母親は、女の子側のテーブルにライスを置くようにお願いした。
ゆい「ハンバーグ、もう少々お待ちくださいませ〜。」
ゆいcは、ハンバーグを早く食べたい女の子の心境を察して、微笑みながらそう言って立ち去っていった。
「ハンバーグ、楽しみだなぁ。早く食べたいっ!」
「そうね。もう少しでくるからね。」
どんどん席が埋まって賑わう一方、厨房内では、注文用の伝票がだんだん印刷されていく。お客様が増えてきた証拠だ。しかも冬休みの時期。家族連れも多いであろう。リョウはカルボナーラを、ほーじょーちゃんとのっしーは目玉焼きハンバーグを完成させ、ゆいcに料理の提供をお願いした。
ほー「お願いします!鉄板気をつけてねっ。」
ゆい「了解!」
配膳用のカートに料理をのせて、先ほどの親子のもとへ来た。
ゆい「お待たせいたしました!カルボナーラと、目玉焼きハンバーグでございます。鉄板お熱いのでお気をつけください。」
「わぁっ、ハンバーグだ!いただきま〜す!」
ナイフを切ると、半熟の目玉焼きの黄身がトロリ。そしてじゅわっと溢れ出す肉汁。ご飯が進むような満足感がたまらなく、女の子は幸せそうだ。
「美味しい…!!」
母親も、濃厚でクリーミーなカルボナーラを堪能してるようだ。かなたとスピニーは、その親子の様子を遠くから見ていた。
スピ「いやぁ〜。この幸せそうな笑顔を見るのが堪らねえんだよなぁ〜。」
かな「ほんとほんと。お店としても嬉しいよね〜。」
スピ「食べ終わったあとに、このストラップも買ってもらえたら嬉しいだろうけどよ。」
すると、その横のストラップのコーナーには、学生であろう男子3名がスピニーのストラップを見てからかっていた。
「なんだこれ?うさぎとかフクロウとかいるのに変なのがいる〜。」
「マジかよっ。てかこいつ何だろ?ワカメ?」
「ワカメっ。たしかにワカメにしか見えねえっ。」
スピニーのストラップを見てゲラゲラ笑う男子学生たち。笑いものにされたスピニーは、怒りたくても怒れなかった。お客様の前では置物代わりにせざるを得なかったからだ。
スピ(ちくしょー、こいつら、オイラを笑いものにしやがって…!!)
すると、別の男子学生が席を離れて声をかけた。
「もう料理くるって!」
それを聞いた数名の男子学生たちは、ストラップコーナーを離れて席についた。
かな「……もう慣れっこじゃない?こういうの。」
チェリ「もうそろそろ自覚したらどうでしゅ?」
スピ「慣れねーよ、一生!!こいつらにだけは買われても嬉しくねえ…!」
数分後、メインの料理を食べ終えた親子は、食後のデザートを食べている。窓の外で降り続く粉雪のように白く染まったケーキは、まさに至福の味だろう。
それを遠くから眺めていたちぃ店長はこう言った。
ちぃ「ねえねえ、あの子凄く美味しそうに食べるよねっ。」
つぼ「うんうん!スイーツ開発部の自信作、喜んでもらえて嬉しいな♡あとで部長のぱっつんにも報告しないと!」
スイーツ開発部とは、お日さまレストラン開店に伴い本格的に設立された、デザートメニュー専門のグループである。レギュラーメニューに加え、季節限定のデザートの開発も行なっている。
注文された料理を食べ終えた親子が席を離れ、母親が会計のためレジに並んでいる。その近くにあるグッズコーナーでは、女性2名のお客様が、「可愛い〜♡」と言いながらプレーンやチェリボンのストラップを手にとっていて、右端では、チェリボンがサンプルのフリをしながら立っていた。
チェリ(この子達さすがでしゅ。見る目がありましゅねっ。でも……ずっと立ってるのもしんどいでしゅ…!)
女性2名が買うものを確定したので、レジに並び始めた直後に、チェリボンは気付かれないようにリラックスして座った。
すると、女の子は、ストラップのコーナーが気になりじっと見つめた。そして、列が進み母親がお会計をするタイミングで、そっとその列から離れたのだった。どうやらその女の子も、可愛いものが大好きなようだ。何かにときめいたように、瞳が輝いている。
(可愛い…!これほしいなぁ…。)
その様子を見ていたチェリボンは、心の中で、自分のストラップを買ってくれるのを期待していた。
チェリ(きっとこの子は、チェリボンを買ってくれるに違いないでしゅ。いや、むしろ買ってほしいほどでしゅ…!)
その期待に応えたのか、女の子は、チェリボンのほうをジーッと見つめていた。しかも、ストラップではなく本物のほうに。同時に両手をゆっくり前に出すように…。
チェリ(……えっ?なんでしゅか?ストラップはあっちなのに……。)
一方外では、お日さまレストランに向かっている人がいた。お客様ではなく、遅番として出勤したスタッフのひとりだ。ピンクのうさぎの耳がついたイヤーマフを付けて出勤する変わったスタッフ、ぱっつんこと、西田彩乃だ。
ぱつ「うう……、今日も寒いわね…。早く店の中に入りたいわ…。」
この日の最高気温は12度。コートが欠かせなくなる寒さだ。足を震わせながら中に入ろうとしたその時…。
ぱつ(……えっ⁉︎ ちょっとまって、この女の子のバッグ…。)
女の子のバッグの小さい網から、さくらんぼのように赤い触角がはみ出ていた。女の子は、母親が目を離したすきに、ストラップではない本物のチェリボンを、ぬいぐるみだと勘違いして拾ってきてしまったのである。
ぱつ「え、ちょっ、ちょっとまっ……」
ぱっつんが声をかけようとしたのも束の間、女の子はチェリボンを拾ってきた状態で車に乗り込み扉を閉めてしまった。そしてその車は左方向へ走り去ってしまったのだった。その様子を目撃したぱっつんは、ただ呆然としていた。
ぱつ「あの子……、どうやってチェリボンを…?」
するとスピニーは、人間態の状態で店の出入口の扉を開けて、ぱっつんに声をかけた。
スピ「おーい、ばっつん!寒いから早く中に入れよ!ただでさえお前はその格好で目立つんだからさっ。」
ぱつ「…………。」
スピ「どうしたんだ……?」
本来なら、名前を呼び間違えられても反発するのが日常茶番時だが、今回ばかりはそれどころじゃなさそうな空気だった。
開店から3時間経過。ピークが過ぎ、一旦落ち着いて来た頃合いだ。
ナガ「ふーっ…、今日のお昼も凄かったね。」
ゆい「冬休みシーズンでクリスマスが近いし、たくさんお客さんが来てたね。時間があっという間に感じたよ…!」
みゆ「早番の皆様、今日もお疲れ様でした。次の出勤までゆっくり休んでくださいね。」
「お疲れ様でーす。」
この日の早番は、つぼっち、ほーじょーちゃん、リョウ、のっしー、かなた、ゆいc、ナガト丸の7人。次々とタイムカードを押し、着替えをしにロッカールームへ向かっていく。
そして、入れ替わるように、遅番のメンバーがやってきた。くりりん、ココ、ひまりん、さっくん、うーちゃん、ミサキ、マリアンナの7人だ。テイクアウト用のケーキの予約が入ってるため、ぱっつんはその7人より先に来ていたが、元気がない様子。
長くいたちぃ店長は、休憩に入っていいか確認するために、チェリボンに声をかけようとした。
ちぃ「チェリボーン、そろそろあたしも休憩に入っていい〜?」
ところが、そのチェリボンの姿が見当たらない。
ちぃ「…チェリボン?おーい、どこ〜?」
みゆ「店長、お客様に聞こえてます。不審に思われますよ?」
ちぃ「あっ、そうだったっ。失礼いたしました〜。」
慌しかったため、ほとんどのメンバーはチェリボンがいなくなっていることに気が付いていなかった。
うー「ちぇりぼん、おやすみ〜?」
ちぃ「いやぁ…、お休みじゃないしさっきまでいたはずなんだけど…。」
すると突然、スピニーが顔を真っ青にして叫び出した。
スピ「誘拐だ!!!」
その大声に、店内にいる誰もがざわついた。奥のテーブルの子供用の椅子に座っていた赤ちゃんまで泣き出すほどだった。
みゆ「しっ、スピニーさんもっと声量を抑えてくださいっ。」
スピ「すまん…。オイラだってまさかああなるとは思わなくて…。」
みゆ「一旦厨房でお話しましょう。オーダーが入ったらそちらに集中で…!」
さく「チェリボンはん、今日はお休みかと思ったわ…。」
ミサ「私達がいない間、何があったの?」
スピ「オイラはその時お手洗いから戻ってきたばかりで、あいつがいなくなった瞬間に気付かなかったんだが……。」
ぱつ「でも…、ぱっつんは見てしまったのよ。女の子がチェリボンをバッグに入れて車に乗り込んだ姿を…。」
マリ「マジ⁉︎ チェリボン、大ピンチじゃん!」
ココ「その後はどうしたの?」
ぱつ「声をかけようとしたけど、その車は走り去ってしまって…。」
出勤する前に外にいたぱっつんだけが、その瞬間を知っていた。しかし、スピニーは店内のお客様に配慮しつつ怒りをあらわにした。
スピ「だったら車が去る前に声をかけるべきだっただろうがよ⁉︎」
ちぃ「まあまあ、別にぱっつんが悪いわけじゃないんだから、そこまで怒らなくていいんじゃないの?」
スピ「でもさ、あいつオーナーだぜ?オイラの方が経歴長いけどさ。」
スピニーが苛立ちを募らせているのは、喧嘩相手でありつつも、チェリボンを凄く心配しているからだ。
ひま「だから今日、ずっとぱっつんが元気なかったんだ…。」
くり「心配でござるなぁ。探すことには力を貸してあげたいところだが、お客様を待たせるわけにもいかぬ…。」
すると、ココがスマホを取り出した。チェリボンからのメッセージで、連絡が来たのだ。
ココ「見て!チェリボンはこの場所にいるみたい!」
スピ「何っ⁉︎どこだどこだ……。幕張新都心のショッピングモール…だと⁉︎」
チェリボンから、ちゃれしすのグループメッセージに送られてきた写真は、幕張新都心にあるショッピングモールの看板だった。『直進7キロ』という文字もある。その下には、
<チェリボンはここにいるでしゅ!助けてほしいでしゅ!!>
というメッセージもある。
マリ「この看板が目印ってこと⁉︎ なんか見たことあるし、電車使えば行けるかな?」
すると、ちぃ店長が突然、厨房を出ようとした。
スピ「おいっ、店長⁉︎」
うー「どうしたの〜?」
ちぃ「ちょっと早番の人達呼んでくる!まだ外に出てなかったら、その人達に探しに行くようにお願いしようと思って!」
ちぃ店長はそう言って、厨房の扉を閉めた。残されたメンバーは突然の出来事に呆然とした。
ひま「大丈夫かな…?」
ココ「チェリボンが居場所を教えてくれたから、見つかるといいんだけど…。」
みんながチェリボンを心配するなか、ぱっつんは、さっきまでうつむいていた表情から立ち直るように顔を上げた。
ぱつ「ぱっつんも行く!」
みゆ「ぱ、ぱっつんさん⁉︎」
スピ「オイ、残りの仕事とかどうすんだよっ。」
ぱっ「だって、ぱっつんは見たんだもんっ。女の子のバッグに入れられ連れて行かれた姿を…。」
ぱっつんは、声を震わせながらそう言った。チェリボンのことが心配で仕方がないのだ。
ぱっ「ちゃれしすにとって大事なチェリボンのこと、放っておけるわけないじゃない!チェリボンが見つかったら、その後は一日中通しでなんでもする!だから……、一緒に行かせてほしいの!!」
ぱっつんの決心は固かった。それでも、そんな彼女を信じる人は多かった。
みゆ「……わかりました。何か進展がありましたら、必ず連絡くださいね。」
くり「チェリボン殿は、きっと此処に帰還すると、信じてるでござる!」
ぱつ「みんな……、わがままなぱっつんを信じてくれて、ありがとう…!」
そのわがままも、大切な人を想う気持ちからだった。
一方ちぃ店長は、女子用のロッカールームにいる早番のメンバーに先に声をかけた。
ちぃ「みんな、帰る前に突然ごめん!もう1個だけ仕事……というか、頼みたいことがある!!他に用事とか入ってなければ!!」
本当に突然すぎたので、みんな驚いている。
ほー「えっと……、特に何も用事はないけど…。」
かな「ほんと突然だな、店長……。」
つぼ「急にどうしたの?」
そう訊かれたちぃ店長は、この日にあった出来事を包み隠さずに話した。
ゆい「えっ…⁉︎チェリボンが⁉︎」
リョ「全然気付かなかった…。」
ちぃ「チェリボンは今、幕張新都心のショッピングモールにいるんだって!みんなでチェリボンを探しに行ってきてくれない?」
オーナーのチェリボンの突然の失踪は、ちゃれしすお日さまレストランを揺るがす事件のひとつとなった…。