「へぇ/ほぉ」
「は/…」
自分の視界に自分の顔が映るというのはなんとも不気味である。それが鏡写ならまだしも、不健康な笑みに歪んだ非対称の顔が自分と同じ高さに浮かんでいるのだ。
これを不気味以外の何と言えよう。
「おい、ルシファー。どういうことだよ」
その反面、私のアダムは分かりやすい。
揃いの黒スーツに顔を覆う金のマスク。
セットされた髪に黒に深紅の瞳。
腰に巻き付く金のベルトは個性的な鎖型である。
「!…お前、アダムか?」
「お前に話しかけてねぇよ」
「カカッ。随分と不遜な態度だなぁ」
「そっちは随分と感じ悪りぃな。生理か?」
「おい止めろ」
ルシファーは自分のアダムの腕を掴んで相手を牽制する。そうしなければもう一人の自分が手を挙げそうな気がしたのだ。
「なんだ。躾ができないのなら代わりにやってやろうと思ったのだが」
「何処の馬の骨とも知れないやつに、余計な手間はかけさせんよ」
「駄犬の一匹や二匹、私に取っては苦でも何でもないさ」
「駄犬?そうか。お前はそういう思考の私なのだな」
「…?どういう意味だ」
ルシファーは押し黙るとチラリと視線を逸らす。
天使の仮面に天使の装束。
立ち姿はまさしく天使である。
しかしその面に映るは死人そのもの。
ここに来てから上を見上げて微塵も動かないその人物は恐らく奴のアダムであろう。
「あぁ。それか。なかなか静かで良いだろ?」
「…」
「お前のそれも、同じようにしてやろうか?」
「…結構だ」
「カカカッ!それは残念だな。あれが従順になる様は実に愉快でな!もう一度見られるかと思ったのだが」
「おい、さっきから私のことを物みたいに言うな」
「カ。」
「アダム。やめなさい」
「お前も!何黙り込んでいるんだ!」
アダムは黙りこくって動きもしない自分に噛み付いた。それでも彼は特に反応しなかった。
袖を掴む手に力を込める。
アダムは私がいることですっかり油断し切っているようでそれこそ駄犬のように動き回ろうとしていた。
しかし目の前の不健康なルビーは瞬きせずに獲物を見つめている。
かなり不味い状況であった。
その上、
「それよりルシファー!あれどう言うことだよ!」
「書いてある通りだろう…」
「おやおや。それは識字能力が無いのか」
「…」
ルシファーは小さくため息を吐く。
目の前には『スワッピングしないと出られない部屋♡』とバカの字体で書かれていた。
甘ルシアダと終ルシアダでスワッピングしないと出られない部屋
っていう導入。