乙ナタ「キサマ、ヤるぞ」
哪吒に布団を引っぺがされて言われた。
自分はこの子の作り方を間違えただろうか、と思った。
本来なら「育て方を間違えた」と言うべきなのだろうが、如何せんそこまで長くは育てていない。しかし作ったことは作った。戦いに向いた肉体と、思考の回路。まあなんというか、肉体に比べれば思考回路の方は多少、おざなりな仕事だったかもしれない。けっこう難しいんだよなぁ、宝貝人間にちゃんとした情緒とか与えるの。だからこの子こういう性格なんなんだよな、まあそれはそれでかわいいけどね。と思いつつ、引っぺがされた布団をもう一度かぶった。
「やらないよ、眠いから寝かせて」
「やると言ったらやる」
「そういう相手はイエの外から探してきなさい」
「断る。めんどうだ。キサマがやれ」
やるやらない、とやり合っているのはまあなんというか、人間界でいうところの性交とかいうあれについてだった。
「哪吒、そういうことは親とはしないものだよ。何度も言っただろ」
「キサマは俺の親ではない。ごちゃごちゃと体をいじくる奴だ。つまりもっとごちゃごちゃといじれ」
「うーん」
それはそれで一面の事実だった。哪吒の肉体を何度となく生まれさせたり復活させたりはしているが『親』というものはよく分からないし、それを名乗るにはいろいろと足りていない部分も多すぎる。長く生きすぎたせいか、実際のところ人間の営みのこともよく分からない。であってもさすがに、哪吒はそういう対象にはならない。と思う。多分。
「私はしないよ。君のことはかわいいが、もうそういう欲もないし」
「じゃあどうやって、やればいい」
「哪吒が自分で出会うんだよ。女の子でも男の子でも、仙道でも人間でもそれ以外でも。君のことはそれなりに好かれるような見た目と機能には仕上げたからね。ちゃんと相手を探して経験しなさい。哪吒のご両親だってそうやって出会ったのだろうし」
「あの二人は見合いだ」
「そうかい、だのにラブラブでうらやましいよまったく」
「キサマ、真面目に聞け」
すちゃりと宝貝を構えられた。
このやり取りも今日が初めてではない。いちいち全部に反抗してくるししょっちゅう暴力に訴える。そうやって突っかかってくること自体は構わない。人間として普通の、正しい魂のあり方だ。哪吒の「そういう」情動をつかさどる部分、難しくはあったが出来る範囲で人間に近く作ったつもりではある。なんやかんやを総合すると、つまり哪吒もお年頃だった。
「まあ……そうだよね、したいか」
時期が来た。とても分かりやすく、そういうことなのだろう。
肌と肌とで分かり合ったり余計に遠ざかったりするあの行為について、そういえばどこからともなく聞いてきた。おそらくは「強い奴はモテるから経験も増える」とか「経験すると強くなれる」とか、そういう方向の説明をされたのだと思う。欲望だとか守るべきものだとか。あったほうが強くなれたり出世街道を迷わず走れたりするのは事実なのだ。あの仲睦まじい、哪吒の生みの両親だっておそらくはそうなのだろうし。
することで強くなれると言われたら、そりゃ哪吒なら試したくもなるだろう。強さを追い求める宝貝人間だから。そして彼をそういう風に作ったのもまた自分だ。参った。これは大変に参った。
「うーん」
考え込んだ。そして一応の対処法を思いついた。
「そうだ哪吒。こうしなさい」