9月8日。─遡ること、その日は彼女の誕生日だった。
キャプテン・オリマー救助の為に、シェパード隊長率いるレスキュー隊は未知の惑星に向かうも、突如のトラブルにより二次遭難が起きてしまい、当時新人隊員だったベルが本部から駆り出された。ピクミンと呼ばれる未知の惑星の生き物達の力を借りながら、二次遭難からの救助に加え、数十名の遭難者の救助の任務を果たした。こうして彼女は正式にメンバーの1人として迎え入れられ、それから1年ほど経っていた。
あの未知の惑星での任務からの帰還直後は、ラッセルのお母様が開くパーティーなどの行事が重なり、彼女の誕生日を知る頃にはもう当日を過ぎてしまっていた。
ベル自身はあまり気にしてはいなかったものの、彼女に対し不憫かつ申し訳なさを感じたコリーは、隊長を始めとするベル以外のメンバー内で、今年こそはとベルの誕生日祝いの計画を密かに企てていた。
しかし、遭難などの救助要請は何時にでも降り掛かるもので、今年のベルの誕生日であるその日にも来てしまったのだ。
救助要請の出所は、ベルの出身星であるカルタ星のとある区域。
数年前に起きたとある災害によって、多くの消防団員の力を借りようとも、消えることなく燃え続けていたようだが、最近になってようやく鎮火したらしい。しかし炎は消えても灼熱のような熱気が籠っており、加えて如何にしての経緯についての調査の理由も含め、今でも禁止区域とされている。
後で遭難者から聴取した内容によると、彼はその場所の経緯に対する好奇心により、禁止区域内にも関わらず山奥にまで自らの足を踏み入れてしまったそう。…幸いにもフレア・ガードの着用のおかげで無事救出されたからこそ、聞けた話である。
予定より少し遅くなるのは覚悟だが、遭難者救助の任務から帰還したベルの為にサプライズバースデーをレスキュー隊で祝おうとした
─その予定の筈だった。
帰路に向かう筈だったベルはオッチンに何か話し掛けたかと思うと、突然オッチンを置いてビーグル号とは別方向へと駆け出していった。
彼女の突如の行動にシェパード号の艦内にいた一同は唖然。
「─オッチン!遭難者をビーグル号の中に乗せたら、直ぐにベルの後を追うんだ!」
通信越しで、隊長はオッチンに指示を送る。
「ベルさん!どうしたんです?!一体何かあったのですか?!」
ただでさえ危険区域内である山奥へ駆け出していくベルに、コリーは引き返すよう何度も呼び掛けるも、何かに取り憑かれているかのように応答もなく、そのまま走っていく。
「─ベルさんっ!!!お願いですっ!!!どうか返事だけでもっ─」
「…おい、聞こえてんだろ新入りぃっ!!!コリーを無視すんのは一体どういう事だ?!!
一体何があったかぐらい言ったらどうだ!!!聞いてるのか、ベル!!!」
コリーの必死の呼び掛けに応じないベルに、痺れを切らしたディンゴは声を荒げた。
…それでもベルの耳に届かなかった。
時間が経つにつれ日も落ちていく。
ただで日が照らされながらも、他の地域と比べて薄暗く感じられる区域内が段々暗くなっていく。
その中でこのまま更に山奥に進むようでは、ベルの身の危険度も高くなってしまう!
─そう誰もが案じた時に、突然ベルはようやく立ち止まった。
しかし、彼女はどういう訳か立ち尽くしている。
オッチンはようやくベルを見つけたと鳴き出すが、彼女の視線の先に気づいたのか、鳴くのをやめた。
彼女の視線の先に視点を写すと、そこにはあまりにも衝撃を与える物が映されたのだ。
見てしまった隊員は、誰もが目を見開き、声を失う。
「…ベルさん、それは、一体…」
コリーは微かながらも、声を振り絞りながら声をかける。
状態を見るからに、恐らく死後数年は経っているのだろう。
数年燃え続けていた火に曝されたからか、それともただ腐敗が進んだからかだろうか、白骨化している。
それにも関わらず、見ただけでも体格は一回りは大きく感じる。
ベルは表情を変えず、ただ見つめ続けていたが、小さく漏れた声を、コリーは聞き逃さなかった。
じーちゃん…と。
─それからは遭難者の件とは別に、発見した遺体についての調査を始めた手続きなど、色々あった。
身元確認の鑑定のもと、遺体は数年前に失踪したベルの「身内」ものと判明され引き渡された。
その結果、皆で祝う予定だったベルの誕生日は、何よりも最悪な形となってしまった。
発見から数日後、
本部の近くにある教会のもとで、レスキュー隊内でベルの身内の葬儀が行われることになった。
─教会とは、昔テレビとかで見たような、もっと厳かなものだと思ってた。
どこか古めかしいけれど、綺麗なガラス細工のステンドグラスに照らされて、宗教的な絵画が飾られている…そんな感じだと。
コリーは目で見回しながらそう思った。
確かにステンドグラスはあれど、想像していたよりも控えめで、それ以外でもどこか簡素と言った感じだ。
それでもどこか神秘的で厳かな雰囲気なのには変わりない。
そして、喪服に身を包んだベルの背後に目を向ける。
彼女は、祖父が眠っているのだろう棺の前に立ち尽くしていた。
彼女の隣には、この教会の牧師。
聞けば彼は、かつてベルがこの教会で働いていた時にお世話をしていたそうだ。
そして奏でられるパイプオルガンと共に歌う聖歌。
おそらく子供の頃に学校で聞いたことはあったかも知れない…いや、それとも最近だっただろうか。参列者の為に配布された歌詞カードを頼りに歌い出す。
一方ベルはと言うと、歌詞カードを使わずに歌っている。
…そう。あの未知の惑星にて、時々人目に隠れてピクミンと一緒に歌ってた、その一つだ。
─ベルの歌声は高く透き通っており、どこか繊細で儚く、切なくも感じる。
今は亡き大事な人の葬儀もあってか、更に胸を締め付けるような気がした。
…隣で隊長が驚いた顔でコリーを見つめているのに気づいた時には、いつの間にか彼は嗚咽を漏らしながら涙を流していたのだった。
一方ベルは、始終感情を表に出さないままであった。
「無線屋、お前歌っている途中に泣いてたのってマジか。」
葬儀の帰り際にディンゴに問掛けられたコリーは、少しバツが悪そうにしていた。
「そりゃ身内だったら泣くのは分かるけどよお…寧ろ泣くべきなのはアイツだろ。
アイツ、何で最後まで悲しむ顔一つすら見せないんだ?」
「…ディンゴさんっ!!!」
突如コリーが怒り出し、ディンゴは戸惑った。
─確かに失った事に関して、悲しむのは当然の事だ。もし、自分の祖父が突然失踪しあのような形で再会となったらどのようなものだろう。
認めたくない怒りと受け入れざるを得ない悔しさと、悲しみ。…色々整理が着くのには時間が掛かるのだろう。
自分達の知らないところで、ベルはどれ程の思いを抱え込んでいたのか。
ディンゴはベルを気に掛けて言った筈なのだろうが、コリーにとっては少し軽率に感じてしまったのだろう。
2人が言い合いになっているのに対し隊長が止めに掛かったので、その場は何とか収まった。
ふと、ベルがその場を見ているのに視界が入った。
…が、彼女は即何も言わず、教会の中へと戻った。