「なあ、新入り。…お前ってさ、一体どっちなんだ?」
ディンゴのそんな声が、少し離れた場所からふいに響いた。
その瞬間、コリーが思わずそちらを振り返ると、視線の先にはどこか困ったような表情を浮かべているマイラと、ディンゴだ。
悪気は…なさそうだが、けれど、それは問題ではない。
「…どちらに見えますか?」
とマイラは笑顔を作って返した。
質問を質問で返されたのか、ディンゴは怪訝そうに困惑していた。
「ディンゴさん!そういう訊き方はないでしょ?!」
コリーが間髪入れずに割って入り、強い調子で窘める。
それに対しディンゴは曖昧に謝った後、気まずそうにその場を去っていった。
コリーはマイラの方へ振り返り、深く頭を下げた。
「マイラさん、さっきは……すみません。あんなことを言わせてしまって。
ディンゴさんには、後でちゃんと注意しておきます。」
「……大丈夫ですよ。」
マイラはほんの少し、笑みを浮かべる。
お互いの関係を作るにおいて、相手の事を知るのが大事である。
一方、今のご時世にて自ら明かさない限りは他者のプライベートな範囲を深く掘り下げようとするのは野暮な事だ。
仮に答えなくたとしてもありもしない事を妄想して決めつけるのも。
だが、田舎であるとそういった意識はかなり低くなるのだろう。
決めつけてはならないが、ディンゴやパピヨンの出身星もその傾向にあるのだろう。
だけど様々な出身星の者が集まるとなるとそうにはいかない。
「ディンゴさんには、悪気はなかったと思います。…むしろ、気になるのは当然だろうとも思っています。」
「でも……」
コリーは言葉に詰まる。
自分自身も、心のどこかでずっと疑問に思っていたことだった。
けれど、だからといって─
「私、これまでも、似たような質問を沢山受けてきたんです。」
マイラの声は静かだった。穏やかで、少し遠くを見るような目で。
「ただ、生きていただけなのに。それだけのことで、疑問を向けられる。それがずっと、悔しくて。
だから、いつからか、こう返すようになったんです。
“貴方には、私がどちらに見えるのか”と。」
「…そう、だったんですね。」
「…私は、その人のご想像にお任せします。
そうすれば、誰も否定されずに済むから。…その方が、一番無理がないと思うんです。」