ギャルソンバクラとマリクレストランで短期アルバイトすることになった獏良。バイト最終日、前日の夜のバクラの態度に腹が立って「今日のバイトはお前が行け!!!」と無理矢理バクラに交代。
「なんで宿主のバイトにオレ様が行かなきゃならねえんだよ!」と休む気でいたが、家を出る時間になり苛々しながらもバイト先へ向かう。
アイツの働く姿を見て笑ってやろう!とジャケットパンツスタイルに着替えたマリク、レストランへ。
店内は満席。少し待って案内されたマリク、食事中の客の女性達が忙しなく店内をきょろきょろ見回していることに気付く。
何なんだろうと不思議に思いながらも料理を注文し、運ばれてくるのを待っていたその時、キャアッと黄色い声が上がった。
彼女達が熱い視線を向けるその先には、客に料理を運ぶギャルソンのバクラの姿が。
あまりにも様になっていて、マリクも彼女達同様釘付けになってしまう。
家を出る時不機嫌だったから手を抜いて働いているんだろうと思って注意してやるつもりだったのに、機嫌の悪さなど微塵も感じさせない雰囲気で、与えられた仕事をスマートにこなしている。
高校の同級生が来店するには少し場違いなレストランだからか、バクラは獏良の振りをしていない。
隣の席の女性客は「お昼ここにして良かったね。あとであの人に声かけて連絡先訊いてみようよ」とヒソヒソと話している。他の席の女性達も、多分その類の話をしているのだろう。彼氏らしい相手と食事している女性達も、対面に座る男の目を盗んでチラチラとバクラを見ている。
ふとバクラと目が合い、マリクの存在に一瞬ぎょっとした様子のバクラだったが、フッと不敵な笑みを浮かべられただけだった。
その笑みを見た女性達が色めき立った。
なんだか胸の中がモヤモヤしてきて、来るんじゃなかったな…、と別のギャルソンに運ばれてきた料理を食べながらマリクは思った。
食事を終え、食器を下げてもらったマリクは溜息をついていた。
料理は、正直言って味が分からなかった。というより味わう心の余裕がなかった。
バクラがテーブルに料理を運ぶ度に、運ばれた席の女性客達は何かしら声をかけていた。その内容までは分からないが、少しの時間でもいいからバクラと話したいからだろう。
…見なければいいのに、つい視界に入ってしまった。働くバクラの姿を、食事をしながら目で追ってしまっていた。
本当に、来るんじゃなかったな……と、帰ってからバクラと顔を合わせるのを気まずく思っていたその時だった。
「お客様、食後のコーヒーです。どうぞ」
「あ…」
ホットコーヒーを運んできたのはバクラだった。
その見た目と声がどうしようもないほどに反則的で、声をかけて引き留めたくなる女性客達の気持ちが少し分かってしまう。
ここに来る前は、貴様その姿全然似合ってないな、なんてからかってやろうと思っていたのに。
似合いすぎていて格好良すぎていて、困ってしまう。
しかし何も言えないでいると、バクラはさっさと厨房に戻っていってしまった。
何か一言くらい、声かけてくれたっていいじゃないか………。
少し落ち込みながらもミルクと砂糖を入れたコーヒーカップを手に取ろうとすると、ソーサーの下から小さな紙切れが顔を覗かせていた。
「ん…?」
アイツ、いつの間にこんなもの置いたんだろう…?
二つに折り畳まれた紙をかさりと音を立てて開く。そこには雑に書かれた文字が。
『
あんまりじろじろ見てんじゃねえよ
そんなにオレ様のこの姿が
気に入ったんなら
今日の夜はこの姿で抱いてやるから
楽しみに待ってな
』
(〜〜〜〜〜あの馬鹿っ、何考えてるんだよ…!!!!!)
かあっと顔が熱くなる。思わず手に力が入り握り潰しそうになった紙を畳んで慌ててポケットに仕舞った。
コーヒーをひと口だけ飲み、気持ちを何とか落ち着かせて、席を立ってレジへと向かったマリク。
胸の中にあったモヤモヤは、自分にだけ渡された小さな紙切れ一枚によって払拭されてしまった。