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    前垢からの再掲🦔🦩

    蓋を開ければ若に向ける自分の好意は、純粋だと思っていた。それは神に向けた敬愛にほかならず、俗物的な性愛だとか、独占的な欲求なんてそこには無いと。
    けれどもそれは、若の弟が現れた時、とんだ勘違いであったと分かってしまった。
    弟というだけで、コラソンの立場に収まる男。俺が何年もかけて得た信頼を、再会した瞬間から得ている男。
    神に向けた美しいと思っていた感情は、蓋を開ければ、なんとどろどろとして汚れているのか。
    湧き上がる自分への嫌悪感と、神を汚してしまったという感覚。
    これ以上、自分の感情で若を汚したくない。そう思い、少しばかり距離を置くことにした。いつでもどこでもついて回っていたのを、指示があるまで動かず、寄らず。ただ遠くから見つめるばかりに徹することにした。
    思えば、何時でも自分のそばにいる人間の存在は、煩わしいものだっただろう。今は信頼を得ているからこそ何も言われないものだが、それ以前であれば、気も落ち着かなかったはずだ。その事実に今更気付くとは、自分本位で視野が狭い証拠だ。ほんの少しも、若の事を考えていなかったのだから。

    遠くで見つめるよう徹し始めてから、数日が経った頃。若に、自分の部屋へ来るようにと指示が出された。
    なにか粗相をしてしまったのだろうか。あぁもしや、向けられる視線が不愉快だったのだろうか?もしそうならばどう償えば良いのだろうか。
    そんな事がぐるぐると思考を駆け巡り、足取りが重くなる。
    せめて…せめてこの感情だけは、許して頂けないだろうか。捨てろと言われれば捨てるつもりではあるが、どうか、どうか。せめて自分が美しいと思い込めていた部分だけでも。
    そう思いながら部屋の扉を叩けば、直ぐに「入れ」とお声が掛かった。
    「失礼致します」
    「あぁ。よく来たな、グラディウス。とりあえず、ここに座れ」
    若は柔らかなソファーに腰掛け、自分の隣を指し、そう仰られた。
    まさかそれほど近い距離を示されるとは思わず、しかしぎこちないながらも指された場所に座る。すると若は、逃がさない、とでも言うようにがっしりと肩を組み引き寄せ、その手で顎をすくい上げては視線を合わせた。
    色の濃いサングラスの向こう側にある瞳と、自分の瞳がかち合うのが分かる。じっと至近距離で見つめられ、触れる箇所から伝わる熱があまりにも熱く、焼けてしまいそうだ。
    「なぁ、グラディウス…お前、一体どうした」
    低く落ち着いた声色で、そう問われた。
    どうした、とは。何を問われているのかが理解出来ず、「何の、ことでしょうか…」と、張り付いた喉で思わず問い返してしまった。質問されているのは自分だと言うのに、なんと愚かな事だろうか。
    自分の犯した失態の情けなさに涙が出そうだ。問い返した言葉を取り消して考え直そう。そう思い再び口を開けば、若は「ここ数日の、お前の行動についてだ」とお答えくださった。
    ここ数日の、行動。なにか不審な点はあっただろうか?と記憶をひっくり返すが、心当たりはなく。無意識的に不快にさせる行動をとっていたのだろうか?
    すぐに返答が出来ない俺に、若は小さくため息を吐く。
    「最近、お前がおれの後をついて回らないものだから、独り言が増えちまった。なぁ、グラディウス?」
    顎を支える指がすり…と、顎下を擽る。
    つまり、俺が若を不快にさせない為にと置いた距離について、若は言及されているのだ。
    しかし、それをどう伝えれば良いのだろうか。自分が貴方に対し醜くも劣情を抱いていると気付いてしまったので、汚さない為に距離を置きましたと?ただでさえ醜く汚らしい想いを向けてしまったと言うのに、それを本人に伝えるなど出来るわけが無い。
    直ぐにでも答えるべき問いに、「あの、それは…」などと言葉にならない言葉を返し、視線が彷徨う。
    若は、美しいのだ。神の如き…いや、彼は俺の神そのものなのだ。そんな存在に、醜いものを見せたくない。
    どうしよう、どうすれば、とぐるりぐるりとまた思考が回って、言葉に詰まる。
    すると若が、今度は先程よりも大きく溜息を吐き、「グラディウス」と名前を呼んだ。
    「お前の感情くらい、とっくの昔に知っている」
    「………は、?」
    「あれほど熱の篭った敬愛が、何処にある?知っていたさ、全て。お前がおれを愛している事も、ロシナンテの事を快く思っていない事も、明らかな嫉妬を孕んでいる事も、全て」
    つい、と、唇を柔くなぞられる。
    「グラディウス……おれは全てわかった上で、お前が後をついてまわる事を許していたんだ。それを、なんだ?今更自分の感情に気付いたからと、距離をとるのか?なぁ」
    お前の事なんて、全部見通してるんだよ。
    眉間に深くシワを刻みながら、怒りを滲ませ、若はそう仰られた。
    つまり、なんだ。本当に全て、バレていたのか。感情も、理由も、何もかも。自分でも気付かなかった醜い部分を、気付いた上で、好きにさせてもらっていたのか。
    「別に、おれの傍に居ようが居なかろうが、それはお前の勝手だ。だが…おれの事を知りもしないで、おれの為だとか舐めた理由を口にするんじゃねぇぞ、グラディウス。おれはお前のその感情も、行動も、許しているんだ」
    ゆっくりと、若の顔が近付いてくる。
    言葉も状況も理解する前に、ふに、と…マスク越しに、柔らかなものが唇に触れた。
    「理解したなら、明日からはいつも通りに過ごせ。今日は休みをやる」
    組まれていた肩から腕を解かれ、その手が優しく頭を撫でる。
    過ぎていく足音と、視界外から聞こえる扉の開閉音。全てを理解出来たのは、日が傾き「お前、まだ居たのか」と若に声を掛けられる頃、で。
    「~~~~~~~っ?!?!?!?!?!」
    どろどろとした感情が、膨れ、破裂する。
    フッフッフッ!と楽しげに笑う若のお声と、自分の声なき悲鳴が、若の部屋に響いた。
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