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    お前の背後

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    お前の背後

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    注意:第五入格の二次創作なので本編とは一切関係ないものです。
    ※CP描写無しだけど「憂鬱の青🤕」と「炎の赤🤕」が兄弟設定。後半にチラっとだけしか出ないけど「厳粛な白⚰」が「魔物管理人🧲」と同じ職場設定とかいうもう闇鍋のごった煮の様なもの。「赤服の人物🤕」もちょっと出てくる。本当に好き勝手やってる空想の産物。

    むかしむかし、
    ある山近くの小屋にはとても仲の良い二人の兄弟が住んでいた。
    その兄は山の木々を颯爽と駆け回るのは得意だったが雑踏という林を抜けるのは苦手だった。
    一方、弟は人々の会話を乗り渡るのは得意だったが木から木へと飛び移るのは苦手だった。
    だから
    お腹が空けば兄は山へと食料を狩りに。
    物が必要となれば弟は街へと毛皮を売りに。
    両親を早くに亡くした二人の暮らしは決して裕福とはいえなかったが、苦手なことを分け合い、得意な事を与え合って生きていたので何一つ不自由はなかったという。
    そんなある日、弟が流行り病に罹ってしまった。
    苦しむ弟の姿を見て酷く胸を痛めた兄はありったけの金貨を抱えて街へと飛び出し、手当り次第に病院や診療所を巡った。
    「どうか弟を診てくれないか。このままだと死んでしまう」と。
    ところが、どの医者も
    「山の近くで育った野犬の様な孤児を診る時間などうちには無い」
    と異口同音に彼を突き返した。
    兄は弟の様な口達者ではない、それ故に人々からは野生児の様に見えたのだろう。街から追いやられる様に小屋へと帰った彼は途方に暮れた。
    しかし、兄は希望を捨てなかった。
    山から薬草や香草を採ってきては弟に与え続け、かろうじてその命を繋ぎ止め続けた。
    だがどんな物事にも必ず限界はある。
    病を患ってから一週間くらいが経過した頃、弟はとうとう水すら受け付けないほどに弱ってしまった。兄は狼狽し、弟を抱きしめ泣き叫んだ。たった数年の差とはいえまだ幼い弟が自分より先に死んでしまうのか、と。そして次に自身を責め立てた。何故他人との交流を学ぼうとしなかったのか、そうすれば今頃病床に伏して苦しんでいたのはこの不甲斐ない兄だったかもしれないだろうに、と。腕の中で小さくなっていく灯火を少しでも取りこぼさないよう縋りつく中、予想もつかない音が聞こえた。
    トントン。
    ドアのノック音だ。客人が今、外にいる。
    以前であれば警戒しながらも迎え入れただろう。ただ、以前であればの話だ。今の彼にそんな余裕などある訳がない。
    「誰だ、今更ここに来て」
    ドアに向かって声を荒げるが返事は無い。
    「悪いが帰ってくれ、せめて看取ってやりたいんだ」
    嗚咽が交ざったそれはもはや蚊の鳴くような声だった。
    するとそれに反応したのか、扉の向こうからこの世のものとは思えない声が響いた。
    『君の弟を治してやろう』
    例えるならば火を焚き虫を呼び寄せ焼き殺すような、誘惑を纏いそのまま手篭めにしてしまおうと企んでいるような。
    ──深淵からの手招き。正しくその様な声。
    ふと気づいたときにはもう彼はドアノブに手をかけていた。この際、悪魔でも何でもいい。邪神でもかまわない。彼を、弟を。
    「駄目だ、兄貴」
    病に魘される彼が発した隙間風の様なか細い声は扉を開ける風音に掻き消されてしまい、届くことはなかった。

    ──────────────

    気配を感じ取り、訪れた先にあったのは両者以外に愛する者がいないであろう兄弟が住む小屋。そこにいたのは実に丁度良い対象だった。今にも消え入りそうな弱々しい肉体、それに呼応するかの様に震え続ける小胆な魂。新たに見つけたこの菌株を試すのに相応しいものであることは間違いないだろう。果たして、これはこの二人にどの様な作用をもたらしてくれるのだろうか。中に招き入れてくれた兄に「薬」と称したそのカプセルを握らせ、弟に飲ませるよう指示をする。彼は受け取ってしばらくは戸惑っていたが、もはやこれ以外に選択肢は無いと悟ったのだろう。すぐに弟の元へ向かい、彼の乾いた口へ「薬」をコップ一杯の水とともに運んだ。私はその痩せた細い喉が跳ね、「薬」を嚥下するのを上機嫌に眺めていた。だが兄は藁にもすがる思いだったのか、強張った顔で見つめていた。
    再び眠りにつく弟を眺めるだけの兄に「早くて数日には効果が現れるだろう」と優しく伝え、小屋を後にする。これは慈悲や慈愛ではない。勿論、施しでもない。ただの好奇心だ。途中で一度だけ足を止め、振り返って彼らの「家」を眺める。これからあそこで起こることは私にとって間違いなくプラスになるだろう。仮にそうでなくとも進展はある筈だ。思わずその事を想像してしまい、笑みがこぼれる。あぁ、いけない。あまり笑いすぎると折角隠している気配が漏れてしまう。深く息を吸って昂ぶりをおさめる。そうして少し落ち着きを取り戻した後、右目に集う蝶達を指に絡め私は再び歩き始めるのであった。

    ──それから数年後、某街某所にて
    なあ、兄ちゃん達本当に知ってて来たのかい?
    あの山近くの廃家にはとても恐ろしい二匹の兄弟が住んでいるという話。
    その兄は山の木々を俊敏に飛び移り、迷い込んだ人間の腕を噛み千切るらしい。
    一方、弟は林を音も無く潜り抜け、助けに来た人間の足を引き千切るらしい。
    だから
    青い瞳が見えれば腕を、
    赤い瞳が見えれば足を、
    四つ瞳が見えれば命を、
    失う覚悟を持たなければならないという…
    なんだよ、そんな睨むなって!悪かった、悪かったよ。でも脅かしたくもなるさ。だって兄ちゃん、魔物管理局の人間とはいえそんなお高そうな服を纏っているからよ。しかも汚れることを想定してませんと言わんばかりの白い服ときたもんだ。もう片方の兄ちゃんはしっかり着込んでるけども…。
    ああ、ほらここだ、ここ。この山。見てるだけで背筋が凍ってきやがる。それじゃあ、俺が案内できるのはここまでだ。俺だって食われたくないんでね。それじゃあ頼むよ、街の奴らだってもう怯えたくないって言ってたしな。
    …あっ、そうだ。最後に一つだけ、これが解決の糸口になるかは知らないけどな…。
    「あの廃屋には元々、人間の兄弟が二人で住んでたらしいぞ」

    【──むかしむかし、ある山近くの小屋にはとても仲の良い兄弟が住んでいたという。
    だがその二「 」の結末は、誰も知らない。】
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