二人でひとつ、いつまでも。 ひらり、マントが舞い、キッドの肢体が屋上へと降り立った。キッドは屋上のドアを開け、目的の部屋へと駆けていく。
今夜はボレー彗星が流れる夜だった。廊下の窓から見えるソレを見てキッドは歯を食いしばりながら、標的である宝石がある真上の部屋へと来た。予め開けてあった穴を持ち上げ、そこから中に降りる。
「なっ、怪盗キッド!」
「すみませんが今夜はあなた方と遊んでいる暇はないんです」
キッドはカチャリと宝石の入っている箱を空け、中から輝きを放っているビッグジュエルを取り出すと、すぐさま上に空けていた穴から脱出した。
そのままキッドは廊下に出て、窓を破りビルから脱出した。直ぐに近くのビルに到着し、そこからジャンプで飛び移りながら別のビルに来たところで、宝石を月にかざした。
月光を受けキラキラと輝く青い宝石の中で、赤い宝石がより一層光り輝いて見えた。それはまさしく命の石、パンドラであった。
「よう、キッド。そいつを渡してもらおうか」
「嫌だね。こいつは破壊させてもらうよ」
パンドラを狙う組織は、キッドに拳銃を向ける。キッドは懐から金槌を取り出した。それを地面に置き、宝石を置こうとした、その時。
ヒュオオオオと強い風が吹き、キッドが手を滑らせ宝石が落ちる。その時、ボレー彗星が、ちょうどキッドの真上にきた。
「おいおいっ……」
キッドの目に、パンドラから流れた涙が、落ちた。キッドが思わず目を瞑ると、辺りが光に包まれる。
光が収まり、キッドが目を開けると、そこにはキッドがいた。
「え……」
キッドが二人に分裂していたのだった。瓜二つなふたりだったが、ただひとつ違うのは、片方は目が赤いということだった。
誰もが驚き、身動きを取れずにいた。それをいいことに、片方のキッドは閃光弾を取り出す。
「……取りあえずずらかるか」
逃げるぞ、と青い目のキッドは赤い目のキッドを担ぎ、閃光弾を投げ、屋上の扉を開け、降りていく。
「キッド、動けるか?ハンググライダーは使えるのか」
「え、ええ……」
そうか、と青い目をしたキッドは赤い目をしたキッドをおろし、ハンググライダーを広げ、飛んだ。赤い目のキッドもそれに続き飛び、二人は少し遠くのビルに着地する。
「で、お前、自分のことはわかるのか?」
「私は、あなたの分身です。パンドラが予期せぬ使い方をされたせいで生まれたものと思われます。そして、恐らくですが私は不老不死です」
そうか、と本体であるキッド──黒羽は俯いた。
「貴方の記憶は、存在しています。いわば私は貴方のクローンです」
「そうか、気味の悪いこった」
黒羽がそう言うと、キッドはしゅんと俯いた。黒羽はそちらに目をやり、はぁとため息をついた。
「だってそうだろ、もう一人の自分なんて」
「貴方からしたらもう一人の自分でしかないのでしょうが、それでも私はもう一人の人間なのです。そんなこと言われたら、傷つくに決まってるでしょう」
キッドが睨むと、黒羽はそうか、と申し訳なさそうな顔をした。
「それに加え貴方とは違って不老不死ですよ? 親しい人達はみな死に、ひとり寂しく生きるだなんて……想像しただけで恐ろしくて仕方ない!」
あなたの不注意で! とキッドは黒羽の胸ぐらを掴んだ。苦しそうな顔でキッドは黒羽を見るが、とうの黒羽は何も言わない。
くそ、とキッドは黒羽の胸ぐらをパッと離して、黒羽に背を向けた。
「すまなかった、キッド」
「今更遅いんですよ! 全て後の祭りだ!」
「本当に悪かった。だからさ、オレが何度でも生まれ変わって、お前と出会って、一緒に生きてやるよ!」
黒羽は、真剣な目でキッドを射抜いた。キッドは息を呑み、へらっと笑った。
「なんですかそれ、プロポーズ?」
「誰も結婚しろだなんていってねえし、オレにはオレの生活だってある……でもお前を一人にはしたくねえよ」
な、と笑う黒羽に、キッドは嬉しそうに笑った。
「ありがとうございます、快斗さん」
皮肉にも、ボレー彗星が二人を見守るようにゆっくりと流れていった。