初恋は実らないと申しますが・クロ 見つからない所へ行こうと思った。
あの人の六眼は何でも見通せる。あの人の目でも見つからない場所に逃げようと思った――。
「恵くん、今帰りかい?」
柔らかな頬を緩ませて頭に頭巾を巻いた老婆が笑う。
「はい」
「そうかい、気を付けて帰るんだよ。ああ、よかったらうちの畑でとれたモロコシを持って帰り」
そう言って老婆は皺だらけの手で俺の頭を撫でた。その優しい手つきに思わず目を細めると、老婆はさらに嬉しそうに笑った。
「いっぱい貰った。これで夕飯には困らないな」
両手に大量の野菜や果物を抱えて、木々に囲まれた坂を登っていく。隣ではクロがふさふさのシッポを振りながらトテトテと足音をたてついてくる。
そんなクロに微笑みかけて同意を求める様に両手いっぱいの荷物を見せた。
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