Dear Deer, From Moyuk -2-一九〇八年 八月四日
だらだらと流れ落ちた汗が、シャツの襟に染み込む。
「暑っつい……よく生きてられるよな、あいつら……」
思いきり顔を顰めて悪態でもつかなければ、やっていられなかった。
あれだけのことをしでかしたからには、官憲にも目をつけられる。陸奥国にて生まれ北海道、しかも極寒の網走で長年過ごした門倉にとって、逃れた先たる本州の夏はなかなかに堪えるものがあった。
八寒地獄の次は八熱地獄かよ。ぼやきながら襖を開き、
「お〜い、戻ったぞ……何だこりゃ」
誰もいない座敷の隅、机にはペンと便箋が放置されていた。見る限り日本語のようだから、マンスールの筆によるものではない。
他人の手紙だろうとお構いなしに取り上げて、興味本位で目を走らせるものの、
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