こがれた先に、火がひとつ、揺らめいている。空に輝く星のように。
その光に導かれるように手を伸ばしてみても、予想していた通りに光には届かずに指先が空を掴むだけで、改めてあれがどうしようもなく遥か遠くにあるのだと理解する。
手を伸ばす前から、あれが容易く手の届く様なものでは無いとファウストは勿論知っていましたが、それでもあまりにも美しいものですから、どうしようもなく手を伸ばさずにはいられなかったのです。
道具を自ら作り出し利用する生物は多く存在しますが、火を使う生物は人間だけなのです。人間は火を手に入れた瞬間から、他の生物とは比べ物にならないほどの繁栄を手に入れてきたのです。ですから、人類にとっては火こそが知恵の実であるとも言えるでしょう。
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