『嫉妬』いつもの様にそのあたりを燃やし尽くし、魔法石を回収する。ハンターを奴隷のように扱う新ハンター協会は、地下に住んでいる残った人々の最後の拠り所でもある。

最上は精神に限界を感じていた。築き上げた物は全て崩れ、残っているのはちり紙一枚。雨で濡らせば溶けて消えそうなほど、脆くなっていた。

そんなハンター協会も最上の様子を異常だと判断し、カウンセリングを受ける事になった。最初は鬱陶しいので断ったが、何度も何度も受けろと言われ、いつの間にか最上は頷いていた。

カサついた指先を摩りながら個室の椅子で座っていると、見覚えのある男が入ってきた。

「―――――美濃部ハンター」

「最上ハンター、お久しぶりです、随分痩せましたね」

「…貴方も、変わりましたね」

車椅子姿で入ってきた美濃部に目を丸くし、キュルキュルとタイヤが回る音が部屋に響く。

「心理カウンセラー…なんていうのは、俺は性に合わない気がするんですけどね…」

「……僕も受けるつもりはありませんでしたからね」

苦笑いする最上に、美濃部も同じく笑う。聞いていた話よりもだいぶ落ち着いていた事に、ホッとしていた。
美濃部は最上の両手を握り、微々たるマナでカサついた手を癒した。時間が経っているので、完全には治らないが、気休めになるだろう。

「………なんだか、落ち着きますね」

「そうですか？なら良かったです」

瞼を半分落とし、じっと淡い光を放つ手を見つめる。段々心身ともに落ち着いてきた所で個室のドアが思いっきり開いた。
二人同時に目線をそちらに向ければ、恐らく地上から帰ってきたばかりだろう、マスクも外さず手に血が付着していた。

「……ッ！！」

橙色の髪が一気に白くなり、猛スピードで最上の胸倉を掴み壁に背中を叩きつける。

「大虎さんッ！」

美濃部が止めようと手を伸ばすが、白川はギロリと睨みつけた。目線は最上の方に戻り、殺意の篭った目で睨みつける。
その鋭い目に最上は嘲笑う。

「なんです？嫉妬ですか？」

「黙れ」

白川は掴む手の力を更に入れると、最上の表情が歪み始める。

「邪魔、なんですよ…ッ！」

右手で白川の喉を掴み、焼き殺そうという殺意を込めながら炎を出す。

「ぐっ……！」

白川の首は皮膚がただれ、ドロリと赤黒い血を流す。一歩後ろへ下がりながら、拳を握り最上の腹に一撃を入れた。

「かは…っ！」

衝撃でよろめき、最上は壁に寄りかかった。口端からは少しだけ血と涎が混ざったのが垂れる。白川が最上に近づき、腕を振り上げ、今度は頭に狙いを定めていた。

「大虎さん！！！」

美濃部は悲鳴のような叫びを部屋に響かせた。白川は手を寸前に止め、ゆっくりと振り返ると、美濃部は車椅子から降りて、白川の足にしがみ付いていた。

「………剛」

「落ち着いて下さい、お願いですから…」

震える声に白川の表情は落ち着き、髪色も元に戻って行く。美濃部を車椅子に戻そうと抱き上げようとするが、それを拒否し、代わりに白川の火傷した喉を回復させる。

「………俺は、」

「外で待っててください、いいですか？」

「―――――」

美濃部が白川の頭を一撫ですると、部屋から出て行き再び美濃部と最上だけになった。

「随分……お熱い、ことで……」

「黙ってください、大虎さんを煽るからこうなるんですよ」

白川に殴られたお腹に回復を掛ける。若干朦朧としていたのもクリアになっていき、息も整う。

「……最上ハンター、自分を傷つけに行くのは」

「それ以上は言わないでください」

回復が終われば、最上は立ち上がりドアの方へと向かう。一度も振り返らずにドアノブを捻り出ていく途中で最上は誰にも聞こえない声量で答えた。

「分かっているんです、僕も―――――」








end