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    lunatic_tigris

    @lunatic_tigris

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    lunatic_tigris

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    元旦の寒い夜に出会った人の話。
    (自宅内、おおかみちゃんと四季)

    あけましておめでとうございます^^*

    ##エガキナマキナ
    ##egkn_奈落のハッピーエンド

    凍夜の君 気まぐれに、夜を彷徨うことが増えた。
     自分の領分ではない時間。だからこそ、そこに答えがないだろうかと虚空を見上げる。足掻いて、足掻いて、それでも一番欲しいものが見つからない。
     元旦だというのに、この有様で。除夜の鐘すら、迷いを断ち切ってはくれなかった。
     自分はずっと、ずっと、迷っている。本当に、これでいいのかと自分からも目を逸らし続けている。
     ──怖い。怖い。そうだよ、何もかもから目を背けたって、「正しいこと」に盲目になったって、この世界でそれは悪いことじゃないと誰も怒らないんだから。むしろ、肯定すらしてくれるかもしれない。ただ少し見えない苦しさが増えるだけで、周りは何も変わらない。痛いと本心を押し込んでも、歯車はずっと回り続ける。
     だって、私は──
    「──こんばんは。綺麗な子」
     降ってきた言葉に思わず、顔を上げる。
     雪も降っていないのに凛と凍るような夜の黒を背負って、花嫁衣裳のような、死装束のような白い着物を着た中性的なひとが静かに微笑んでいる。こんなに綺麗な人は、きっと人ではなくて。
     気配は確かに人のものなのに、妖しくも美しい、カミと魔性の裏表。化生の類に肉薄したモノと思わせるような佇まい。暗い水面に浮かんでいる白い睡蓮のような、纏っているその空気。
     夜の神社という場所も悪かった。夜の神社は魔が寄りやすい、と言われているから。だから、尚更分からなくなる。──このひとからは、冷たい、暗い死の匂いが漂っているから。
     芸術家は死に近いところにいる、という話がある。そう語った加々宮さんの言葉を思い出す。──一人、そういう人を知っているのだと。彼岸に擁されるように、害されるように愛された人のことを。その代わりに、人の身に余るような才能を与えられた人。きっと、それがこのひとなのだろう。
    「きみは、イタルの傍に居る子だね」
     静かな声が、そっと伸ばされた。穏やかで、深い鏡面のような瞳はずっとこちらを見ている。見透かしている。ひとを捕らえて知り尽くすまで離さない、魔性の眼。
    「ぼくは弦月ゆみはり四季。──きみも、ぼくの名前は聞いたことはあるかもしれないね。イタルからか、創務省からかは分からないけど。あるとしたらイタルかな」
     そして、独り言のようにこのひとは自分が名前を知った経路を言い当てる。それに対する反応には嫋やかに笑ってみせたけれど、きゅ、と喉が引き締まる。
     ああ、この人はどうしようもなく──虚ろで、ただそこに形があるだけで。人格という意味では生きてすらいないのだ。だって、奥にはあるべきものがない。そこに生きるための明かりは灯っていない。
     過去に存在した、その場面に相応しいシーンをまだ生きている肉体が再生し続けているような。そんな印象すら受けた。先を見ることはないとでもいうように。
    「ぼくは、きみが知らないだけで、きみのことを知っているよ。大上れい。真神まかみすえ
     だって、あそこにはきみだって居たでしょう」
     あそこ、というのはどこだろうか。
     直近で、尚且つ最も可能性が高いものは無免連の大規模なデモ活動。古いものなら、母なる金字塔の討伐。──でも、このひとが言っているのは、どれなのか。
     声に出ない、そんな疑問を拾い上げてくれたらしく、こう言葉を続ける。
    「きみのことをちゃんと見たのは、この前のデモだけど、それより前の話はイタルから直に聞いた。──まあ、原作を読んだこともあるけど」
     イタル。
     その言葉が持つ響きは、甘やかに、透き通るような優しさを持っていた。凪いだ湖面のようだった瞳に、穏やかな明かりが灯る。
    「──加々宮さんとは、どういった御関係なのですか」
    「……彼女の「先輩」だよ。ただの、ね」
     そう言って、その口元は笑みを形作る。──それが少しだけ悲しそうに見えたのは、気の所為、だろうか。
    「棄てられない底無しの善性に呑まれそうな子。ともし続ける消えない希望に磨り潰されそうな子。
     ──少しだけ、話をしよう」
     青い目が、泣きそうな程に優しい色で語りかけてきた。

         *

     意味がない、と分かっていながら誰も居ない夜中に参拝しようと思ったのだけど、どうにも、自分の気まぐれは縁を引き寄せるようだ。まるで「まだやることがある」と留めるように。
     背中に流れる長い月色の髪。瑠璃と黄金、美しい二色の瞳。苦しい、痛い、悲しい、と押し込めた奥深くで泣いている子の声が聴こえる。
     彼女を見過ごして行くことは、どうにも出来なくて。──無免連の四季ならそうするべきだろうけど、ぼくはどうしてもその選択を選べなかった。
     だって、この子が一番知りたい「答え」を持っているのはぼくだから。そこに関しては自分でも、傲慢だとは思うけど。
     だってこの子は感情が矛盾している。物事に愛着を持たず、何一つ愛さないという選択肢を選んで自分に従って生きればいいのに、彼女にはそれが出来ない。
    「きみは、どうしたいの」
     神社の階段に腰掛ける彼女に、静かに問いかける。
    「──共存は、無理でしょうか」
    「無理だろうね。利権とか、そういう「大人の事情」もあるかもしれない。けど、一度変わった思想を更に変えるのは難しいだろうね。強い「象徴」もあるし。
     それにそもそも、「そちら側」が「不健全な創作」に望んでいるのは「共存」じゃなくて「排斥はいせき」だろうに」
     返ってきた答えに対して、自分でも冷たい声が出た、と思った。
     排斥して、その先には何も残らないのに。不健全を悪だと言いながらも、陰ながら求める民衆は未だどうにかなるかもしれなくても、上が駄目なのだから立て直しにはどれだけかかるだろうか。
     ミクロ創作マクロ社会。くるくると、視野を変えながら物事を考える。蝶の羽ばたき、地球の裏側でのハリケーン。
     網の目が一つ破れたら、連鎖的に物事は壊れていく。例えば、狼がこの国から絶えた話。そこから未だに続く害だとか。
     創作だって、どんな形でも確かに歴史の足跡になっていたのに。先人は、それを全て台無しにした。将来的にこの国が地図から消えたとしても自業自得だというのが、「自分たち三人」の結論だった。まぁ、そんなことは置いといて。
     それ以上に、彼女には言うことがある。
     イタルと同じ目線に立っているなら、それは破滅と隣り合わせということだ。何せ相手は、嬉々として誰かを巻き込む破滅の支度をしているのだから。そして、時が満ちて要石が崩れれば、確実に彼女は巻き込まれる。──ならせめて、被害は少ない方がいい。一応釘は刺してあるけれど、それだって確実じゃないから。
    「それ以外には、何かないの」
     更に問いを重ねかける。
     僅かに俯いた彼女は暫く黙っていたけれど、その後に出た願いは驚くほどささやかなものだった。
    「──誰かの、傍に居たいと思いました。
     泣いているなら、その涙を拭えるものになりたい。その手を引けるものになりたい。……その背中を、押せるものになりたい」
     今、その目が見ているのは、誰なのだろうか。
    「敢えて聞くけど。それは、創務省では出来ないことなのかな」
    「はい。無理だ、と私は判断したのです。……少なくとも、デモに対してあの選択肢を選ぶようなところでは。
     そして私が「そうしたい」と思った相手のことは──きっと、あそこでは助けられない」
     ──やっぱりこの子、底なしのお人好しだ。
     人を害し、人を守る二面を持つ送り狼。本来の生き物から、人間が都合の良いように切り取ったキャラクター。それを更に都合よくしたのだから、人を害する条件は実質存在しないも同じだろう。
     ──そんな所感も置いておいて、その願いを叶えたいなら言わなくてはいけないことがある。
     あまりにもささやかだけど、その願いを叶えるには、この世界は厳しすぎるのだから。
    「先に言っておくけど。
     その先に、ハッピーエンドは待ってないよ。待っているのはバッドエンド。良くてもデッドエンド。──余程の奇跡でも起きない限りはね。
     何をどうしても、どう頑張っても、きみの行いは報われない。きみの祈りは届かない。
     きみがやろうとしていることは、そういうことなんだよ」
    「なら──何故、貴方様はそう言うのですか。捨ておけばよかったのではありませんか。
     そうすれば、勝手に私は壊れると知っているのでしょう」
    「うん。その通りだね。でも見過ごせなかった。ただそれだけだよ」
     ──本当に、それだけだよ。
    「さようなら、送り狼の大上おおかみれい。
     どうかきみの結末が、納得のいくものであるように」
     ──勝手に壊れたのはぼくだけでいい。
     どうでもいい誰かの為に傷付く必要も、理由もない。どうでもいい誰かの命を大事にする義務だってない。本心では、ぼくだってこんな世界壊れてしまえばいいと思っているんだ。これはすぐに忘れるけど。だって、ぼくがそれを許さないから。
     自分でも忘れてしまいそうなくらいこうしていたのに、今更どうやって変えるっていうの。泣いている子供の手を、誰も取ってくれなかったなんて事実も。
     イタル。きみはこの子が壊れてもいいんだろうけど、ぼくはそうじゃない。いや、この子の人格という意味ではお互い様だろうけど。ぼくだってこの子がした選択の結果、この子自身がどんな傷を負ったとしても構わないし、そこまでの興味もない。
     この話は、この夜だけで完結するものなのだし。
     ──この夜のことを、ぼくは簡単に忘れてしまうだろうけれど。何処かに必ず残っているものはある。何かの拍子で、ガラクタだった記憶が再生されるかもしれない。だから、こう言える。

     だってどうせなら、皆が一番納得の行く終わりに着いて欲しいじゃないか。
     それは誰もが認める「ハッピーエンド」じゃなくても。
     
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