最近、守沢先輩の私物が黒に染まっているような気がした。彼の好きな色は赤だったはずなのだけど....。段々と黒くなっていく私物にまたいつの間にか可愛らしい虎のキーホルダーが先輩の端末にぶら下がっているのを見てようやく確信した。
同じ流星隊の一員で、友人である南雲鉄虎が先輩を狙っていることを。
「最近、先輩の私物が黒くなっているよね。」
ちゅーっとストロベリーシェイクを啜りながら目の前で大きなお口を開けて分厚いハンバーガーにかぶりつく鉄虎くんに話しかける。
「んぐ、......先輩って?」
なんて白々しい。知ってるくせに、分かっているくせに。俺は鉄虎くんのトレーの上にあるLサイズのポテトを勝手に1本貰って、ちびちび齧る。
「守沢先輩だよ。」
そう言えば鉄虎くんは「あぁ」と言い、こちらを見ずにもう一度ハンバーガーに食らいつく。
「俺がプレゼントしたり、選んだりしてるッスからね。」
「........あの虎のキーホルダーも?」
勿論俺があげたやつッス、と鉄虎くんが言う。でもこっちなんて見向きもしないでポテトやコーラを腹に収めていく。
「ねぇ、鉄虎くん。」
「何スか?」
「.......誰に対して牽制してるの?」
ピタリとコーラを取ろうとした鉄虎くんの手が止まった。ズゴゴゴっとシェイクの底を尽き変な音を俺と鉄虎くんの間に響く、
ようやくこっちを見た鉄虎くんはニコって人懐っこい笑顔を俺に向けてくれた。
「........さぁ?」
「目が笑ってないよ、鉄虎くん......」
というか、「さぁ?」って、其れは無くない??そんなこと無いよね?最近の守沢先輩の姿は鉄虎くんの色で染まってるっていうのにさ。俺は少し鉄虎くんに対して怖いなってちょっと思ってしまった。
「当の本人、気づいてると思う?」
「翠くん。」
何って、鉄虎くんの目を見た時、俺は後悔した。ギラリと鉄虎くんの目は威嚇しているように光っていたから。言おうとした言葉なんて喉の奥に引っ込んじゃった。
「気づいてる、気づいてないなんて俺にはどうでもいいんッスよ。」
先輩を捕まえるのに、そんなの関係ないっんスよ。
ひくりって喉奥が引き攣った。
キュッと細める目にはドロドロと色んな感情が混ざってて、ソレが俺を.....いや、俺じゃない誰かを見てるようで。ソレはいつも守沢先輩に向けている視線にそっくりで。
「ぶっちゃけ言えばっスけど、」
「.....う、うん。」
「あの人を手に入れられるなら、ヴィランになっても良いかもなって思ってるんスよ」
そう言って笑う鉄虎くんは何時もの笑顔じゃなくて、ヒーローがするような笑顔じゃなかった。
知りたく無かった友人の一面を見てしまって、とても鬱になった。
いつの間にかハンバーガーを食べ終わえ、口に付いたケチャップを指で拭って、そのままペロリと舐めとる鉄虎くん。
ああ、守沢先輩。アンタ、とんでもない虎に食べられちゃうんですね。
俺は完全に溶けてぬるまってしまったシェイクの残りを吸った。