学パロ室志※クラスメイトのモブ視点

　俺のクラスには、妙に浮いた二人がいる。
席も前後で、移動教室の際も昼食の際もいつでも一緒にいて、他のクラスメイトと関わろうとしない。そもそも、彼らは二人の世界に入り込んでいるから、俺達も話しかけにくい。

　志摩野は親が社長らしく、室井とは家同士で繋がっているとか。
寡黙な室井に比べると、志摩野はまだ喋ってくれる方なのだが、正直何を考えているのか分からない。浮世離れした美人、という感じだ。
室井は、口数は少ないものの、真面目で誠実さを備えた男だ。落とした消しゴムを拾ってくれたり、会うたびに会釈してくれたりするから、きっと親切な奴なんだろう。

　とまあ、主人と従者のような関係の二人であるが、時折それ以上の関係なのではないか、と思うことがある。例えば、体育の着替えの時。
一度、シャツを脱いでいる志摩野が視界に入って横にいる室井から睨まれたことがある。別に卑しい気持ちはなかったのだが。
それ以来、二人は同じ教室で着替えなくなった。どこでいつも着替えているんだろうか。
他にも、以前珍しく二人が遅刻してきたかと思えば、同じシャンプーの香りがして困惑したことがある。
二人が親密な関係にあるのは間違いないが、これ以上詮索するのも何だか怖いのであまり触れないようにしている。

　しかし、ついこの間、俺の中でこの二人の関係性は確定してしまった。
この二人は弓道部であるのだが、俺は剣道部で、練習場所が隣であった。故に部室も近く、部活に遅れそうで焦っていた俺は、部室を間違えてしまったのだ。
「すみません！遅くなりまし………」
俺は硬直した。何故なら、見知った顔が俺のことを怪訝な表情で見つめていたからだ。しかも、室井は志摩野に覆い被さっていた。
「……部室、間違えてるんじゃないか？」
志摩野は体を起こして、シャツのボタンを留めながらそう言った。
「…ご、ごめん！！間違えた…」
志摩野の隣の室井は何も言わないが、明らかに殺気を放っているのが伝わった。
俺は気まずくなって、急いでその場から立ち去った。あの時は動揺していてイマイチ理解できなかったが、後から冷静になって考えてみると、放課後の部室で、いつも一緒にいる二人が乱れた服で共に倒れ込んでいるというのは、やはりそういう関係にあるのではないか。それに、あの時の志摩野の瞳は潤んでいた気がするし、唇も赤くチラチラと光っていたような。
あの日以来、俺は余計に二人と気まずくなったのだが、特に二人は気にしている様子もなかった。

ーーー

「…さっきの、同じクラスの高橋だよな？」
「はい。剣道部だったはずです。だから部室を間違えたのかと」
「なるほど。まあ、特に関わることもないだろうからいいか」
志摩野さんは学ランのジャケットを羽織ると、立ち上がって俺を見下ろした。
「これを機に、お前ももう少し自制することを学んだ方がいいかもな」
「え」
「大体、今日はこれを取りに来るだけだっただろ」
そう言って少し悪戯そうに笑うと、志摩野さんは忘れ物の荷物を持って部室から出て行った。
俺もハッとして、急いで服装を整えて志摩野さんを追いかけた。

「す、すみません。以後気を付けます」
「はは。ところで、今日は特に用事は入ってなかったよな？」
「はい。何も。」
「それじゃあ、駅前の喫茶店にでも寄らないか」
「ええ、構いませんが。珍しいですね」
「あの店の珈琲、好きなんだ。それに、もっと高校生らしいことをした方がいいと思って」
「…そうですね。行きましょうか」

いつも家の話ばかりしていて、すっかり大人びた志摩野さんだが、彼もまだ高校生であることに気付かされた。そして、そうした場面で彼が見せてくれる表情は、一切繕っていない彼の素顔だった。人生の中でも短くて重要な高校三年間を、彼と過ごせることに優越感を覚えつつ、
これからも近くで彼を見守っていきたいと思った。