「ラハってなにか楽器できたりする?」
その言葉は、何の脈絡もなく突然冒険者の口から飛び出した。赤い目をぱちりぱちりと大きく瞬かせながら、グ・ラハの首が傾く。
「できるって言えるほどの腕はないけど」
「全くできないわけでもないと」
冒険者の尾がそわそわと揺れるのを目の端に捉えて、グ・ラハはうーんと唸った。なにか、ロクでもないことを言われそうな気がする。そんな予感がしたからだ。
ふたりは冒険者の借りているアパルトメントの一室にいた。片方はソファで本を開き、片方は窓際の作業机で製作しながら、合間に他愛もない会話を挟む。何でもない、いつもの、穏やかな時間だ。だからこそ、突拍子のない思いつきが急に表に現れたりもする。
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