Heartfelt Memories(旧題:記憶は心の底に)⑦―降谷Side 4月―
四月に入り、赤井と降谷は中学二年生になった。
先月催された卒業式は、感動的な式として幕を下ろした。特に赤井の演奏した『旅立ちの日に』は、イントロ部分から会場にいた多くの人々の涙を誘った。
会場は中学校の体育館。ピアノもスタインウェイなどの高級ブランドではなく、どこにでもあるタイプのグランドピアノ。
特別なものは何ひとつないのに、すべてが特別に感じられる[[rb:一時 > ひととき]]だった。
優しくも切ない旋律にはじまり、躍動感溢れる音の波が広がってゆく。力強い音の奔流に、ピアノの音色が体の奥にまで響き渡るような心地がした。
演奏の技術だけではない、どこかミステリアスな雰囲気が興味を煽るのか、保護者が座っている体育館の後ろ側でも、「ピアノを弾いてる男の子は、何年何組の子?」と噂になっていたと聞いた。
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