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    のぼるさん

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    のぼるさん

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    ※読み切りごちゃまぜ謎時空もだもだ桃円(+園綾)
    かっこいい二人はいないです。深夜のテンションで書き上げている為、何でも許せる方向け。

    #桃円

    「好き♡」って言えや!『はっきりせえや』
    画面にはその文字だけが空白の中に浮かんでいる。
    環境を変えることは選べたのに、何故こうも関係は変えられないのだろうか。
    大きな溜息を、桃吾はこぼした。全身の気が抜ける、今はそんな場合では無いのに。
    座ってじっと眺めていた携帯の画面から視線を逸らす。隣の現バッテリーはそんな桃吾の様子を呆れたように眺めていた。
    「なに、円になんかした?」
    「ちゃうわアホ……」
    「うわっ辛気臭!あー……向こうから?なんか言われた?」
    「お前には教えん……」
    「なにそれ、あー心配損かも」
    「そもそもお前に頼んどらん」
    「はいはい、そうですか……」
    呆れたように顔を歪ませる相手を軽く睨みつけながら、ごろんと床に寝転がる。
    「ほんまになんやねん」
    「もう!ここでずっとうだうだ言うのやめてくんない?」
    「俺かて好きでこうなっとらん!だいたい円が……」
    「円が?」
    「それは、言わん」
    「良いじゃん。コイバナじゃないの?」
    「ちゃうわ!!!」
    違う。その通りなのだ。今現在、雛桃吾を悩ませている問題は恋の悩みであった。だが、死んでもコイツにだけは相談したくはない。
    「恋バナしたいのはお前の方ちゃうんけ」
    「は!?誰とのだよ!」
    勢い良くグイ、と顔を寄せてくるのはもはや相手が浮かんでいる証拠やろ、と頭の中で呟く。そうして、確信的ににやりと笑いながら答えを返した。
    「そりゃ、あのバッターの」
    「大和はそういうのじゃないだろ!」
    「そうか?」
    食い気味にムキになって否定している綾瀬川をハッ、と鼻で笑うと余計に苛立ちげな顔に変わる。
    「残念だけどアイツはそういう風に考えないよ」
    「そうか?」
    「そうだよ。だって、アイツの第一は野球だろ」
    「それはお前もちゃうんけ」
    「そうじゃなくて……アイツはもっと人生に食い込んでるというか」
    違うんだよなぁと、くしゃくしゃと頭を掻く姿をじっと見つめる。コイツも難儀で面倒なもんだ。決して人のことをとやかく言える立場ではないが、ぼんやりとそんな風に感じる。
    似ても似つかぬ相手に対して、煮え切らない。というよりは、答えを出すことや今の関係を変えるきっかけは作れないのだ。まあ、コイツの場合はシンプルにひねくれている所が邪魔をしていて、相手が非常に鈍感であることも理由にあるだろうが。
    そんなことはいいのだ、問題は今の自分だ。このままでは非常にまずい。円との約束だって、微妙な感じの雰囲気になってしまいかねないのだ。そんなことは死んでも避けたい。
    ただ、俺もアイツも……意地を張っているのだ。
    お互いが恐らく恋愛的な意味で好きだと察している。だが、自分から言うのは癪だ。ちょっとだけ、負けたような。いや、恋愛に勝ち負けは無いのだが……ただ、何故か告白した方が何かに折れたような気が勝手にしてしまう。
    そんな感情のまま、起こったのがお互いから告白をどうにか引き出そうというメールのやり取りなのだった。平安貴族か。
    今時遠距離でもこんなことしないだろ、というような人には見せづらいやりとりで、お互いへの感情はもう確信の域まで来ているものの……直接言っていない。
    それが続いた結果、円がついに痺れを切らしたのだ。『告白して来い』という方向で。
    内心、「そっちかよ!」と返したいところではあるが、その前の自分のやり取りを思い返せば何も言えない。
    いつもなら「!」や絵文字がついているようなメールには、なにもついておらず。無機質な文字だけが短く記されているだけ。円のことも知っている綾瀬川が見たら、ドン引きの眼差しでこちらを見つめるのだろうと容易に想像できた。
    改めて深くため息をつけば、いい加減にしろと言いたげな視線が横から飛んでくる。
    「マジ、その状態で色々集中出来るとは思えないんだけど?どうすんの?」
    「どうするって……」
    「さっさと解決した方が良いんじゃないの、お前の場合」
    「んなこと分かっとるわ」
    「ならやりなよ。別に今日はもういつ終わってもいいんだし。さっさと帰んな」
    しっしと払うような仕草をしてくるが、コイツなりの不器用なエールでもあるのだろう。
    その証拠のように、彼は去り際にぽつりと俺に投げかけた。
    「まあ、なるようになるんじゃない?お前ら」
    「……どうやろな」
    「そういうの、俺は良くないと思うけどね。ま、お疲れ」
    ひらひらと手を振ってそのまま特に何も言うことなく、彼は自分自身のことに集中するようだった。
    「余計なお世話やねん」
    などと悪態をつきながら部屋を出る。聞こえているのかは分からなかった。

    円の事を、友人としてではなく好きだと気が付いたのは多分自分から離れた土地で、彼の行く先を照らすために進むことを決めた時だったと思う。多分ずっと、もっと昔から好きだったのだろうとは思うが。
    居るだけでパッと周囲が明るくなるような男だ。その一言で、空気もがらりと変わるような……それが少々悪い時もあるが。
    アホな奴ではある、でもそれだけではない。周りもよく見ていて、こいつの為ならなんだってやれる。本気で今でもそう思っている。
    そう思っていることも、好きだと伝えるには邪魔をしてくる。こういうところは自分でもアホらしいわ、と思いはする。だが、感情なんてもんは単純ではないのだ。「アホらしい」で一蹴するには長い期間積もり過ぎた。
    『一番なのは円』だと思っているのはずっと変わらないし、同じように考えるのは大いに結構だ。だが、問題なのは俺よりもずっと一緒にいた期間が短い癖して円のことを理解したようにしてくる奴だった。
    今回の円のあのメールに至った経緯だってこういう自分に起因している。嫉妬だ。わかりやすい嫉妬。別に付き合っているわけでもない。残酷な言い方をすれば、ただの幼馴染にしか過ぎない奴のしょうもない嫉妬だった。恐らくタイミングも悪かった。
    そうやって、最悪が積み重なった結果の今だった。考えれば考えるほど弁明の余地はない。脳内では夜にやっている刑事ドラマのベタな取り調べの様が浮かんでいる。かっこ悪い事この上ない。
    ここから挽回するには正直にもう告白するしかないことはわかっている。ドラマチックさの欠片もないが、ストレートに言うしかない。まだ完全に愛想を尽かされているとは思い難い。チャンスは一回。ただ気にかかることは一つある。
    「円がどんだけキレとるか……」
    文体だけでは伝わらないそこが、ただ気がかりであった。
    悩んでいても、ただ時間は進んでいくだけ。今日中に伝えるには残された時間はあとわずかだ。
    ここで言わなければ、もしなあなあにしてしまったら一生好きだと言う機会を円から与えられない気がした。正確には、円が『なかったこと』にするんじゃないかとぼんやりと感じていた。確信なんてものはないけれど、きっとラストチャンスだ。
    悶々と悩む思考を切り裂くように、電話の着信音が響いた。

      *   *
    巴円は腹を立てていた。遠く離れた誰よりかけがえのない幼馴染に。そして、長いこと片思いをしている相手に非常に腹を立てていた。
    「そこまで思うんやったら、そろそろ言ってこいっちゅうねん!」
    机に突っ伏しながら唸る様に吐き出す。誰に聞かせるわけでもなく、ただ心のモヤモヤを発散する。それでも晴れることはないけど。
    「……桃吾にも、言いたかったタイミングとかあったんやろか」
    メールを半ば衝動的に送ってから数時間。情緒がふわふわする時間が続いている。
    元はといえば桃吾だ。いや、そんな風に責任を押し付けるのも悪いとは思うけれど。だけど、今回ばかりははっきりしない癖に
    色々言ってきた桃吾が悪いと言わせてほしい!
    そもそもこちらは多分、桃吾が自覚したであろう時期よりも先に好きだと自覚していたのだ。純粋に友人として向けられる好意に、いつか気付いてくれないかと淡い期待を寄せて。ちょっとしたことにドキッとして、気づかれまいと振舞って、そうしたら何年経った?見事に中学三年生。そしておそらく、色々あった時期に桃吾も好きだと思ってくれたのだろう。そこで告白していればよかったのだろうか。
    ただ、そうやってあの頃自分から告白することは憚られた。どこか、そうすることで桃吾を縛るような気がした。ただでさえ、いつだってアイツは自分の事を沢山考えてくれているのだ。これ以上欲張るのは良くないなんて思っていたのだ。
    まあ、そんな遠慮はある意味必要なかったのだが。
    「……そんだけ好きに言われとうないんやったら、自分のモンにすりゃあええじゃろ」
    腕の中にぐりぐりと頭を押し付ける。今思ってることをそのまま言えば良いことはわかっている。だけど、桃吾からやっぱりはっきりとした言葉が欲しいのだ。自分から桃吾の心が離れるなんてないだろうなんて慢心もある。それはきっといつか手痛いしっぺ返しを食らいそうだと思っているけれど。
    「ほんま、アホやなあ。ワシもアイツも……」
    さっさと言ってしまえばよかったのだろう。それをずるずると引き摺って、相手に先に言わせようとしたからこんな掛け違いが起こっているのだ。
    「ちゃんと、腹括らんとアカンな」
    ふう、と小さく息を吸って。小さくパチンと両頬を叩く。
    いつものような調子で、こちらから電話をしたら良いはずだ。
    そうすれば、きっと大丈夫。桃吾の様子が変だったら、言い過ぎたと謝って、また何もなかったように過ごそう。その時は、もう一生告白できない気もするが。そうならないようにそっと祈りながら桃吾の連絡先を選択しようとしたところで、『桃吾』の文字と着信音が液晶に大きく映し出された。

    慌てて着信を取る。恐る恐る耳に携帯を当てる。
    「円?」
    桃吾の声がする。当たり前のことだが、特段変わったような様子はない。強いて言うなら、少し緊張しているようなくらいの変化だ。無理もないな、とぼんやりと思った。
    「おう、どうした?……って、メールのことやろ?」
    「それは、そうなんやけど……泣いてへんか?」
    「は???」
    全く意図してなかった問いかけに、素っ頓狂な声が飛び出す。一体何を言うとるんや、と一人脳内でツッコミつつ桃吾の言葉を待つ。
    「……なんや、別の奴から聞いたっていうんは、ズルいんわかっとるんやけど……今日のメールの後、お前の様子やっぱ変やったって聞いて。電話しようって思っとったけど、なんや、その話聞いてアホやと思うんやけど……なんも考えんと電話してもうた」
    「……大和やな?まあそこはええけど。つまりは考えとらんってこと?」
    「…………おん」
    消え入るような小さな返答だった。弱弱しいその反応に思わずぷっと吹き出す。えらい可愛らしい反応だ。
    「フフ、お前、混乱したまま今何言うとるかわかっとらんな!」
    「なんも分からん。頭真っ白や……」
    「これで俺が泣いてたって言うたら、余計真っ白になりそうじゃのう」
    「泣いたんか!?」
    「そこまで乙女ちゃうで。なんやと思っとんねんワシを」
    「いや、それほど円の事傷つけたかもしれんって、改めて考えたら……」
    「まあある意味傷ついたかもしれんなあ……なんや、責任取るみたいな言い方やのう!」
    冗談半分で少しからかうつもりでハハハと笑ってみたら、電話口の向こうからスッと息を吸うような音が微かに聞こえた。
    「……桃吾?」
    「取る、責任」
    静かに一言、はっきりと言い切った。
    「……円のこと好きや。やから、責任取る」
    言葉をひとつひとつ引っ張り出すかのように、出会った時よりも随分低くなった桃吾の声が響いた。
    少しだけ、脳の処理が追い付かない。ずっと待ちわびていたし、もしかしてなんて期待はしていたけれど。思っていたよりもこういう時は上手く反応できないものなんだな、なんてどこかとおいところから俯瞰するように考えてしまう。
    反応がないからか、桃吾はそのままぽつりぽつりと続ける。
    「ずっと言えなくてすまん、ずっと好きやった。もっと前に、ちゃんと伝えるべきやった」
    ぎゅっと、喉を絞めるような桃吾の声がした。
    「……アホ!ごめんちゃうやろ!お前は、ワシと付き合いたいんか!?ただ言うだけでええんか!」
    「なっ……んなもん付き合いたいに決まっとるやろ!」
    「ほんなら、ただ「好き♡」で十分やろ!何年待たせんねん!」
    「せやからもう待たせんように!もう何回やって言うたる!好きや!」
    テンポの良い、前のめりのやり取りにはドラマチックさの欠片もない。むしろ泥臭いような、その上ベタな内容だ。人によってはアホらしくて敵わないと匙をなげそうなもの。だけど、そんなやりとりに思わず自然と笑顔がこみ上げた。
    「……はは!ほうか……ちゃんと桃吾も、好きなんか」
    「返事は?」
    「せっかちやなあ……決まっとるやろ、好きやって!」




    「……で、わざわざ桃吾に円のこと連絡したって?」
    『そうです。あかんかったやろうか……』
    「いや、まあお前が逆に様子連絡するくらいが良いんじゃない?」
    『ええんならそれで。でも、ほんまに巴さんなんや泣きそうやったから……えらいことやと。んでみんなアレは桃吾さん関係やろって』
    「あいつのそこまで貫通してるの逆に恥ずかしくないの?」
    『慣れとるんやと思います。先輩たちは』
    「まあ、これで落ち着くとこには落ち着くだろ」
    『綾さん、思っとるより面倒見るんやなあ』
    「誰かさんが無謀に連絡するからだろ」
    『まあ、明日また巴さんの様子連絡しますわ』
    「いらねえよ。絶対桃吾の反応でわかる」
    『……電話、したらあかん?』
    「…………自分で考えろ、バーカ!」
    返答を待たず、ぷつりと電話を切る。こっちの愛すべき大馬鹿者はいったいいつになったら好きだというのだろうか!
    【完】



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