ファウストデレラ昔々ファウストデレラと継母と二人の義姉がいました。
継母と義姉はとても意地悪で、毎日ファウストデレラを虐めていました。
「おい、埃が残ってんぞ。ちゃんと掃除したのか?」
最近気だるげな料理人の彼に振られた次女、ブラッドリー。
「甘くて白くてドロドロしたやつ、早く作ってよ」
騎士見習いに相手にされてない長女、オーエン。
「お腹空きました、とりあえずなんか作ってくださいよ」
再婚相手を放って、若い金髪の少年に夢中の継母、ミスラ。
「君たちは…少しは自分でどうにかしようと思わないのか!?」
父が再婚したせいで忙しく働いている少女、ファウストデレラ。
ファウストデレラはいつも三人に我儘を言われ、忙しく日々を送っていました。
オーエンに言われた生クリームを泡立て、オーエンの顔面に投げつけ。
ミスラに言われた肉料理を作り、やはり顔面に投げつけ。
ブラッドリーに言われた箇所を掃除し、雑巾を顔面に投げつけ。
忙しく健気に毎日を送っていました。
「ねえあいつヤバくない?」
「俺様たちの顔面に投げつけてきたぞ」
「顔あっついんですけど」
ある日お城から舞踏会の招待状が届きました。その舞踏会にはフィガロ王子もお見えになるようで継母たちは早速用意を始めました。
「行きたくねえ」
「なんで好き好んであいつに会わなきゃいかないわけ?」
「欠席していいですか?」
欠席すると王子の先生役の二人の双子が突撃してくることを知っている継母たちは、仕方なくドレスの準備をしました。
「ねえファウストデレラ、僕の代わりに行かない?」
「はっ?嫌だけど」
「拒否の返答が早すぎるんだけど」
仕方なく馬車に乗り込んだ継母たちは「ファウストデレラって言いにくくない?」「しょうがねえだろ、話的に」とぶつぶつ言いながら舞踏会に向かいました。
ファウストデレラが一人家で待っていると、金髪美少年の魔法使い、ヒースが現れました。
「いつも頑張っているファウストデレラを助けてあげます」
魔法使いが杖を振ると辺りは光に包まれ、綺麗なドレスを纏ったファウストデレラとカボチャの馬車が出てきました。
魔法使いは微笑んで言いました。
「魔法は十二時までです。それまでにお城から帰ってきてください」
「いや、僕は行かないよ」
「…………」
辺りが静寂に包まれました。魔法使いはなんで?と頭に疑問符を浮かべていました。
「え、っと…理由をお聞きしても?」
「僕は陰気な引きこもりだからね、そんなところ誰が好んで行くもんか」
「そんなこと言わずにお願いします!多分きっと恐らく楽しいですから!」
「多分とか言われると信じにくいんだが」
あまりの魔法使いの必死に説得にファウストデレラは仕方なく、本当に仕方なくお城に行くことに決めました。
よかった……、と安堵の息を漏らした魔法使いは最後にガラスの靴をくれました。
ファウストデレラは嫌だ、と思いながらお城に着きました。
向こうから他の令嬢や令息を押しのけズカズカと近付いてくる、素敵なフィガロ王子がやってきました。
「よかったら俺と踊らないかい?」
「はっ?」
「普通に傷付くんだけど」
「ちょっとファウストデレラ、こっち来てください」
チョイチョイと手招きするミスラに近付くと、ブラッドリーに肩を組まれ強制的に耳打ちされる。
「お前、あの王子に媚び売ってこい」
「嫌だよ」
「あいつが自分から近付くほどお前が好みだったんでしょ、いいから行ってこいよ」
「上手く出来るまで家に入れませんから」
継母と義姉二人に言われ、ファウストデレラはしょうがなく王子の手を取った。
王子は嬉しくて顔を綻ばせていたが、ファウストデレラの顔は見たものが分かりやすい嫌々という顔だった。
するとゴーンという鐘の音が響き渡る。十二時の鐘の音だった。
「大変だ、僕は帰らなくては」
「えっちょ、ファウストデレラ!?」
「その呼び方本当嫌なんだけど」
面白いほどの棒読みで王子の手を振り払い階段を駆け降りるファウストデレラ。
その階段の途中で靴を片方落としてしまいました。
次の日お城の使いの眼鏡のかけた大男、レノックスが家に来ました。
「王子様はこの靴の持ち主と結婚します」
「あぁ、彼女ですね」
「よかったな、ファウストデレラ」
「玉の輿だね、おめでとう」
「やめろ僕を押すな、ふざけるな」
レノックスの前に出されたファウストデレラは不機嫌そうにレノックスを見つめる。
「では、この靴は貴女のでしょうか?」
「……違うけど」
「そうですか、では」
レノックスは靴を置き、ファウストデレラの前に片膝を着き手を取った。
「どうか俺と、結婚してください」
「……えっ?」
「ちょっとレノックス?」
何処からともなく現れたフィガロ王子が二人の手を引き離す。
急に現れた王子にファウストデレラは驚き、継母と義姉二人は嫌そうな顔をした。
「お城で待機のはずでは?」
「なんか嫌な予感がして来てみれば何〝俺の〟姫を口説いてるの?」
「しかしこの人は、人違いと言っていますし」
「靴を合わせれば分かる話でしょ。それとも俺の姫を横取りしようって?」
「横取りというか、まだフィガロ様の姫になっていませんし」
自分を置いて二人だけで話を進めることにイライラしだすファウストデレラ。
継母と義姉は自分たちに火種が飛ぶ前にさっさと家の中に入ってしまった。
「おい、僕を置いて話を進めるな。僕はお前たちのモノになると言っていないぞ」
「では俺とフィガロ様、どっちも……ではダメですか?」
「話を聞いているのか、大体王子であるこいつが使いの君と共有なんて嫌がるに決まってるだろ」
何を言っているんだこいつは……。ファウストデレラは溜め息しか出なかった。
きっとフィガロ王子は怒って騒ぎ出すだろう。そう思っていた。
「えぇ?いいの?」
「その満更でもない顔やめろ」
「では、そのように手続きしておきます」
「少しは僕の話を聞けー!!」
こうしてファウストデレラは、フィガロ王子と使いのレノックスと三人、幸せに暮らしましたとさ。
めでたしめでたし。