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    わかめ

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    わかめ

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    鶯樹の誕生日に書いたやつ

    鶯樹の誕生日/鶯皇「俺は青空が好きだ。」


    9年前の蒼へ向けた言葉、今でも覚えている。
    いや…正確には最近思い出した、…だが、思い出せるぐらいには記憶の脳裏にあったことがとても嬉しく思う。

    蒼に出会ったのは小学校の四年生からで、そこから二年遊んだり話したりして親しくなったけど、俺の卒業を境に連絡を取らなくなった。
    あの時の俺は両親を失い、姉と弟の3人で暮らすために都心部の方に引っ越していた。それが原因だったが、今思えば手紙のやり取りでもしておけばよかったと後悔している。
    まぁ、それが出来る心境ではなかったけど。

    あの時の蒼は表情も固く、ぎこちなく話してくれて、時折見せてくれる笑顔も下手くそだった。
    俺はお前と話す度に「蒼の笑った顔が見たい!」って気持ちが溢れて、その感情のまま突っ走ってたと思う。だから正直、変なやつに絡まれたとか思ってんだろうなって感じてたけど、そうじゃないってわかってすごく嬉しかったのを覚えている。


    「今日は12月3日…か。」

    兄弟部屋に飾られているカレンダーを見て一言。
    実家のカレンダーなら間違いなく赤い丸でチェックされ、"鶯樹の誕生日"と書かれていただろう。
    去年は兄弟部屋に引きこもっていたので、俺の誕生日を祝ってくれたのは同室の子規だけだけど、今年はそれなりには祝ってもらえそうで…もう既に嬉しく感じている。

    今日は部活が無く、通常の下校となるわけだけど…今は蒼に呼び出されて屋上に来ている。
    当の本人はまだ来て居なくて、俺は待ちぼうけだ。

    「もうすっかり暗いな。」

    12月の空は時間が経つにつれて、日が落ちるのが早い。俺の好きな青空を見る時間が減り、闇が空を黒く染めてしまうのだった。

    「俺は、蒼と見る青空が好きだ。」

    9年前のあの時の自分に重ねて、今言うとしたら俺はこう言うんだろう。
    屋上で蒼と過ごした3年は濃厚とも、淡白とも言えない時間だったけど、俺が彼のことを変えたいと夢見るほどには、詰まっていたと思う。
    彼のぎこちない笑顔を最高の笑顔にしたい、蒼が心から幸せそうに笑うのが見てみたい。
    なんで蒼に対してそう思ったのかは今ではよく覚えてないけど、それはきっと蒼を好きになる為に必要なことだったと、都合よく自己解釈している。

    「おせぇ〜な。」

    一向に来る気配がない屋上のドアをぼうっと眺めて5分程、静かにドアが開かれた。

    「僕が呼んだのに遅くなってごめんねぇ…?」

    蒼は俺を見るなり申し訳なさそうに謝ってきた。

    「あまりに遅いから手が凍るかと思ったわ。」

    少し意地悪に笑って蒼の頬を俺の両手で挟む。
    俺の手の冷たさに蒼は一瞬だけ目をぎゅっとつむった。

    「本当だ、すごく冷たい。」

    「蒼はあったけぇな。」

    「そうかなぁ?」

    ずっとこうして暖を取るのも良いけど、風邪を引いたらまずいので手は自分のズボンのポケットに閉まった。

    「それで、話って何?」

    俺が問いかけてすぐ、蒼は満開の笑顔で「鶯樹先輩お誕生日おめでとう!」と背後に隠して居たプレゼントを前に出して、両手に持ちながら言ってくれた。
    今日1番の笑顔に思わず心が奪われる。
    この笑顔をずっと見ていたい、俺だけに向けていて欲しいと思うのは欲張りだろうか。

    「………ありがとう。」

    「えへへっ、中は部屋で見てほしいなぁ!」

    蒼は照れながらも笑顔でそう言った。
    再会してから蒼はよく笑うようになっていた。
    それが嬉しくもあり…なんだか寂しくも感じている。
    もう蒼を笑わせると言う夢が叶い、目標を失ったような…そんな感じだ。

    「先輩…どうかしたのかい?」

    考え事をしていたからか、笑顔に見とれていたのか…返事のしない俺の顔を覗き込む蒼。
    手を伸ばせばすぐに届きそうな距離だった。

    「別に。」

    そう言う俺をまた覗き込むように見る蒼。
    少しだが、さっきよりも距離が近い。
    蒼は時々無意識にこう言うことをしてくるけど、俺が蒼のことを好きだとちゃんと理解しているのだろうか。

    「蒼、キスして良いか?」

    突然俺がそう言うもんだから蒼は一瞬固まって、すぐに林檎みたいに顔を赤く染めた。
    そして赤くなる顔を隠すかのように彼の両の手は自身の顔を覆ったのだ。

    「だっ、……………だめっ!…じゃ…ないけどっ。」

    小さくも震えているその声が、とても愛おしい。
    まぁキスが彼にとってハードルが高いことは知っていたけど…この溢れんばかりの愛おしさをどう消化してやろうか。

    「じゃあこれで勘弁してやる。」

    俺は蒼の方へ一歩前に出て、両手を蒼の背中に回した。
    蒼は少し驚いているようだったけど、遠慮がちに俺の背中に手を回してくれた。
    それに、少しだけ早い鼓動が速度を増すかのようにうるさく脈打った。これは俺のか…、蒼のか。

    「蒼、好き。」

    短く、はっきりとそう伝えると抱きしめられる力が少しだけ強まり嬉しい。

    「僕も…、好きだよぉ。」

    精一杯の声を振り絞るように告げられたその言葉で愛し愛されるのはこんなに幸せなものかと、俺の心が満たされていく。

    「なぁ、来年も…再来年も、この先ずっと祝ってくれよ。」

    きっと来年、再来年はもっと蒼のことが好きになって行くだろう。
    これでいてまだ伝えることが不安なこともあるし、全ては言葉にして言えないけど、好きだと強くそう思ったその度に俺の言葉で、ちゃんと蒼に伝えていきたい。

    「うん、この先もずっと…祝いたいな。」

    「ん、ありがとう。俺も…来年こそはちゃんと祝うからな。」

    「…約束だよぉ。」
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